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「引きこもり」するオトナたち
【第205回】 2014年7月10日
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池上正樹 [ジャーナリスト]

“深キョン”はどこにでもいるわけじゃない!
ドラマと違う「サイレント・プア」の救われない実態

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「地域の絆で“無縁”を包む」
豊中市社協の勝部麗子さん

 7月7日に放送されたNHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀「地域の絆で、“無縁”を包む』で、コミュニティソーシャルワーカー(以下、CSW)の勝部麗子さんが取り上げられたと聞いて、番組を見せてもらった。

 CSWとは、制度の狭間にいて自らSOSを出すことができずに孤立する人たちを見つけ出し、行政と連携して支え、もう一度社会につなげていく人たちのことで、10年前、大阪府で初めて導入された制度だ。

 勝部さんが所属するのは、豊中市社会福祉協議会(以下、社協)。以前、当連載で「先駆的な地域の引きこもり事業」として紹介し、すっかり有名になった秋田県藤里町社協の菊池まゆみさんと同じく、本業は高齢者や障害者の訪問介護サービスといった地域福祉のニーズを担う。

 筆者は勝部さんとは面識ないものの、CSWのパイオニアとして、「引きこもり」「ホームレス」といった声なきSOSを見つけ出し、向き合っていくという、あの深キョン(深田恭子さん)演じるNHKドラマ『サイレント・プア』(今年4月8日から9回放送)のモデルにもなったことから、いずれ訪ねてみたいと思っていた。

 番組では、電気代やガス代が払えない自営業者の妻からの相談を受けたCSWが自宅を訪ね、次の入金があるまで1ヵ月分の貸し付けを行うとともに、社協に寄付された米をプレゼントしていた。

 毎日、筆者のもとに「引きこもり」中核層にあると思われる人たちから寄せられてくる数々のメールは、生活保護、障害者福祉、介護保険のいずれのセーフティネットも受けられる対象ではなく、また他人に迷惑をかけたくないからと助けを求めずに孤立していく。そんな制度の狭間にいる当事者たちの声だ。

 勝部さんもまた、地域や家族から孤立する人たちの存在を目の当たりにして、番組でこう語る。

 「道がないなら、作ればいい」

 まさにいま、当事者や家族の置かれた現実を知り、その思いや問いを聞いて、あるいは当事者と伴走しながら、地域や家族が、そして日々接している私自身も、道なき道をどのように切り開いていくべきなのか、どうすれば本人の望むように社会につながることができるのか、手探りで模索し続けている。

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池上正樹 [ジャーナリスト]

1962年生まれ。大学卒業後、通信社の勤務を経て、フリーに。雑誌やネットメディアなどで、主に「心」や「街」をテーマに執筆。1997年から日本の「ひきこもり」現象を追いかけ始める。東日本大震災後は、被災地に入り、震災と「ひきこもり」の関係を調査。著書は、『あのとき、大川小学校で何が起きたのか』(青志社)、『ドキュメント ひきこもり~「長期化」と「高年齢化」の実態~』(宝島社新書)、『ふたたび、ここから~東日本大震災、石巻の人たちの50日間~』(ポプラ社)、『ダメダメな人生を変えたいM君と生活保護』(ポプラ新書)などがある。最新刊は『石巻市立大川小学校「事故検証委員会」を検証する』(ポプラ社)。池上正樹 個人コラム『僕の細道』はこちら

 


「引きこもり」するオトナたち

「会社に行けない」「働けない」――家に引きこもる大人たちが増加し続けている。彼らはなぜ「引きこもり」するようになってしまったのか。理由とそうさせた社会的背景、そして苦悩を追う。

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