Nikon presents アスリートの眼差し

不世出のボランチの仕事はピッチ上のすべての選手の位置と動きを「見る」ことから始まる。

　1999年、静岡県で開催されたヤングサッカーフェスティバルを訪れた当時の浦和レッズGMである横山謙三氏は、中盤の底で汗をかく一人のプレイヤーに注目していた。決して目立つ存在ではない。実際、目当ては別の選手だったのだが、試合後、横山がスカウト部長に「あいつを獲れ」と命じたのは、そのボランチだった。「最近では珍しく危機察知能力を持つ選手」。東海大翔洋高の鈴木啓太である。
その後の活躍は周知の通り。レッズのボランチとして不動の地位を築き、日本代表にも選出。オシム時代は「日本のマケレレ」とも称され、持ち前のリスクマネジメント能力とハードワークで代表の中盤を支える存在となった。

　鈴木啓太の仕事はピッチ上のすべての選手の位置と動きを「見る」ことから始まる。
「プレーする上で心がけているのは、情報をできるだけ多く入れることですね。どこに敵がいて、どういう動きをしようとしているのかをたえず見ています。ただ現状を把握するだけじゃなくて、１秒１秒状況が変わっていく中で、次にその選手がどう動くのか、予測を立てて情報処理しながら見ているんです」

「ここに走られたら嫌だな、ここは危ないなというところが、パッと目に入ってくるんですよ」

　ボランチに求められるのは、いま見えている状況から一瞬先の未来をイメージし、リスクの芽を摘み、ゲームをコントロールする力。優れたプレーメーカーの中には「ピッチが俯瞰で見える」という選手がいるが、鈴木啓太の場合は「危険なエリアがポコンとあいて見える」のだという。
「ここに走られたら嫌だな、ここは危ないなというところが、パッと目に入ってくるんですよ。それが見えた瞬間、もう走り出していて、スペースを埋める動きをしていることが多いですね」
そうやってボールのないところでたえずポジションを修正し続けることで、危険が顕在化するのを防いでしまう。すると、一見ピッチ上では何事も起きていないように見える。そのため、その特異な能力はなかなか理解されにくい。
「いろいろなタイプの選手がいると思うんですけど、僕自身がプロサッカー選手としてやれているのは、視野の広さや、状況判断力、危険予測力があるからなんだと思います。次の局面が見えるから、自分がいるべきポジション、相手にとって嫌な位置が自然に分かるんですよ。元々持っていた部分もあるでしょうし、経験を重ねる中で蓄積してきた部分もあると思います」