ヘイトスピーチ:2審も賠償命令 「街頭」は歯止め困難か
毎日新聞 2014年07月09日 02時30分
朝鮮学校周辺での街宣を巡り、「在日特権を許さない市民の会」(在特会)側に賠償と街宣禁止を命じた8日の大阪高裁判決は、差別的な街宣で朝鮮学校側が無形の損害を受けたと認定し、1審判決の高額の賠償を支持した。ただ、直接的な被害者を特定することが難しい繁華街などでのヘイトスピーチを規制するものではなく、法規制の是非は今後も議論となりそうだ。
高裁判決は差別的な街宣が(1)学校の社会的評価の低下(2)児童らの多大な精神的被害(3)授業など教育業務の妨害−−などを招いたと指摘。京都朝鮮第一初級学校(現・京都朝鮮初級学校)を運営する原告の京都朝鮮学園側が無形の損害を被ったと判断し、在特会と会員ら8人に計約1220万円の支払いを命じた。
一方で、判決は「民法に基づき、具体的な損害が発生して初めて賠償を科すことが可能になる」とも言及した。人種差別に当たる行為があるだけでは賠償を命じることはできず、被害者側の具体的な損害の立証が不可欠なことを示したものだ。
ヘイトスピーチを伴うデモなどは、今も東京や大阪の街頭で繰り返されている。しかし、朝鮮学校など特定の対象に向けた街宣ではないこともあり、今回の訴訟の司法判断がヘイトスピーチの直接的な歯止めになるのは困難とみられる。
ただ、欧州の主要国が整備しているヘイトスピーチへの刑事罰については、日本は米国と同様に、表現の自由などとの兼ね合いで慎重な姿勢を貫く。
一橋大大学院法学研究科の阪口正二郎教授(憲法)は「今回は特定の学校に向けた行為だから裁判所も名誉毀損(きそん)と認定できた。しかし、不特定多数に向けたヘイトスピーチの場合は、今回の判決を根拠に違法と言えるわけではない」と指摘する。
そのうえで、ヘイトスピーチの法規制に関して「差別は人を傷付ける許されないものだが、法規制は運用次第で表現の自由が侵害される可能性もある。その是非は十分に考えないといけない」と話した。【服部陽、堀江拓哉】
◇法規制の前に、社会全体で対策を
ジャーナリストの津田大介さんの話 相手を挑発して過激さを演出し、差別用語を使って人目を引くという、在特会の手法を悪質と判断した大阪高裁判決は妥当だ。