ナノチューブを引き裂け! ~物理的な意味で~

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Jul
08
2014
Author: Tshozo[Edit ] View: [1126]  
Category:実験・テクニック , 論文



CNT_HIMP_01.pngACS Nano Letters 誌サイトより引用( → )

 今回は化学的じゃないけど化学していそうな論文を紹介いたします。


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 Tshozoです。Ph.D.になりたかったです。

 今回、C60の発見者の1人 Richard Smally教授(故人)の母校である、Rice Universiyの研究所から興味深い論文が出ておりましたので紹介致します。

 タイトルは"Unzipping Carbon Nanotubes at High Impact."(論文リンク → )。「カーボンナノチューブを衝撃(マッハ15)で引き裂いてやったぜ!」というものです。ACSのNano Letters誌に掲載された同論文、筆者が非常に好きな「力技」を有効に使っている点に非常に興味を惹かれました。相変わらず物理寄りですがご了承ください。

 とりあえず背景から。 C60, CNTやグラフェンはナノカーボン材料と言われ、1990年あたりから急速にその研究領域を広げています。安全性や製造方法/コスト、応用先の観点から真の実用化、例えばシリコンを全て駆逐するようなレベルになるまでは今なお遠いと言われることもありますが、以前ご紹介したサムスンによる研究成果(→ )や、敬愛する有機化学美術館で紹介されたこちらの文献(→ )のように分野としては着実に進化を続けており、まだまだフロンテイアは大きく広がっているという印象を持っております。

CNT_HIMP_02.pngカーボンの形態一覧 図はこちら→  より引用

 その中で今回取り上げるナノリボンはグラフェンの1形態。そのまんまですが単層~数層のグラフェンが特定方向にヒラヒラと延びた形をしているのが特徴で、これまた導電材や半導体としての用途が見込まれている物質です。

CNT_HIMP_05.pngナノリボンの形態 ナノチューブと同様、方向により導電性が異なるもよう 
図はこちら→  より引用

  で、今回の話。論文の主な観点としては「CNTをUnzipしたらナノリボンができるんでは? ただし物理的に」ということでした。 

CNT_HIMP_04.pngUnzipのイメージ 図はこちら→  より引用

 

  従来このUnzipのためにはどちらかというと化学的・化学工学的な手法が主でした。例を挙げると、

  ①MWCNTをPMMA(アクリル樹脂)にはっつけてArプラズマで切れ目を入れる(→ 

  ②Pdを担持させたあと酸化剤の入った液中でマイクロ波をあてて焼切る(→ 

  ③鉄線の上にCNTを作った後、電流で焼切る(→ 

  ④酸化剤で切れ目を入れたあと、有機溶媒中で超音波を印加する(→ ) 

 

CNT_HIMP_07.png 従来プロセスの代表例図(左上①、右上②、左下③、右下④) 図は各文献より引用

 などです。なお工業的なことを考えると個人的には④が好きです。ただ、どれも「手段を挙げろ」、と考えると比較的普通のプロセスな気がします、不遜ですが。これに対し、今回の手法はなかなか出てこないと思います。つまりナノレベルのこんなに「軽い」材料を超高速でターゲットにぶっつけて果たして「Unzip」されるのか?というのが著者の主な問いであったように感じました。

 その結論としてはUnzipされたようです。興味深いのは

 「衝突の角度によって、Unzipの形態が変わる」

 ということでした。詳細は論文を読んで頂くとして、重要な結論は「衝突面と平行に衝突したものが綺麗にUnzipされている」ということです。シミュレーションとも一致した傾向のようです。

CNT_HIMP_09.jpg
0°以外の角度で衝突したCNTはメメタァと潰れているが、0°のものは平行にUnzipされる
その際に炭素-炭素結合も切れるのが興味深い

なお図は本論文のものだが、実際に編集されたのはPhysorg.com殿 こちらより借用 → 

 ということで常識的に考えたら「あんな軽いモノ、ぶっつけて切断できるわけがない」なのですが、今回の結果はその考えを見事に打ち破ったといえます。

 ちなみに一体CNTをどうやったら衝突面と平行にそろえたサンプルを得られるのか。実はこれは結構簡単で、たとえば溶媒に分散してメンブレンで濾過すればいいのです。きちんと分散しなければいけませんが、濾過品をSEMなどで見てみるとかなり綺麗に大体のCNTが濾過方向に平行にそろうことがわかります。その他CNTテキスタイルを使うなどやり方は様々ですが、70~80%の収率が得られるのはCNTの方向が揃いやすい性質と都合よくあったからなのでしょう。

 なお今回用いたマッハ15装置、もとい「Light Gas Gun」という装置は本来宇宙工学での惑星衝突シミュレーションやデブリ衝突シミュレーションに使われるもので、こんな形をしてます。JAXA、NASAとかに置いてあるみたいですね。

CNT_HIMP_06.png「Light Gas Gun」の一例 全長35m、体重32ton
ここからターゲットを放出し、30m以上先にある「衝突面」にぶつける
レールガン等よりスピードは上がらないがコスト的には大分お安い こちらより引用 → 

 要は「大砲」です。サンプル(弾)を火薬+スプリングで圧縮したガスにより超音速に加速し、高真空下でターゲットにぶっつける。どこでこんなものを知って何で使おうと思ったのやら、と思ったら、カーボンナノ材料を人工衛星などへ応用できないか検討していてその一環でこうした装置に関わる機会があったのとのこと。著者のOgden氏はナノ材料の世界では有名な方で、化学者というより材料科学がご専門ですがRice大学を拠点にして様々な成果を挙げています。

 同氏は今回の成果の中で、「溶剤も特殊な材料も使わずにナノリボンが出来る、画期的なプロセスだ」と言うていますが確かにそうかもしれません。ただ装置のお値段がアレなのとリボンの方向制御が難しそうなのとで、実際に工業化するのはなかなかシンドいと筆者は思います。

 それよりはやはり化学的手法で、下記のような「高衝撃・高剪断」がかけられる装置で部分Unzip+本格Unzipする、などで低コスト化をしていくのが面白いのではないでしょうか。溶媒に溶かすと方向性がグダグダになって今回の成果を活かせないので、高衝撃ハンマーで一方向からブン殴るとかの方が今回の意図に沿うかもしれませんけど。・・・ますます化学から遠くなりますが・・・

CNT_HIMP_08.png

「高衝撃・高剪断」装置の例 上はスギノマシン殿「スターバースト」
下は常光殿「湿式ジェットミル」 図は各メーカ殿HPより引用

 それでは今回はこんなところで。


参考文献

0.【当該論文】"Unzipping Carbon Nanotubes at High Impact." →  

1. "Graphene and Carbon Nanotubes" James Tour, Rice University → 

2. "Graphene Nanoribbons from Carbon Nanotubes" Maria da Conceição Paiva, Minho Univeristy  → 

3. "Narrow graphene nanoribbons from carbon nanotubes" → 

4. "Catalytic unzipping of carbon nanotubes to few-layer graphene sheets under microwaves irradiation"  → 

5. "Graphene Nanoribbons Obtained by Electrically Unwrapping Carbon Nanotube" → 

6.  "Facile synthesis of high-quality graphene nanoribbons" → 

7.  "Advanced Diagnostics for Impact-Flash Spectroscopy on Light-Gas Guns" Sandia National Laboratory → 

8. スギノマシン殿 「スターバースト」 → 

9. 常光殿 「湿式ジェットミル」 → 


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