武雄市のいろいろな新しい教育改革の取り組みについて、市長自ら語っておられます。
J-WAVE『JAM THE WORLD』の2014年7月1日放送分よりピックアップ。
番組のコーナーであるBreakThrough、今回のゲストは武雄市の樋渡啓祐市長です。
番組の後半は、「花まる学習会」との提携、先月発表された、市内の小学1年生にプログラミング言語を学ばせるなどの教育改革についての取り組みなどのお話です!
前半の内容はこちら ▷ 1年間で利用者数は約4倍の100万人へ!:樋渡啓祐市長が振り返る、武雄市・TSUTAYA図書館この1年 | ラジおこし
しゃべるひと
- 樋渡啓祐さん(武雄市長)
- 津田大介さん(ジャーナリスト)
「花まる学習会」との提携
津田: 最近人気の学習会、「花まる学習会」との提携、こちらはどういったきっかけでどのようなことを目指しているんでしょうか?
樋渡: もう、官の教育が金太郎飴化しすぎていて、かつどこで学んでも一緒っていうのは僕はすごいそれはおかしいと思っているんです。
それともうひとつが、正解至上主義だったり暗記至上主義だったり一斉授業をとったりとかっていうのとか、もう完全に時代にそぐわなくなっているから、これも図書館でいうCCCの力を借りたように、どこか民の力を借りたいなと思った時に、「花まる学習会」っていうのを武雄市の特別顧問をやっている藤原和博さんから紹介してもらったんで、この花まる学習会の高濱さんと教育庁と一緒に来られた時に、「ここと組むといいよね」っていう、そこが原点ですね。
ちょうど1年ちょっと前です。
津田: いわゆる学校での教育っていうのは学習指導要領とかもありますし、カリキュラムが決まっているっていうこともある。
学習会、学習塾っていうのは、その学習支援のような位置付けだと思うんですが、どのレベルでのどういう住み分けで提携するんでしょうか?
樋渡: まず、分けて言うと、教えるのは学校の先生です。それと、文科省との関係があるから、それは学習指導要領にのっとると。ただし大きく違うのは「教え方」なんですよ。
「花まる学習会」の副教材を使ったりとか、異学年の、例えば1年生と4年生と一緒になって青空教室をするとか、ゆくゆくは体育で英語をするとか、音楽で英語をするとかっていうふうに。これはもう官では無理なんですね。
そういう魅力的な、子どもたちが「早く土曜日がこないかな」じゃなくて「早く月曜日にならないかな」っていうような小学校を持ちたいなと思ってますけどね。
津田: じゃあ学校がとにかく楽しい場所になっていくっていうことですよね?
樋渡: そうそう、そうです。
「反転授業」で授業のあり方を根本的に変える
津田: これまでの公立学校のカリキュラム運営方法と一番違う点っていうのはどこになってくるんでしょうか?
樋渡: 色んなのが違うんだけども、あえて言うと、やっぱり飯が食えて魅力的な大人を作りたいんですよ、津田さんみたいに。
それは小学校の低学年が、一番熱いときが一番いいんですよね。そのためには楽しく考える、楽しく遊ぶ、っていうのがないんですよ、今の学校教育って。だから、終わったときに仕方なく塾に行ったりとか予備校に行ったりとかってなってるじゃないですか。
だとすると子どもたちの目線に立った時に、小学校と塾を合体させたほうが子どもたちにとっても負担感がなくなるし、保護者にとっても負担感がなくなるじゃないですか。だから目線を切り替えたっていうのが一番の違いだと思いますよ。
津田: 逆にお伺いしたいのが、そういう形でイノベーティブな人材を早くから教育を改革することによって武雄で育てていくと。
そして、その育てていったイノベーティブな子どもたちっていうものはどういう効果を武雄市に期待しているんでしょうか?
