その日のまえに 前編 あらすじと感想 作り手の優しい眼差しを感じました
重松清さん原作の【その日のまえに】が放送されると言うのでとても楽しみにしておりました。原作は読んでいませんけれど、あの「とんび」を書かれた重松さんなら、どうしても忌み嫌われがちな「死」というものに対する見方もきっと一味違ったものになるだろうと思ったからです。そしてこの期待はまったく裏切られませんでした。
死は日常の中にあり、決して特別なものではない、もちろん、意味も無く恐れたり忌み嫌うべきものでもないという、作り手のメッセージが伝わってくるようで、まだ前編ではあるものの、見終わった時もむしろある種の爽やかさを感じたほどです。以下、あらすじ(ネタバレ)を交えた感想文です。
もちろんこれは「遺す者」※、つまり主人公であり、末期のすい臓がんを宣告された原田和美(檀れい)の心情に寄り添っての感想であり、「遺される者」※~その夫である健輔(佐々木蔵之介)やまだまだ幼い子供たちのことを考えれば、そう呑気なことは言ってはいられませんし、和美本人もきっとまだまだやり残したことへの無念さは捨てきれないことでしょう。(※番組公式サイト~見どころより引用させていただきました)
それでも和美はガンの宣告を受けた時から少しずつ「その日」への準備を怠りませんでした。「その日」と言うのは「死」という直接的な表現を避けた和美夫婦がいつの間にか使っていた言葉だそうです。
今から少しずつ整理をしておけば「その日」が来ても慌てることはない。こうして「その日」をあらかじめ知らされるのも悪くない。人間なんて、いつ何時どうやって死ぬかなど、誰にも分かりはしないのだから。
そう言って、両親にも自分でそれとなく病気のことを伝えたという実に逞しい和美でさえ、さすがに二人の息子たち~健哉と大輔~にだけは真実を伏せてほしいと頼みます。その日が来るまで子どもたちに心配を掛けたくない~最後の最後まで、子どもたちの笑顔を見ていたというのが和美のたっての望みなのです。
そして和美はもう一つの願いを叶えたいと夫にせがみました。ふたりが新婚時代に暮らしていた町をもう一度訪れたいというのです。
道すがら、いちいち和美を心配する健輔に対し、まだまだ大丈夫だからと笑顔を返す和美は、決して思い出作りのためにこの町に来たのではないと説明しました。健輔は当時、脱サラしてイラストレーターとして独立をしようとしていたのがなかなか芽が出ずにおり、和美がひとりで働いて二人の生活を支えていたのだそうです。
30前に芽が出なかったらサラリーマンに戻る~そう決めていたという健輔がようやく認められ、仕事が軌道に乗ってきたところでふたりはこの町を後にし、今に至っているそうです。その間、和美は会社を辞め、息子たちも生まれてその子育てに明け暮れた毎日だったけれど、自分の時間が持てるようになったのはつい最近のことだけれど、それでも毎日がとても幸せだったと微笑みます。
もしあのまま仕事を続け、定期健診を欠かさずに受けていたら、背中の痛みで病気に気づく前に早期発見ができたかもしれないのに~そう悔まずにいられない健輔を、和美は断固として否定します
。そういうことじゃないわ。それに私はまだまだ諦めてはいない。ここが始まりだったから、新たな始まりのためにここに来てみたかっただけ
。
が、覚悟を決めて臨んだ新薬の治療も奏功せず、ついに和美は最後通告をされてしまいました。これ以上の治療は体力を奪うだけです。
隠し通すのも限界だと悟った健輔は、明日、ふたりの息子たちを連れてくると告げました。おまえも逢いたいだろう?
「その日」のまえに和美が用意していたのは、身の回りのことだけではありません。和美は子供たちの世話を頼んだ家政婦に、自分は子供たちの好きな食べ物だけを用意していたけれど、これを機会に他の物も食べられるようにと、わざわざ野菜中心の健康的な献立を頼んだそうです。その上和美は、無農薬の野菜を直送してくれるよう農家に手配もしていたようです。
癌や難病などにかかるとつい考えてしまうのですよね。いったい自分の何が悪かったのだろうか。食生活やストレスだろうか?それともそういう運命だったのだろうか、って。
だからこそ和美は、遺される健輔や子供たちのため、今自分にできる精一杯の心配りをしたのでしょう。愛する者たちが自分と同じ道を辿らなくて済むように、と。
特に悲しみわめくでもなく、淡々と展開されたドラマでしたが、さすがに健輔が子供たちに、和美の病を伝えたシーンでは胸が熱くなるのを抑えることができませんでした。
ママはもうダメなんだと言った後、それはどういう意味なのか?退院できないということなのか?もっとう~んと長い間戻ってこれないのかとまだ幼い大輔が尋ねてくるのに耐えられず、健輔はついビールに手を伸ばしてしまうのです。
「酒なんか飲むな!卑怯じゃないか!ちゃんと最後まで説明しろ!!」
既に母の病気に気づいていたらしい健哉の言葉が健輔の胸に突き刺さります。そうだな、パパが悪かった。
誰にでも平等に訪れる「その日」だけれど、それがいつになるのかは人それぞれです。たとえ頭では分かっていても、どこか自分とは無関係に思いがちな「その日」に、実は誰もが一歩一歩近づいていることは否定しようのない事実なのです。
愛しい人との別れは確かに辛いことだけれど、でもそれでもこうして、まるで日常の延長であるかのように「その日」を受け入れて、遺された者が明るく前向きに生きていけるよう、遺す側もまた精いっぱいの努力を惜しまない~このドラマはそんな生きとし生けるもの全てに対する「応援歌」に思えてなりません
。
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