(2014年7月4日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
今までは、スコットランド・プレミアリーグのダンディー・ユナイテッド対セルティック戦でレフェリーのダギー・マクドナルド氏がペナルティーキックを与えた理由について嘘をついたことを覚えていたのは、ごく少数のスコットランドのサッカーファンだけだった。
だが、マクドナルド氏は3日、「忘れられる権利」に関する新しい欧州の規則を利用する先頭集団の1人になった後、図らずも世界的な注目を集めてしまった。
欧州司法裁判所が5月に下した画期的な判決は、オンライン上での自身の評判を管理する力を人に与えることを意図していた。欧州の人々は一定の条件の下で、検索エンジンに対して「不適切、無関係、あるいはもはや意味を失った」個人的データへのリンクの削除を要請できる。
しかし、6月末にグーグルが判決内容を実践し始めると、数々の珍事と矛盾が表面化した。
相次ぎ表面化する珍事と矛盾
マクドナルド氏のケースでは、グーグルは、問題の審判判定に関する英ガーディアン紙と英メールオンラインの記事へのリンクを削除する要求に応じた。このため、マクドナルド氏の名前をグーグル検索すると、それらの記事は検索結果に表示されなくなった。
だが、グーグルは会社方針に従って、記事へのリンクをやめたことをガーディアンとメールオンラインに通知した。両媒体は当然ながら、数十万人に上る読者にこの事実を公表した。
事態はさらに発展した。ガーディアンが問題の記事は公共の利益にかなうと主張してリンク削除について公に苦情を申し入れた後、グーグルが3日夜にガーディアンの記事へのリンクを元に戻したのだ。
「明確なケースもあるが、大半の事案はグレイゾーンに入るだろう」と法律事務所ホーガン・ロヴェルズのパートナー、エドゥアルド・ウスタラン氏(ロンドン在勤)は言う。「グーグルは今、ある記事が公共の利益にかなうか否かを判断する責務を負った。一企業にとっては難しいことだ」
グーグルは1カ月前に、同社の欧州のサイトを訪れる人が削除要請を行う正式ルートを設定し始めた。それ以来、グーグルは7万件以上の削除要請を受け取った。時間が経つにつれて要請のペースは落ちてきたが、まだ1日当たり1000件の要請がある。1~2分ごとに1件のペースだ。