ルビコン河で溺れる韓国
中韓首脳会談を木村幹教授と読む(1)
鈴置 高史
米国からイエローカード
中韓首脳会談を前に中国のテレビ局からインタビューされた朴槿恵大統領は「慰安婦問題」を徹底的に強調、支援を求めました。というのに、なぜ「反日共闘などしていない」と言い張るのでしょう、韓国人は。
木村:米国から「イエローカード」が渡されたのでしょう。集団的自衛権にしろ、歴史問題にしろ、中国との反日共闘は自制しろ、という強いメッセージが伝えられているように思います。そこで「それは誤解だ」と強調することになっているのでしょう。
そう言えば鈴置さんも、この点について「韓国を見る米国人の視線が険しくなっている」という記事を書いておられましたね(「『先祖返りした韓国』を見切る米国」参照)。
鈴置:韓国の指導層にも「イエローカードを渡されてしまった」という共通認識ができていました。「韓中首脳会談で下手を打つと、今度はレッドカードだ」との思いもありました。この首脳会談を前に「離米従中」への懸念を表明する記事が増えていたのです。
そこに、朴槿恵大統領のあの発言。保守にすれば、冷や冷やしながら見ていた分だけ落胆の度が大きかったのだ、と彼らから聞きました。
さて、対立を深める米中両国が、ここ数カ月の間に様々な要求を韓国に突き付けました。そこで「米中星取表」を作ってみました(表参照)。米中対立案件で、韓国がどちらの要求を受け入れたかを一覧にしたものです。
(○は要求を呑ませた国、―はまだ勝負がつかない案件。△は現時点での優勢を示す。2014年7月9日現在)
案件 | 米国 | 中国 | 状況 |
---|---|---|---|
米国主導の MDへの参加 |
● | ○ | 中国の威嚇に屈し参加せず。代わりに「韓国型MD」を採用へ |
日米韓3国の 軍事情報交換 |
▼ | △ | 4月の米韓首脳会談でいったん合意。しかし中国の脅しで実現に動けず |
在韓米軍への THAAD配備 |
― | ― | 韓国国防相は一度は賛成したが、中国の反対で後退 |
米韓合同軍事演習 の中断 |
○ | ● | 中国が公式の場で中断を要求したが、予定通り実施 |
CICAへの 正式参加(注1) |
● | ○ | 正式会員として上海会議に参加。朴大統領は習主席に「成功をお祝い」 |
CICAでの 反米宣言支持 |
○ | ● | 5月の上海会議では賛同せず。米国の圧力の結果か |
AIIBへの加盟 (注2) |
△ | ▼ | 米国の反対で7月の中韓首脳会談では表明見送り。ただし、継続協議に |
日本の集団的自衛権 の行使容認 |
● | ○ | 7月の会談で朴大統領は習近平主席と「各国が憂慮」で意見が一致 |
(注2)中国はAIIB(アジアインフラ投資銀行)を、米国と日本が力を持つADB(アジア開発銀行)への対抗馬として育てる計画。
その場しのぎで右往左往
木村:これは面白いですね。「米国主導のミサイル防衛(MD)への参加」。4月にはオバマ大統領を韓国に送って「米国とともに歩もう」と呼び掛けたのに、朴槿恵大統領は耳を貸さなかった。だから、米国が黒星「●」ということですね。
「日米韓の軍事情報交換」はその米韓首脳会談で合意したのに、韓国はぐずぐずして未だに応じない。だから米国は▼で、中国が△――。
「アジア信頼醸成措置会議(CICA)での反米宣言支持」は、マイケル・グリーン氏の記事によれば「韓国は中国の求めに応じなかった」とあります(「『先祖返りした韓国』を見切る米国」参照)。でも本当は、米国から警告を受けたので支持をやめた可能性が大ですよね。
鈴置:ADB(アジア開発銀行)潰しのための「アジアインフラ投資銀行(AIIB)への加盟」問題。韓国は今回の中韓首脳会議での表明は見送りました。
米国が猛烈に圧力をかけたからです。でも、朴槿恵大統領は拒否したわけではなく「もう少し研究して決めます」と先送りしただけ。
強く言ってきた国にとりあえずは従っておく。反対側の国がそれを怒ってきたら、今度はそちらに従うふりをする――というパターンが多い。
まさに右往左往ですね。