危なかった、アイデアとかをむしゃぶりつくされるところだった……。
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今回はパブロ山での戦いを完結させたものです(3~4話分)。
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パブロ山の攻防
ミリアとクレアの模擬戦はすぐに決着がついた。
そしてクレアは疲れ果てたのか、その場で倒れると動かなくなった。
「おいミリアさんよ。どうすんだ、ありゃ。戦力になりゃしねーぞ」
倒れたクレアを見てヘレンが文句を垂れた。
クレアはこの場にいる誰の目から見ても、とても弱かった。片手一本でも勝てる。それぐらいの実力だ。ヘレンはクレアをそう評価した。
一方ミリアは相変わらずクレアの違和感を拭えていなかった。
「どうするよ、デネヴ」へレンが訊いた。
「どうするもなにも、我々三人で戦うしかないだろう」
「ちっ、やっぱりそうなるのかよ」
ヘレンは不機嫌にそう吐き捨てると、持っていた骨付き肉を投げ捨てた。
翌朝、幸運なのか不幸なのかクレアが目を覚ました。
あのままくたばっていた方がむしろ良かったかもしれない。ヘレンはそう思った。
順調に山道を登っていく。
「おーい! こっちだこっち。待ってたよ、クレイモアの皆さん」
気さくな話し方をする男が山道の脇から現れた。
デネヴやヘレンは男を不審がっただけだったが、ミリアはいち早く気付いた。この男は覚醒者だ――。
彼女はすぐさま大剣を抜き、横に薙ぎ払った。
次の瞬間――ミリアの肩から血が噴き出した。
全員が驚く中、怪我を負ったミリアは焦燥感に苛まれた。
「情報ミスだ……」
肩を押さえ、岩壁に引っ付いている男を見る。
男はどんどん姿を変えていき、六本の腕を持った禍々しい異形へと姿を変えた。男の覚醒者は普通程度の覚醒者などではなかった。少なく見積もっても、一桁ナンバーの覚醒者以上の力を持っている。
「じょ……冗談言うなよ……覚醒者ってのは、クレイモアって呼ばれる戦士が限界を超えてしまってなる存在だぞ。なのになんで……男の覚醒者なんてのがいるんだよ」へレンが唖然として言った。
「避けろぉ!」
ミリアが声を張った。
身体の反応が追いつかなかった。それは男の覚醒者からの攻撃だった。
デネヴ、とヘレンが叫んだ。攻撃を受けたデネヴは左腕を根こそぎ奪われ、谷底へと消えていった。
そして男の覚醒者の口にはデネヴの左腕があった。
「ぺっ。不味いねぇ……妖気を含んだ肉は臭くて食えたもんじゃない」
男の覚醒者は咥えていたデネヴの腕を吐き飛ばした。
「てめえ!」
激昂したヘレンが斬りかかる。しかし手応えがない。いつの間にか、そいつは再び岩壁に貼りついていた。
「岩壁から離れろヘレン!」
ミリアの声が飛ぶ。男の覚醒者の動きは速く、岩壁を複数の手を使って駆け下りた。
「く……」
ヘレンに接近すると男の覚醒者は、デネヴの左腕を奪った舌を突き伸ばした。だがそれは彼女へは届かなかった。
「47番!」
クレアが二人の間に割って入り、その攻撃を防いだのだ。しかし器用にも男の覚醒者は舌をクレアに巻きつけると、そのまま彼女を地面に叩きつけた。
「おや?」
「どうした、ガラテア」
北へずっと顔を向けていたガラテアが首を傾げた。不審に感じたエルミタは彼女を注視した。
「並み程度の覚醒者と聞いていたんだがな」
「違うのか?」
「ああ、違う。上位クラスに片足突っ込んだくらいの強さだな。要するに……あいつらの手に負えるレベルではない」
