ルビコン河で溺れる韓国

中韓首脳会談を木村幹教授と読む(1)

鈴置 高史

大統領の暴走?

木村:私は2番目と3番目が合わさって、突然に風向きが変わったのではないかと推測しています。少なくとも予定の行動でなかったと思われる傍証がいくつかあります。

 例えば、青瓦台が「反日共闘」を発表する直前に、外交部の趙太傭(チョ・テヨン)第一次官は韓国のテレビ番組に出演し「日本の好ましくない行動に対して中韓首脳は多くの会話を交わしたが、これを外部に晒して協調するのは望ましくない。結果として韓国の活動空間を制限してしまう側面もある」と語りました。予定の行動だったら、政府高官がわざわざこんな発言はしないと思います。

鈴置:なるほど。ただ、その“証拠”は同時に、青瓦台と外交部の足並みが乱れている証拠かもしれませんね。

木村:確かに、尹炳世(ユン・ビョンセ)外相は別として、外交部の上層部と朴槿恵大統領の間には相当な温度差があるようです。

 そしてこれも、朴槿恵政権への不安感を国民に抱かせる原因になっています。大統領にリーダーシップがあれば、こうした温度差が表に出ることはないからです。

 しかし、この政権ではこの温度差が誰にでも分かる形で露呈してしまっている。結果として、大統領が暴走しているという印象を与えています。

仁川空港のマニュアル

先ほど「韓国は反日共闘に消極的になっていた」と木村先生も鈴置さんも指摘しました。韓国は日本に対し「俺の後ろには中国がいるぞ」と恐ろしく強気だったはずですが。

木村:今年5月頃からでしょうか、韓国の論調が大きく変わってきました。と言ってもここでの論調とは、政府関係者や研究者の論調です。つまり「韓国は中国に傾斜などしていない、依然として米韓同盟を最重視している」と一斉に主張し始めたのです。

鈴置:私も同じ体験をしました。6月上旬にある韓国人が東京で開かれたシンポジウムで「中国との『反日共闘』など、誤解も甚だしい」と言い出したのです。

 聞いた人は皆「でも、伊藤博文を暗殺した安重根の記念館は、朴槿恵大統領が直接、習近平主席に頼んでできたはずだけど……」と首をひねりました。

 するとこの韓国人はその疑問に先回りするように、こう答えたのです。「韓国側は小さな銅像を望んだに過ぎない。すると中国側が大きな施設を作ってしまったのだ」。

 別の韓国人から、全く同じ言い訳を聞かされた日本人や米国人がいます。仁川・金浦空港の出国カウンターには「外国人と『反日共闘』『離米従中』の話になったら、こう答えろ」というマニュアルが貼ってあるのかもしれません。

著者プロフィール

鈴置 高史
鈴置 高史
日本経済新聞社編集委員
1977年、日本経済新聞社に入社。ソウル特派員(87〜92年)、香港特派員(99〜2003年と06〜08年)などを経て、04年から05年まで経済解説部長。02年度ボーン・上田記念国際記者賞を受賞。
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