経済の低成長下で米株高が続き、ダウ工業株30種平均は初めて1万7000ドルに乗せた。好調な企業業績がけん引役だが、持続性には懐疑的な見方もある。
ダウ平均は1年前より14%、2009年3月の金融危機後の安値から160%上げた。この間の米実質国内総生産(GDP)成長率は年平均で1%台なので、株価の好調は際立つ。何が理由か。
「カネ余りが演出した株高」との声は多い。実際、米連邦準備理事会(FRB)の果敢な金融緩和で市場金利が急低下。運用益に飢えた投資家が株式などへの投資を増やす「ポートフォリオ・リバランス」を加速させたのは間違いない。
ただ相場の過熱感を示す株価収益率はシラー・米エール大教授がはじく景気変動をならした指数でみて26倍。過去の平均の15倍を上回るものの、00年のIT(情報技術)バブル時の46倍には遠い。
堅調な米企業業績が株高を支える。米調査会社ファクトセットによると、主要500社の13年の1株利益は前年比8%伸び過去最高。株高には一応の裏付けがある。
むしろ着目すべきは低成長下の好業績の理由だ。企業の1株利益を左右する要因は主に売上高、利益率、発行済み株式数の3つ。このうち売上高は名目成長率にほぼ比例する。「好景気→株高」という通常のパターンでは売上高の伸びが利益拡大の主な原動力だ。
今回は違う。低成長に伴い主要企業の売上高の伸びは13年が3%、09年比でも30%にとどまる。一方、1株利益は13年が8%、09年比では84%も伸びた。
その原動力は、利益率の大幅な改善だ。直近の売上高に対する純利益率は10%に迫り、過去最高の水準にある。
直近は6年ぶりの水準に膨らんだ自社株買いで発行済み株数が減っており、1株利益を押し上げた面もある。つまり足元の株高は、コストと株数を削り、絞り出した利益を少ない株式に凝縮させる“縮小均衡”経営のたまものといえる。
問題はその持続性だ。企業の利益率が急上昇した主因は最大のコスト項目である人件費の圧縮。リストラや賃金カット、非正社員への切り替えなどが可能だったのは、ヒト余りで、企業の立場が強かったからだ。クルーグマン米プリンストン大教授は「企業には緩やかな景気停滞が実は有利」と指摘する。
だが3日の米雇用統計で6月の失業率が6.1%まで下がるなど、雇用情勢は改善が続く。JPモルガン・アセット・マネジメントは「労働市場が引き締まり賃金が上がるにつれ、企業のコストが増えて利益率を圧迫する」と指摘。向こう数年は利益の伸びが5%前後にとどまり、株価の逆風になるとみる。
理想は売上高がコスト上昇分を上回る勢いで伸び、利益も株価も上向くシナリオだが、景気はそこまで力強くはない。企業が生産性を高め人件費増を吸収することも可能だが、自社株買いなどが活発になる裏で設備投資は低迷しており、生産性の足を引っ張る。
今後は、異例の金融緩和の巻き戻しでカネ余りも解消へ向かう。米株価には低成長ながらカネもヒトもだぶついた今が、実は居心地のいい状態なのかもしれない。
(米州総局編集委員 西村博之)
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