ベアフット妄想拡張講座 1話(後編) 「Maker Faireは生き方である」
この記事は前後編にわかれています。前編はこちら https://media.dmm-make.com/item/1477/ Maker Faire Bay Area(以下MFBA)レポートの続き。今回は安全管理と展示フォーマットについて語りたい。 私は毎年幕張メッセで開催されるニコニコ超会議で「超乗合馬車」という、6人乗りの山車のようなものを走らせている。人力で牽引する台車みたいなものだが、群衆の中ですることだから、安全管理には気をつかう。通路が混雑したり、VIPが場内に現れると、馬車は一時運休になる。 いっぽうMFBAには、火炎を吐いて走り回るような危険な展示がごろごろしている。私はMFBAの安全管理がどのように行われているのかに関心を持っていた。 バトルポンドという企画を見てみよう。広場の一角に、壁で囲まれた仮設プールがある。入ってみるとプールの両側に、連合軍と枢軸軍に分かれて1/144スケールのラジコン軍艦が待機していた。これが実際に艦砲を撃ち合って戦うわけだ。
プールの周囲三面は階段席が囲んでいて、観客はかなり多い。司会のおじさんが芝居っ気たっぷりに「さあ、いきますよー。アァークシーズ!」と叫ぶと、観客も 「いえーい!」と呼応する。司会「アッラーイドォォォ!」観客「いえーい!」 ――と、ガンガン盛り上がる。事前に選ばれていた子供が紹介され、プールサイドを走って一周する。名誉堤督か何かだろうか。 戦闘艦とともに各軍2隻の貨物船があり、時間内にこれを多く沈めたほうが勝 ち、というルールだ。通商破壊、海上護衛が勝敗を決するところは史実を反映していて心憎い設定だ。
軍艦に搭載された砲はガスで固体弾を発射できる。船体はバルサ材など壊れやすい材料で作ってあり、被弾すれば破口から浸水して沈むようにできている。砲弾は船体から水平に発射されるが、船が揺れたら弾道が上を向き、観客席に飛び込むこともあるだろう。そのためプールと観客席の間には透明プラスチック板のスクリーンがあり、さらに観客は入り口で渡された防護眼鏡を着用する。一見過激な演し物も、周到に安全対策が施されていた。 さらに法的な対策も取られている。観客は手首に青いリボンを巻いていないと観覧できない。これはセイフティ・リストバンドといい、「私は自己責任で参加します」という権利放棄の表明になる。リボンを渡す場所は会場内に数か所あり、帳簿に名前と電話番号、サインを記入する。
セイフティ・リストバンドはバトルポンドだけでなく、出展されている乗り物や遊具に乗るときも必要だ。出展者用のマニュアルには、「相互作用のある活動(interactive activity)すべてにおいて、参加者にセイフティ・リストバンドが必要であ る。着用していない参加者には最寄りの安全権利放棄ステーションもしくは情報ブースに誘導せよ」とある。 日本のイベントでは、何か想定外のこと――あの作品とこの作品を組み合わせて新しい展示物を作るシナジー活動など――をしようとすると、運営側に「何かあったら大変ですからやめてください」と言われることが多い。「君は何もわかってないから安全性が見極められず、責任回避の判断しかできないんだろう?」と思う が、相手がそう言い出すと逆らえない。 アメリカは訴訟社会といわれるが、そのいっぽう、権利放棄を明確にすれば自己責任によるイベント参加が可能になるわけだ。 「欧米じゃそんなのは通用しないよ」と口癖のように言うTwitterの有名人がい て、私はそいつが大嫌いだから、Maker Faireの日米比較論なんてのもやめにしたい。日本のMakerは知識もスキルも実行力もユーモア感覚も、欧米と互角だ。MFBAに出展されていたものはすべて日本でも作れる。 とはいえ、日本のMakerに危惧していることはある。作品が全体にこぢんまりして、テーブルに載るようなものが多いということだ。 コミケなどの同人誌即売会では折りたたみの会議テーブルが規則的に並ぶ。典型的には長辺180cmのテーブルを二組の出展者で使うからかなり窮屈で、俯瞰すると養鶏場のような眺めになる。Maker Faire Tokyo もメイン会場はテーブルの列 だ。
「MFBA 2014の展示スペース」
「Maker Faire Tokyo 2013の展示スペース」
アメリカのMaker Faireでもテーブルは使われているが、列をなしてはいない。フェンスで仕切られた出展者ごとのブースがあり、中は自由に配置されている。仕切りの内側を一個の「店」とする感じだ。 Maker Faire Tokyo が Make Tokyo Meetingと呼ばれていた頃、会場は大学キャンパスなどを転々としていた。ガソリンエンジンで動くロボットや火を噴くジェットエンジン、自作の乗り物が屋外を走り回っていたりしたのだが、会場がお台場の科学未来館に移ってからは、ちょっとおとなしくなってしまった。 屋外スペースがあまり活きておらず、屋内は規制が厳しい。狭い展示スペースにみっしり並んで、テーブルに乗る小さな作品を展示している。大物を展示するスペースもあるのだが、少数派だ。 小さな作品が多いのは個性や国民性によるのだろうか? あるいは住宅事情の問題だろうか?それならいいのだが、ムーブメントを先導するMaker Faireの展示フォーマットが作品の枷にならないか、少し心配している。 コミケが三日間で50万人もの来場者をさばき、大きなトラブルを起こさずにやってきたのは偉大なことだ。その極限まで高密度なレイアウトは、少しでも多くのクリエイターに発表の場を与えようとする努力から生まれたものだろう。それはMaker Faireでも同じだ。 だが、コミケで扱うのは基本的に書籍だから、売り場の狭さは創造性を制約しない。Makerの作品はそれよりずっと振幅が大きい。 Maker Faireは個人主義のやんちゃなイベント、換言すればMakerの人生を背負った作品の展示場であってほしいから、まずはMaker自身がそれを自覚して「作品はテーブルに収めなければならない」などと考えないことを望みたい。 そして主催者側には、大型作品を展示・搬入出しやすくすること、屋外などに燃焼や高エネルギー反応を生かせる作品の展示スペースを用意してほしいと願うものだ。お台場では無理というなら、長野や北海道に広大なスペースを確保して二、三日キャンプしながら参加するスタイルのMaker Faireを別途開催してもいいだろ う。そんなイベントを作るのも、Makerのテーマのひとつだ。