ルビコン河で溺れる韓国
中韓首脳会談を木村幹教授と読む(1)
鈴置 高史
もう1カ所で虎の尾
鈴置:表面的には対立案件ではないので星取表には入れませんでしたが、今回の会談で、米国という虎の尾を韓国はもう1カ所で踏みました。人民元とウォンを直接交換する取引の開始です。
韓国メディアは何の疑問もなく「韓中関係増進の証」「取引コストの軽減につながる」と称賛して書いています。
しかし、米ドルをアジアから締め出す中国の陰謀の一環と米国は見なすでしょう。「軍事同盟を張りめぐらす米国を、アジアから追い出す」CICAの通貨版なのです。
ちなみに日本も、民主党政権時代に円と人民元を交換する仕組みを導入しました。当時、国際金融界では「日本は米国にケンカを売るつもりか」と驚きが広がりました(「円も人民元に吸い込まれる」参照)。
民主党政権の日本が、どんなに頑張っても円高修正できなかったのは、これにより米国の怒りを買ったのが一因と言われています。今回のウォンと人民元の直接交換で、米国は韓国に何らかの報復をすると見る専門家もいます。
AIIBでも、米国は相当に強い言葉で韓国を脅したようです。6月28日の中央日報の「中国主導のアジアインフラ投資銀行 米国が韓国の加盟にブレーキ」(日本語版)では以下のように報じています。
在韓米軍削減カード
- 米国政府は今月初め、在韓米国大使館を通じて「韓国のAIIB参加に深い懸念(deeply concern)を表明する」という立場を韓国政府に通知した。
- 「AIIBは中国が政治的に悪用する可能性が高い。韓国がAIIBに加盟する場合、(米韓)両国が築いてきた友邦としての信任度が影響を受けることになるだろう」という点も明示した。
「友邦としての信認度が影響を受ける」とは?
木村:「米国の利益に従って行動しない国からは、軍隊を撤収することだってできるんだよ」との、強いメッセージに聞こえます。
米国は作戦統制権の返還カードを握っています。返還の期限は2015年12月。2014年4月に「延期を話し合う」ことで米韓は合意しましたが、いつまで延期するかはまだ決まっていません。
韓国軍の戦時の統制権が韓国側に戻れば、米国が在韓米軍を大幅に削減する可能性がある。米国が「中国の言いなりになるなら、予定通り2015年に返還するぞ」と脅すだけで、韓国は米国に「NO」とは言いにくくなってしまいます。