ガラテアの判断は個々の妖力の強さを見ての判断だった。
覚醒者の妖力の強さ、戦士四人の妖力の強さを比べると、どう考えても覚醒者に軍配が上がる。
「そうか、それは……不幸な事故だな」エルミタは目を伏せた。
「事故だと? まさか。私はなにか作為的なものを感じるのだが……何故だか知らないか? エルミタ」
「知らないな。私はただリムト様の決定に従っているだけだ」
「それは……リムトが直接貴様に言ったのか?」
ガラテアの言葉にエルミタは目つきを鋭くした。
「なにが言いたい」
「その命令は途中に何者かを挟んだ命令だったのではないのか、ということだよ」
エルミタは今度は目を大きく開いた。予想外の言葉だったらしい。
「私にこの討伐指令を伝えてきたのはルヴルだが……」
「ほお、なるほどな」
ガラテアの目が弧を描いた。彼女は今回のこの事故を作り出した黒幕を理解したのだ。
「どういう意味だ」
「なんでもないさ。いい女は常に一つや二つの秘密を持っている。そう勘繰るな」
口元に笑みを浮かべ、ガラテアは山の向こう側を見据えた。
「……いい歳した婆さんの間違いだろう」
「ほざけ、くそじじい」
それっきり二人は言葉を交わさなくなった。
覚醒者の言った言葉、デネヴとヘレンの発現した特異性。
これらからミリアはおそらく、このメンバーは『半覚醒』をした者達の集まりであるのだろう、と断じた。そして必然的にこれを仕組んだ者の正体を把握した。
ルヴルが裏切ったか。いや、違う。最初から奴は味方などではない、ただ体よく自分を利用していただけなのだ。そこまで理解したミリアは苦い顔を作った。
「それじゃそろそろいいか……本物の絶望を……味わわせてやるよ……」
男の覚醒者がそう言った一瞬後だった。
ミリアが避けろと言うよりも早く、男の覚醒者は攻撃を仕掛けた。
どんという鈍い音。放った攻撃はデネヴの腹を貫いた。
「この……」
ミリアが反撃を試みるが、彼女よりも速かった。
跳んで攻撃を避けると同時に、指を伸ばしてクレアを刺し貫く。
「てめえ!」
倒れていくクレア。
ヘレンは男の覚醒者に向かって腕を伸ばした攻撃を仕掛ける。しかしそれは虚しくも空を切る。
ヘレンの後ろで風が流れた。瞬時に彼女の後ろに移動した男の覚醒者は、下から掬い上げるようにして凶爪を迫らせる。
だがその凶爪も空を切った。ふわりとヘレンの体が浮いたのだ。
「な!」
男の覚醒者に驚愕が満ちた。彼はヘレンが切り裂かれ倒れることを確信していた。しかし実際は、彼女は無傷。
がしゃりという金属音が彼の横で鳴った。
「ありゃ? なんだ今の」
綺麗に着地したヘレン自身、男の覚醒者同様に驚いていた。
「な、なんだ。何者だ貴様……?」男の覚醒者は戸惑った声を上げた。「厄介なのは貴様の方か?」
ミリアを一瞥した後、再びヘレンへと顔を向ける。
即断即決、男の覚醒者はヘレンへと再び迫った。戦士の目を以て追うのがやっと、といった速さだ。
それでも、その速さを以てしても、男の覚醒者の攻撃は再び空を切った。それは並々ならぬ反射神経と柔軟な肉体が為せる業だろうか。
ヘレンは首と上体を反らして後方へと跳んだ。不安定な体勢だ。通常なら手を着かなくては頭を地面にぶつける。だが彼女は手を着くことなく、空中で瞬時に体勢を立て直して着地している。
「まただ……なんなんだよ、いったい?」
まるで自分の身体を他人が操っているようだ。ヘレンは気味の悪さに表情を強張らせた。
「くそっ!」
不快な感情を振り払うようにヘレンは妖力を開放した。
