冤罪(えんざい)への猛省から出発した3年間の議論の結果は、妥協の産物と言わざるをえない。

 捜査や公判のあり方を見直す法制審議会の特別部会がきのう、答申案をまとめた。

 焦点だった取り調べの録音・録画(可視化)を、警察・検察当局に義務づけるのは大きな一歩である。だが、その対象は原則として、殺人・放火などの重大事件に絞り込まれた。裁判になった事件の2%程度である。

 一方で、司法取引の導入や、通信傍受の対象となる犯罪の拡大が盛り込まれた。捜査当局が長年求めてきたことだ。

 捜査・公判の問題を正すという本来の目標からそれてしまった印象が強い。法制化の過程で、正す必要がある。

 改革論議は、厚労省の村木厚子さんが罪をかぶせられた検察不祥事を契機に始まった。

 取り調べの可視化は、戦後初めての司法制度改革を方向づけた01年の報告書で「将来的な課題」として先送りされ、実現は難しいとみられてきた。

 それが10年余で浮上したのは、無期懲役から再審無罪となった足利・布川事件、パソコン遠隔操作事件での誤認逮捕など、やってもいないことを本人が認めた冤罪が相次ぎ明らかになったことが大きい。取調官による供述の誘導や強要はかねて問題にされてきたが、深刻な現実となって現れたのである。

 不正な取り調べを防ぐことが、取調室にビデオカメラを入れる発想の原点だったはずだ。

 しかし当局は捜査への悪影響を理由に、対象を狭めようとした。当局の委員からは、広範な可視化が前提なら席を立つかのような発言もあり、最終的には限定的になった。

 冤罪のリスクは、事件の軽重に関係ない。むしろ軽い処罰にとどまり勤務先にも分からないと説明され、やったと認めてしまうケースも少なくない。

 制度としてもつ以上、より多くの事件を可視化の対象とすべきだ。他の先進国でも定着している。機材の準備に時間がかかるにしても、3年後、5年後と段階的に対象を広げる行程表を示すことはできないか。

 いちど逮捕・勾留されたら罪を認めない限り釈放されにくい現状についても、はっきりした対策案は示されなかった。村木さんが160日以上勾留され、経験したことである。

 部会には村木さん、痴漢冤罪の映画を作った周防(すお)正行さんら専門外の人たちも加わったが、苦い思いを残した。

 市民の感覚とかけ離れては、刑事司法は立ちゆくまい。