樋渡: これ、違っていて、僕らはいわゆる学習不良の子たちを無くそうっていうのが原点なんですよ。要するに、今まで復習中心だったんですよね。
津田さんも僕の時代もそうじゃないですか。だけど、学校で1回きりで分かる子って2割ぐらいしかいないんですよ。
津田: あー、なるほど。
樋渡: それで分かんないのに復習で分かんないことを復習するなんて、それは無理ですよね。だから、まずは学校が面白くなくなったっていうのが僕の小学校の時なんですよ。
だから、反転授業っていうのもやってますけれど、まずタブレットで予習をしてそこで自信を持って学校で、例えば議論をしたりとか教え合ったりとかいうふうにするんで、単に「花まる学習会」のノウハウだけじゃなくて、授業のあり方をもう根本から変えようというのが今回のスタンスなんですよ。
参照:「反転授業」とは何か? 成績が大幅にアップとの報告も【争点:教育】
津田: 反転授業自身はすごく今アメリカの大学なんかでも注目されて、日本でもそろそろ入ってくるんじゃないかなんか言われてるんですが、これ大学生ぐらいの知能レベルだからできることであって、これ小学校でやって教育効果ってありますかね?
樋渡: いや、できると思いますよ。
例えばね小学校の理科で、塩をあるいは砂糖を水に溶かすっていうのは、これはタブレットで映像を観ながらがいいんですよ。
あるいは、地球が誕生する時っていうのも、黒板で教えられるような中身ではなくてむしろタブレットで、これはニュートンの力を借りてますけれども、映像で観てそれで体感的に理解して、そこで議論に臨んだ方が絶対効率的なんですよ。
だけど、明治5年の学制の公布以来、ちゃんと黒板とチョークでやってるのが今の時代なんですよ。だから、それを切り替えようねっていうのが、今回の「花まる学習会」とか反転授業を取り込んだきっかけなんですね。
津田: なるほど。
保護者の反応は賛否両論
津田: おちこぼれを無くすっていう意味でも楽しくするっていうのは非常に魅力的な提案にも聞こえる一方で、今までの学習指導要領とか小学校の先生の教えるカリキュラムみたいなところで、教師がやっぱり戸惑うんじゃないか、そして「花まる学習会」の方々もそういう意味での官との連携っていうのは今までここまで密接にやってなかった訳ですから、教える側のほうの教育の問題っていうのはどうなんでしょうか?
樋渡: これ、むしろ楽になると思うんですよ。
要するに、英語も今まで学習課程やってないわけなんですよ。だけど、今回花まるが来ることによって、英語もこういうふうにするんですとかって言ったほうが絶対良いに決まってるっていうのと、もうひとつが、今日も実はさっきまで僕、説明会に行ってたんですよ、甲府のね。
そしたら学校の先生がなんて言ってたかっていうと、「ずっと考えてもなかなか効果が上がらない」と。
だから異なる目線で、やっぱりもう1回取り組んでみたいってなってきてるんで、行き着くところまで行き着いてるんですよ、いまの学校教育って。
津田: この教育改革の発表された後、実際には、親御さんの反応とかっていうのはいかがですか?
樋渡: 賛否両論。
そりゃやっぱりね、こんな田舎で変えるっていうことに対してすごいアレルギーを持っている保護者もいらっしゃれば、いやもう自分の子どもに学ばせたいっていう方もいらっしゃるんで、僕は少なくともこれからどんどん色んな試験校で色んなカリキュラムをやっていこうと思っているんですけど、まず見てもらいたいんですね。
だから、授業参観だってオープンデーだったり、そこで見てもらって議論いただこうって思ってます。
津田さんがおっしゃるように保護者がどういうふうに思うのかっていうのはすごく大事で、そこは丁寧にやっていきたいと思いますね。
津田: なるほど。
「飯が食える」ツールとしてのプログラミング
津田:もうひとつ注目なのが、市内の一部の小学1年生を対象にプログラミング言語、プログラムを学ばせよう、アプリを作れるようにしようという授業を行なうということで、これDeNAと東洋大学と協定を結んで今年10月から来年2月まで8回の授業を行なう、これ実証研究としてスタートするってことだったんですが、これもかなり斬新というか注目を集めました。この狙いは?
