最初から情熱を持っていた偉人はいない
この写真は、私がゴールドマンを退職したその日に撮った写真です。4年前、24歳の私はとても不安でした。この24歳のちっぽけな若造が、コネもお金もなくて、この小さな手で、どんな未来を切り開いていけるのだろう。そう思っていたんですね。
しかし一方で、大きな希望もありました。こんな小さい手のひらではありますけど、大企業にいない以上、アップサイドは無限大! 全部自分で創造していくことができる。この小さい手のひらからでも、すごく大きな未来を築いていけるのではないか? と思った。その、不安と希望が入り混じった瞬間を、覚えておきたいと思って、シャッターを切ったのだと思います。
こうして私は、会社をやめました。けれども、すぐ、そんな簡単に情熱をぶつけられるものを見つけたわけではありませんでした。この、「何がやりたいのかわからない」という質問は、多くの学生のみなさんや社会人2、3年目の方から受ける質問です。私もまさにそうでした。
好きなことをやればいい。けど、何が好きなのか? そもそもわからない。そういった方がすごくたくさんいると思います。
28年間生きてきてわかったことは、「情熱を注ぎ込めるものを、最初から持っている人はいない」ということです。これは岡本太郎の言葉から気づきを得たのですけれども。
世の中の偉業を成し遂げている人たちというのは、最初から情熱があったり、「これが好きだ!」と言って、そのことをしたのではなくて、とにかく目の前にあったオプションを、ひとつひとつ、愚直に地道にシンプルにやっていって、ダメだったらすぐ次! そしてその次のことに全力で向かう! ということを、愚直に地道にやっていった結果、これは自分が情熱を注げるものだと気づいたり、これは自分が好きなことだ、これを自分はやりたかったのだ! と気づく。
ということが、私もわかってきたんですね。ですので私も、ともかく目の前のオプションに全力でタックルして、やってみることにしました。
皆が心の底から楽しんで働けば、日本は元気になる
私はまず、北海道に飛びました。私の母が、北海道に単身赴任していて、家があったので、そこに転がり込んで、朝から晩までマンガを書きました(笑)。
私はこう見えて、子供の頃から漫画家になりたいという夢があり、大学3年生の頃には長編マンガを書いて、それを「モーニング」編集部に持ち込むなんてこともしていたぐらいです。もしかしたら、これが、自分が情熱を傾けられる仕事なのかもしれない。そう思って、朝から晩まで、毎日毎日、半年以上、全部で30作品以上、書き続けました。
結果はどうだったか? ……ぜんぜん、ダメでした。
やはり日本のマンガ業界というのはすごくレベルが高く、私のような24歳の若造が、金融機関を経て、ちょっとがんばったからといって、なれるような世界ではなかったですね。けれども私は、そこで挫折をし、諦めてしまうというよりは、また、次のオプション、次のアイディアに目を移していきました。
それが、マンガ投稿サイトです。
私は、コンピュータサイエンスを大学で教えている父の影響もあり、子供の頃からプログラミングをしていました。小学校や中学校で、サイトを作り、運営していた経験があったので、このマンガを投稿するWebサービスのアイディアはおもしろいと思い、イスラエルにいるエンジニアのチームといっしょに、「Magajin」(マガジン)というサービスを作りました。
そして、これを売り込むために、参加したインターネット系のカンファレンスで、Facebook Japanの代表だった児玉(太郎)さんにお会いし、そこで彼に導かれて、Facebook Japanの初期メンバーとして、参画させていただきました。
私は、Facebookはこれから日本ですごく大きくなる! ということを確信し、そのプラットホームの上で何かやりたいと、そう思うようになりました。
そこで、Facebookを経て、自分で本を読みながら、Ruby on Railsというプログラミング言語を使って、Wantedly.com(ウォンテッドリー ドッドコム)というサイトを作りました。最初はひとりで、マンションの一室から始まったこのプロジェクトでしたが、会社になり、人もどんどん巻き込んでいき、メンバーも増え、今では大きく成長を遂げています。5万人を超える会員ユーザーに使っていただけるほど大きくなりました。
振り返ってみると、私はスティーブ・ジョブスが言うように、母がやってきたように、諦めずに、とにかく情熱をぶつけられるものを探せるまで、目の前のことだけを、次から次へ試してきています。
キーは、計画を立てないことだと思います。世の中の多くの人は、10年20年先のキャリアパスや、自分の人生の計画を立て、そこから逆算し、自分が今、何をすべきだろう? そう思い悩んで、勉強したり、転職活動したりします。
でも、そうではないんです。自分でたててしまった目標以上に、それを超えることはできないと思います。
四年前の私に戻りましょう。会社をやめるときの私は、とても不安でした。もう給料もボーナスも振り込まれない。どうなるのだろう?
けど今では、心の底から思っています。一歩を踏み出して、本当によかったと。この世の中は、みなさんが知っているような大企業や、職業や、キャリアパスでできているわけではないんです。それはすべて、自分たちと同じような、過去に生きた、生身の人間が作った創造物にすぎません。ですから、その創造物の枠組の中で、縮こまって生きる必要はないんです。
過去の人間が作った、職業だとか、大学だとか、企業の名前を自分のゴールに設定するのではなく、自分がそのシステムを作る側にまわることができるんです。私は28年間生きてきて、それを学びました。
私は、心の底から確信しています。人生の大半以上を占める仕事だからこそ、そこに対して、情熱を持って働ける人が増えるほど、世の中がとても元気な場所になると。仕事で心踊る人が増えれば増えるほど、日本が元気になっていくと。
最後にクオートでしめさせて下さい。
Only way to do great work is to love what you do. If you haven’t found it yet, keep looking. Don’t settle.
(偉業を成し遂げるためには、その仕事を心の底から愛し、そして情熱を注ぎ込む必要がある。もし、その仕事を見つけていないのであれば、そういった仕事を諦めずに探し続ける必要がある。)
ありがとうございました。
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