大剣を握った腕を伸ばし、男の覚醒者の腕を引き裂いた。
「ぐが、この!」
虚を突かれて傷を負ったことに苛立つ。
三度目の正直だ。
ヘレンの背後へと回りこんだ男の覚醒者は、心の内で吼えた。
「がふっ!」
攻撃が当たった。
背中を引き裂かれ、吐血したヘレンはそのまま倒れる。
「ヘレン!」ミリアが叫んだ。
「……なんだ、こいつ。不気味な奴だったな」
男の覚醒者は肝を冷やした。それは心のどこかで、もしかしたらまた避けられるのではないか、という不安が蔓延っていたからだ。
事実、自分の攻撃を避けた奴は異常だった。反射神経、動体視力どれをとっても超一級の者の動きだった。もしも奴の肉体までもがその動きに見合ったものだったら――。
そこまで考え、顔を左右に振った。弱気なのは自分らしくない。敵は後、"幻影"のミリアただ一人だけなのだ。大丈夫だ、勝てる。そう強く念じ、男の覚醒者は気を引き締めた。
「……そうか、そういうことか……そこにいたのか」
妖気を探っていたガラテアは懐かしいものを感じた。
凛とした表情に堂々とした佇まい。彼女が訓練生であった時の絶対的なナンバー1。その人物は歴代の中でもテレサの次に強かったと噂されている。
「どうした?」
ガラテアの呟きを聞き、エルミタは怪訝そうだった。
「いや、なんでもない」
一度目を伏せ、ふっと笑う。ミリア達のいる方ではなく、ガラテアは遠くを見る。
「カサンドラ……ようやく見つけた」
男の覚醒者は最後の一人を倒すべく、凶爪を目標に向かって突き放った。
ミリアは己が『幻影のミリア』と呼ばれるきっかけとなっている技を、なるべく使わないようにしておきたかった。その理由として、その技は使う度に体力と精神力を消耗し、持続性が低いからというのが挙げられる。
しかし出し惜しみなどしていられる状況ではなかった。男の凶爪はなんの狂いもなくミリアの顔面へと吸い込まれていく。
そして貫いたように、男の覚醒者には見えた。しかし実際は違う。指先にはなんの手応えもなく、凶爪は地面を抉り取っただけ。
いつの間にかミリアはデネヴを抱え、少し離れた位置へと距離をとっていた。男の覚醒者の攻撃がぎりぎり届かない距離だ。
「シャアアアア!」
男の覚醒者は跳ぶと、気合の声と共に渾身の一撃を放った。
彼は側頭部を貫かれたミリアを見た。しかしまたもやミリアは無傷で彼の後ろへと移動していた。彼女は何事もなかったかのように平然として、ヘレンとクレアを抱えた。
男の覚醒者が見たものは残像だった。彼女の移動する速度があまりにも速いために起きた現象だ。
男の覚醒者は再び先ほどと同じようにミリアの頭を狙って攻撃する。
その攻撃を"幻影"と呼ばれる技で避け、ミリアはデネヴの隣へと、回収したヘレンとクレアを並べた。この時、クレアは既に負傷した部位の凡そを回復させていた。後少しで動けるようになるといった程度だ。
ミリアは男の覚醒者と向かい合った。彼女は妖力を開放して地を蹴った。
男の覚醒者は迎撃するために彼女へと向けて腕を伸ばすが、ここは彼女の方が一枚上手だった。
迫る腕の手前で着地し、幻影を多用してスピードを維持したまま男の脇に回り込む。そして彼女は六本の腕のうちの一つへと大剣を突き立てた。
「ぎへ」
刺された腕を振り払い、片側の手の指を伸ばしてミリアの側頭部を狙う。
「!」
だが、まただった。
貫いた姿が一瞬映るだけで手応えがまったくない。"幻影"を使用中のミリアを捉えることは、この男の覚醒者にはできなかった。
確実に攻撃を躱し、確実に攻撃を与える。それを数回繰り返した後だった。