樋渡: 「G1サミット」ってあるじゃないですか。あれで、プログラミング教育は絶対しないといけないよねっていうのはみんな言ってて、かつオバマ大統領ですら去年の12月に言及していて、先月閣議決定までされたんですよね。
だから国をあげて「早くやれ」って言ってるところで、まだ誰もいないっていうことがあって、「プログラミング言語」って色んな考え方があるんですけど、論理的な思考能力もそうなんだけど、飯が食えるっていう1つのツールになるんですよね。
それをDeNAのファウンダーの南場智子さんが東洋大学の松原教授に話をして、松原さんはうちで色んな座長をやってもらってるんですよ。
そこで私とか教育委員会につないできて、まず「じゃあやってみよう」っていう話になったっていうのがきっかけです。
津田: なるほど。
一方、昔ながらの意見っていうかTwitterとか見てると「いや、漢字の書き取りとかドリルとか体で覚えさせたり、やっぱり小学校のうちは暗記やったほうがいいんじゃないか」っていうそんな意見もあるんですが、こちらいかがですか?
樋渡: だから、小学校1年生でも4月にしなかったのは、そこなんですよ。
要するにひらがなの構造とか言語構造っていうのをまず半年間ちゃんとやった上で、1年生の後期からやるっていうことなんですね。それと、言葉と一緒なんで実は早ければ早いほうがいいってい論者もいるんですよね。
赤ちゃんだって生まれたときから言語体験をするじゃないですか。それと同じじゃないかっていう話もあるんで、これもちゃんと実証していきたいっていうふうに思ってますね。
津田: こうした教育改革の数々をやることによって、これだけ面白い教育をやっているんだったらうちもここで学ばせたいっていうことで転入、人口が増えるっていうことも、その辺りも狙っているんでしょうか?
樋渡: もう、確実に狙ってます、それは。
僕らの世代の親のお子さんたちが、どこで教育を学ばせるかっていうと、結構シンガポールとかマレーシアのジョホールバルとか、割りといるじゃないですか。
だとすると、やっぱり今から求められている偏差値教育じゃなくて、生き抜く力、考え抜く力っていうのを楽しく学ぶところが日本のどこかにあれば、そこに絶対来ると思うんですよ。現にものすごい、今、これ問い合わせがあるんですね。
だから、そういう意味で、生き抜く力を養ってもらうってのが一番なんだけど、過疎対策の一環としても、もちろん考えています。
市政改革、実現したのはたったの1%
津田: これこういった様々なアイディアを矢継ぎ早に出していく、これはどいうふうに発想されているんでしょうか?
樋渡: たぶんドクターと同じで、高邁な理念とかビジョンとかって、僕、実はぜんぜん無いんですよ。
だから、目の前にいる、これはひとりだったり、今メディアに出るんで10万とか100万だったりもするんだけれども、お困りの人の悩みとか苦しみとか悲しみを解決するのが、僕は首長の役割だと思っているんです。
だから、図書館がイケてなかったら図書館を直そうぜって。教育がいけてなかったら教育をチューンナップしようぜっていうのが、僕らの基本的なスタンスなんですよ。
津田: 様々な意見、賛否両論、時にかなり厳しい批判なんかも受けながらも、ずっとこういった改革を進める樋渡さんの原動力っていうのはどこにあるんでしょうか?
樋渡: やっぱり、この街をよくしたいっていうことですよね。
で、子どもたちが、今まで僕らが小さかった時に「武雄にはなんにもない」とかって言われてたんですよ。
だけど、今、子どもたちがものすごく変わってきて、やっぱりこれだけ注目されてるんで、武雄にいつか帰ってきて自分の生まれ育った故郷をなんとかしようぜっていうのが、僕の出身の武雄高校の生徒が普通に話しているんですよ。図書館に来て。
だから、これは僕はなんで挑戦をするかっていうと、それはもう様々な誹謗中傷もあったし、まぁ僕の言動によるとことも多分にあるんですけれども、やっぱり成し遂げていこうって思うのは、そういう誇りある佐賀県人っていうか日本人っていうか地域の人たちを作らないと、この国の未来はないって思うことからやっているって感じかな。
津田: 今、2006年から市長になられてですね、思い描いている市政改革、これだいたい何%ぐらい実現されました?
樋渡: 1%ですね。
津田: 1%ですか?
樋渡: うん。400やろうと思ったんですよ、そもそも。そのうち、今、僕がやったのは4つぐらいですよ。さっきちょっと数えたんですけど。
津田: なるほど。じゃあ、まだまだ、ここからやらなければいけないことたくさんあるんですね。
樋渡: 100年ぐらいやらなきゃいけないですね。
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