【書評】本は死なない Amazonキンドル開発者が語る「読書の未来」(ジェイソン・マーコスキー)
電子書籍については、いろいろ書いている。
先日の『月刊群雛』への寄稿でも書いたし、『KDPではじめる セルフパブリッシング』でも書いた。グーテンベルク以降の最大の変化になる、という表現は決して誇張ではない。それは書く側にも読む側にも大きな変化を与えるだろう。
本書を読んで、その思いは一層強まった。
| 本は死なない Amazonキンドル開発者が語る「読書の未来」 |
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| ジェイソン・マーコスキー 浅川佳秀
講談社 2014-06-20 |
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タイトルについて
本書の原題は「Burning the Page」。日本語タイトルの「本は死なない」はずいぶん思い切った訳に思える。
「Burning the Page」とは、直訳すれば「燃えゆくページ」であり、紙の本が死ぬことを想起させる(もちろんkindle[燃やす]ともかかっている)。その意味で、「本は死なない」は一見反対のようにも思えるのだが、燃えるのは本ではなくページである。
リフロー型の電子書籍には、紙の本におけるページの概念がない。つまり、ページに代表されるような紙の本に付随する性質は電子書籍によって葬られてしまうかもしれないが、本のコンセプトそのものは生き残る、というメッセージがこのタイトルにはあるのだろう。その意味で、日本語タイトルはうまい表現になっている。
ちなみに原題の副題は「The eBook Revolution and the Future of Reading」 。電子書籍革命と、読書の未来。まさに本書の内容である。
概要
目次は以下の通り。
1 本の歴史
2 電子書籍の起源
3 キンドルプロジェクトの始まり
4 キンドル2、さらなる高みへ
5 競争の始まり
6 神経生物学からみた読書
7 読書文化の存在意義
8 つながりを深める本
9 短命なテクノロジー
10 電子書籍の普及学
11 出版業界の革命的変化
12 わが蔵書はクラウドへ
13 グーグルが「読書用フェイスブック」になる日
14 グローバル化
15 変容する言語
16 本と教育
17 図書館の未来
18 電子書籍リーダーの未来
19 作家の未来
20 文化のデジタル化
21 読書は「廃れゆく文化」か
Amazonのキンドルプロジェクトに初期から参加してきた著者が、電子書籍の歴史を本の歴史の中に位置づけていく。
序盤はキンドルプロジェクトに関するお話、次にその他の電子書籍端末の広がりがあって、そこから電子書籍が普及した未来のお話へと展開していく。
著者がイメージしている、グーグルが「本」を管理する未来は__一抹の恐怖はあるものの__実現する可能性もある。そうなったとき、良いか悪いかは別として、私たちの文化そのものに、あるいはその発展に変化が生じるだろう事は想像に難くない。
それといかに向き合うかは、早めに想定しておいた方がよいだろう。
本書において印象的なのは、著者が「ハイブリッド」な点だ。一方では最新の電子書籍端末の開発に従事しながらも、もう一方では紙の本の魅力も知っている。そういう立ち位置の人間だからこそ、感じる悲しみがあり、抱きたい希望があるのだろう。本書の節々から、その感情が受け取れる。
Reading 2.0
さきほど目次を引いたが、21個の章立ては本書のページ分量では若干多い。つまり、細かく章立てされているわけだ。
一つには電子書籍で読むボリュームが意識されているのだろう。いつでもどこでも読める電子書籍は、ちょっとした時間に読まれることも多い。あまりにも長い章だと、読者がその全体像を掴まえにくいという問題が生じる。
もう一つには、「Reading 2.0」への布石もあるに違いない。
私はKindle版で本書を読んだのだが、各章の終わりには「ブックマーク」というコラムが設けられていた。そこでは紙の本と電子書籍についての違いに焦点を当てた考察が進められているのだが、一番最後にリンクが貼られている。著者の言葉によれば、「ハイパーリンク化された一冊の本」に向けての試みらしい。
そのリンクをクリックして、たとえばツイッターアカウントでログインすると、本書用に準備されたハッシュタグ(#burningthepage)のツイートを閲覧できる。このハッシュタグを使えば、たとえば著者向けに感想を送ることもできるし、他の人の感想を眺めることもできる。
私はこの新世界を「Reading 2.0」と呼んでいる。本の著者と会話したり、バーチャルな読書クラブで意見を交換したり、友人からのコメントを受け取ったりすることができる世界だ(後略)。
感想や意見交換を促進するには、一つの章立ては小さい方がよい。話があちらこちらに飛んでしまうと、読者が戸惑ってしまう。細かい章立ては、読者の参加を促す意図があるのだろう。
さいごに
本書については、私とあまりにも考えていることが近しく、さらに示唆に富む内容だったので、短い書評記事で表すことができそうもない。
なので、著者の「Reading 2.0」への布石に乗っかって、それぞれの章ごとに私なりの感想を綴っていくことにした。
『本は死なない』を読む
※noteのマガジン機能を使っている。
自分が本を読むという体験をパブリックにしていく。そういうことも、新しい読書体験ではごく普通に行われるようになるだろう。
その変化は、最初は受け入れがたいものに思えるかもしれない。私自身も、「本の文化がこのままの状態で続いて欲しい」という願いはある。でも、そういう願いとは別に冷静にデータを見ると、どんどん本が読まれなくなっている状況も感じ取れる。
これまでの「本」とは違っているにせよ、電子書籍が「本を読む」という文化の継続に一役買うのならば__きっと買うだろう__、それはそれで素晴らしいことだと思う。
みなさんはいかがだろうか。
▼こんな一冊も:
| 月刊群雛 (GunSu) 2014年 07月号 ~ インディーズ作家を応援するマガジン ~ |
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| 米田淳一 雪音詩織 竹島八百富 東杜来 しんいち 澤俊之 Yuki TANABE 盛実果子 加藤圭一郎 鷹野凌
日本独立作家同盟 2014-06-23 |
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| KDPではじめる セルフパブリッシング |
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| 倉下 忠憲
シーアンドアール研究所 2013-12-21 |
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| ソーシャル時代のハイブリッド読書術 |
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| 倉下 忠憲
シーアンドアール研究所 2013-03-26 |
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