「つーかまーえたー」
「が、かは!」
男の覚醒者の大きな手に胴を掴まれ、ミリアは山道に叩きつけられた。
戦いを見守っていたヘレンが、ミリア、と悄然として言った。
今までミリアは優勢を保っていたはずだった。不快な音が山道で鳴る。男の覚醒者が伸ばした舌が、ミリアの腹部を抉り蹂躙する。
ミリアの悲鳴が山に木霊した。
「ん」
目を閉じて妖気を細かく探っていたガラテアがぴくりと身体を震わせた。
「何かあったか?」
彼女の後ろにいるエルミタが訊いた。
「ミリアが捕らえられた。現況で戦える状態だったのは彼女だけ。」
「全滅、か」
「……いや、待て。全滅と断じるのは些か早いようだぞ。エルミタ」
先ほどの諦観めいた表情とは違い、今のガラテアの表情はどこか嬉しげだ。
「どういうことだ?」
「一番妖気の小さい奴が起きた」
「……全滅と同じようなものだ。そいつ一人で覚醒者を倒せると思うか? 現実的に考えて無理だろう」
エルミタはふうっと吐息をついた。
確かにエルミタの考えは他者たちから見れば道理だ。戦士最弱の称号を背負ったナンバー47ごときが、覚醒者を一対一で倒せるわけがない。
だがそのナンバー47の戦士には倒せるのではないか、と思わせるような判断材料があった。ガラテアは妖気を探っていくうちに気付いた。その最弱の戦士は彼女と同族だった。歴代ナンバー1の中の
ガラテアが思いつく限りでは"愛憎"のロクサーヌや"塵食い"のカサンドラ、"天啓"のシスティーナなどが有力候補として挙がった。
三人が三人とも、あの程度の覚醒者なら瞬きの間に瞬殺してしまうような化け物だ。そしてこの三人にはとある共通点があり、彼女たちの血肉を受け継いだ戦士は何かしらの影響を受ける。それはもちろん、良い影響という意味でだ。カサンドラの血肉を引き継いだ戦士が、妖力無解放状態で彼女の回避技が反射的に発現したように、もしあの戦士がそうであるのなら、三人のうちの誰かの血肉を引き継いでいるのなら、希望はまだある。
そこまで考えたところで、ガラテアは向こう側の状況の変化を感じ取った。
「攻撃を避けている? 歩く速度で攻撃を避けているだと……?」
ナンバー47の戦士は間断なく降り注ぐ爪を、歩きながら躱している。
「おい、エルミタ。ナンバー47の戦士、名は何という?」
「クレアだ」
間を置かずにエルミタは答えた。
「ほお。なら、あいつの血肉を引き継いだのは残りの二人……デネヴかヘレンのどちらか、か」
ガラテアは前以て名前は知っていた。しかし妖気と名前が一致しない。
ミリア以外の妖気は今日初めて知ったのだ。
「あっちで何か起きたのか?」
「ああ。お前が蔑んでいたそのナンバー47の戦士が覚醒者に痛手を負わせ、捕らえられていたミリアを解放した」
「なんだと……」
エルミタが腰掛けていた岩から立ち上がった。
今覚醒者は腕一本の状態にあるようだ。
妖気が乱れているあたり、無様に命乞いでもしているのかもしれないな、とガラテアは覚醒者のみっともなさを軽蔑した。
「終わったか……」
覚醒者の妖気が消えた。
一方の四人戦士達の妖気は、一人弱っているとはいえ健在だ。
「討伐が成功した、ということか」エルミタが言った。
「そうだ。それにしても予想外だったな。まさかクレアとかいう最弱の戦士のおかげで他の戦士達が助かるとはな」
「ふん。まったく、嬉しい誤算だよ」
軽く息をつくと、エルミタは先ほどの岩に腰掛けた。
「どうやら……なんとか生き残れたらしいな、ミリア」
協力者が生きて危機を切り抜けたことに、ガラテアはほっと胸を撫で下ろした。