(英エコノミスト誌 2014年6月28日号)
日本の経済と社会を作り変える安倍晋三氏の戦いは新たな段階に入りつつある。
5月17日に日本のポップスター、ASKAが覚せい剤所持で逮捕されたことは、普通ならほとんど注目を集めなかっただろう。だが、この事件には大きな広がりを見せた。
ASKAは人材派遣会社パソナの創業者、南部靖之氏の知人だ。ASKAの逮捕を受けて、あるタブロイド紙は、完璧な内装が施された東京のゲストハウスで南部氏が開いた豪華なパティーに関する記事を書き立てた。お祭り騒ぎをするゲストの中には、ASKAの他に、華やかなホステスや安倍晋三首相率いる政府の大物政治家もいた。その1人は厚労相の田村憲久氏だった。
不安を抱き始めた改革反対派
奇妙に思えるが、このスキャンダルは、日本を一新する安倍氏の戦略がようやく影響を及ぼしつつあることを示す兆候だ。
安倍氏の改革に反対する向きは、改革の推進派にダメージを与えようと思うほど先行きを心配している。労働市場は主な戦場の1つだ。これは、その武器の1つである暴露ジャーナリズムだと安倍氏の顧問は不平をこぼす。
反対勢力が不安がるのは当然だ。政府は6月下旬、構造改革の青写真を閣議決定した。数え切れないほどの失望の後で、日本はようやく、改革を不可避にする政治状況と経済的緊急性を併せ持ち、安倍氏の内に改革を実現する才覚を持った指導者をいただいているのかもしれない。
安倍氏は2013年、長年の経済不振から日本を脱却させるための3部構成の大胆な計画に着手した。昔話から言葉を借りて、安倍氏は自身の改革を「3本の矢」と名付けた。第1の矢は経済に刺激を与える財政出動で、第2の矢は大規模な量的緩和を通じた前例のない金融刺激策だった。そして第3の矢は、長期的な経済成長率を押し上げることを狙った一連の大胆な構造改革だ。
あえて広範囲に及ぶ改革を試みた直近の日本の首相は、安倍氏の師で2001~06年に政権を担った小泉純一郎氏だった。小泉氏と同様、安倍氏も今、抵抗の壁に直面している。労働組合、農家、医師、大企業、そして政官界の彼らの支持者らが一致団結して改革に反対している。
3本目の矢は最も重要だが、射るのが最も難しい。安倍氏が挑戦するかどうかさえも疑う不安が募っていた。だが、日本の根深い問題――急激に減少する人口、リスク回避姿勢を取る企業部門、いつか危機を引き起こしかねない危険なほど高水準の公的債務(国内総生産=GDP=の240%)、柔軟性のない労働市場――は悪化する一方だ。
安倍氏の大構想の最初の2つの段階は、速やかに達成された。10兆3000億円の財政刺激策は、安倍氏が2012年12月に首相に返り咲いてから1カ月後に実施された。政権交代の3カ月後に日銀総裁に就任した黒田東彦氏は即座に、日本経済を長期のデフレスパイラルから引っ張り出すために大規模な量的緩和に着手した。