かつて日本サッカー界には埼玉、静岡、広島の三地域を指して「御三家」という言葉があった。今でもこの三地域からは、日本のトップレベルの選手が数多く生まれ、日本サッカーの中核になっている。また現在、埼玉県児玉町はサッカーを「町技」に、静岡県清水市でもサッカーを「市技」にするほどサッカーが盛んで、老若男女が広場やグラウンドでボールを追いかける姿があちこちで見られる。サッカーで街づくりに成功した格好の例だろう。
ところで、日本にはスポーツを通じて街づくりに励み、街の活性化やイメージアップを図る市町村がたくさんある。サッカー以外では、フィールドホッケーの岩手県沼宮内、富山県小矢部市(石動)、鹿児島県樋脇町、アイスホッケーでも栃木県日光市や北海道・苫小牧市などが知られている。また長野県菅平はラグビーの合宿地として有名。こうした市町村はこれまでに国民体育大会(国体)の競技会場となったことが、“遺産”として残り、競技を通じて街づくりに努めたところや、日本のトップレベルのチームをかかえる大企業の“城下町”として、その名が全国に伝わったところなど、さまざまある。
そんな中で、2002年に日本と韓国が共同開催で行うワールドカップの日本国内のキャンプ候補地に全国84ヶ所もの地区が立候補を表明した。照明付きで芝生のグラウンドが2面以上、体育館やホテル、選手が気分転換できるリラクゼーション施設などを備えなければならない厳しい条件にもかかわらず、数多くの地区が名乗りを挙げた。経済効果を期待したところもあれば、地名を世界に売り出そうという狙いのところもある。動機はともかく、全国各地に芝生のグラウンドができることは文部省の保健体育審議会の特別部会が中間報告として出した「スポーツ振興基本計画の在り方について〜豊かなスポーツ環境を目指して〜」の中にある、全国に総合スポーツクラブをつくろうという計画の一翼を担うものとして期待される。
キャンプ候補地の中には、既にJクラブのホームタウンとするところもあれば、春夏のキャンプ地として使われたところもある。また、施設も十分に整っている地方の中心都市も含まれている。しかし、これまでサッカーとはあまり“縁のない町”も、キャンプ候補地に名を連ねている。そのユニークな例として挙げられるのが群馬県草津町と大分県中津江村など。
草津といえば、温泉として全国に知れ渡っている。また、1948年に日本初のスキーリフトが草津・天狗山にできて以来、スキー場としても有名。ところが、新たにワールドカップのキャンプ地に立候補した。グラウンドや体育館は町営のものがあるが、これから多少の整備が必要となる。しかし、同町では米国チームにも参加した女子のサッカー大会が開かれ、サッカーが生活の一部になっているという。また、既にキャンプ地誘致のためのホテルやトレーニング場、天候・アクセスなどを紹介した英文のキッドも制作し、積極的な活動に取り組んでいる。
もう一つの例が、大分県日田郡中津江村。大分と熊本さらに福岡の三県の県境に近い山の中の町だ。そこにある鯛生スポーツセンターは村が教育、スポーツの合宿所として設けた社会教育施設で、環境的には申し分ない。全国84ヶ所の候補地の中で、村単位で名乗りを挙げたのは栃木県湯津上村とこの中津江村の2ヶ所だけ。
こうした地区が将来、新たな「サッカーの街」として全国に名が知れるようになれば、キャンプ候補地として立候補した価値は計り知れない。
最近、中・高齢者に向けた健康雑誌がブームで、その中に「スポーツで街づくり」のテーマがよく取り上げられている。病気にならない、また長寿のための体力づくりが紹介されて、ジョギングや水泳など手軽なスポーツに親しむことで、住民の健全な生活づくりに貢献しようというのが主な内容である。しかし、肝心なのは、スポーツに親しみ、人々がコミュニケーションをつくれる施設をいかに提供できるかでもある。今回のキャンプ候補地が、こうした目的に応えられるようなものになることを心から望んでいる。
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