ルビコン河で溺れる韓国

中韓首脳会談を木村幹教授と読む(1)

鈴置 高史

「離米」に上がる悲鳴

鈴置:朝鮮日報も5日の社説「現実になった米日中の朝鮮半島覇権争い」(韓国語)で、中国に引き込まれる危険性を訴えた。

  • 大韓民国は重大な岐路に立つ。習主席の訪韓と、日本の北朝鮮への接近で朝鮮半島を取り巻く周辺国の覇権争いは遠い未来のことではなく、我々の目の前で展開される現実のものとなりつつある。
  • 120年前に我々の先祖は国際情勢への無知と度重なる判断ミスにより、国を失うというつらい事態を招いた。我々はこの歴史を思い起こさざるを得ない状況に直面しているのだ。

 韓国のある知識人はこれらの社説を「中国に引き寄せられそうになった韓国の指導層が、一斉に上げた悲鳴だ」と評しました。

木村:あるいは「国の針路が読めない恐怖」の表明ですね。

今回の中韓首脳会談は、当初は「対日批判なし」と報じられましたが……。

突然変わった風向き

木村:会談初日の、7月3日の段階ではそうだったのです。この日に発表された共同声明でも、両首脳の会見でも対日批判は全く見当たりませんでした。「慰安婦」に絡む情報交換は約束されましたが、付属文書に記された程度でした。そこで初めはそう報じられたのです。

 それが2日目の7月4日、ソウル大学での講演で習近平主席が激しい日本批判を展開しました。そして「本日の午餐会で両首脳は反日でスクラムを組んだ」と突然に韓国が発表したのです。

なぜ、風向きが一気に変わったのでしょうか。

鈴置:3つ説があります。まず、予定の行動だった、との見方です。初日の行事は首脳の共同会見とか両国の共同声明とか、政府間の公式のものでした。

 ここでは対日批判を避け、しかしそれでは日本に示しが付かないので、翌日の準公式行事の中で反日共闘を展開して見せた、というわけです。

 2番目は、中国が強い姿勢で臨もうと途中で言い出し、弱気の韓国を引っ張り込んだ、だから2日目からだった、という説です。

 3つ目の分析は、朴槿恵の心変わり説です。「反日共闘」を期待していた韓国メディアは1日目の「反日抜き」の共同声明や会見で肩すかしを食らった。紙面にも不満の色が出た。人気を重視する朴槿恵大統領が、それを見て慌てて軌道修正した、との見方です。

著者プロフィール

鈴置 高史
鈴置 高史
日本経済新聞社編集委員
1977年、日本経済新聞社に入社。ソウル特派員(87〜92年)、香港特派員(99〜2003年と06〜08年)などを経て、04年から05年まで経済解説部長。02年度ボーン・上田記念国際記者賞を受賞。
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