日々の音色とことば

もう言い忘れないために、書いていきます。

「一人の政治家が日本中のミュージシャンのクリエイティビティに火をつける現象」に名前をつけたい。

f:id:shiba-710:20140706125605j:plain

 

 

というわけで、今回は野々村竜太郎議員の話。もちろんわざわざ「ムネオハウス系」とか言わなくても、「MAD」でも「ナードコア」でもいいんですけれどね(このへんの言葉の違いとか細かい定義とか歴史的な経緯に関しては面倒なので詳しい人に譲ります)

 

まずは振り返り。野々村竜太郎県議が、政務活動費の不自然な支出について釈明会見を行ったのが7月1日のこと。「号泣会見」のニュースは大きな話題になり、そこから数日のうちに数々のネタ動画が投稿された。ここ数日はこれらの動画のおかげでお腹痛くなる毎日でした。

あとになったらきっと忘れちゃったり、どうでもよくなったりしちゃうと思うので、今のタイミングでちゃんとまとめておこう。(そして、沢山のバイラル系メディアやニュースメディアが「【爆笑必至】」とか「笑ったらシェア」とか言って紹介・拡散しながら、動画の作り手のことには一切触れなかったということも、ちゃんと覚えておこう)

 

 ■ダブステップ、スクリーモ、ラウド×エレクトロ

まず先陣を切ったのはこの人。号泣会見のニュースが話題になった当日の発表。「【ダブステップ】野々村竜太郎議員をリミックスしてみた」。早い!

【ダブステップ】野々村竜太郎議員をリミックスしてみた

 

作者は「さつき が てんこもり」(@TENKOMORI)さん。ボカロPとして活動するだけでなく、アイドルグループの私立恵比寿中学や末広アンテナの楽曲、アニメ「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」エンディングテーマなどを提供しているプロの作曲家。アルバム『身辺整理』がリリースされたばかり。まさに「プロの犯行」だ。

 

身辺整理

身辺整理

  • アーティスト: さつきがてんこもり,初音ミク,鏡音リン,GUMI
  • 出版社/メーカー: Subcul-rise Record
  • 発売日: 2014/06/25
  • メディア: CD
  • この商品を含むブログを見る
 

 

 

そしてこれ。「叙情系ハードコアバンドに加入」。まさに「スクリーム+エモ」という語源通りの「スクリーモ」。

 


野々村竜太郎議員が叙情系ハードコアバンドに加入 

 

「野々村竜太郎議員が叙情系ハードコアバンドに加入」

 

作者は”いちにゃんこ”さん(@Kats@FST)。茨城を拠点に活動するバンドFixed Sound Trackerのボーカル兼プログラミング。バンドの音楽ジャンルは「ネバリーモ」だそう。

 

地元茨城を愛するが故、特産物である納豆を連想させる"粘り"
未だかつて無い"何か"を造りだす"NEVER"を
音楽のジャンルであるscreamoと融合させ
screamo+茨城=ネバリーモを掲げ
県外でも勢力的に活動する

(公式サイトのプロフィールより)

 

今年の2月にはミニアルバム『AVENGERS』がリリースされている。

 

AVENGERS

AVENGERS

 

 

続いては、またもダブステップ。というかSkrilex的なブロステップですね。1分30秒あたりからの展開が何度聴いてもヤバい。野々村議員の号泣とラウド×エレクトロは相性がいいなー。

  

【オリジナル曲】NNMR【Dubstep】

 

作者はRin(ぎんすけ) さん(@rinx2musixxx)。同人音楽サークル「クロネコラウンジ」のメンバー。ニコニコ動画を中心に活動し、東方projectの楽曲やインスト、ボーカロイド楽曲提供までおこなっている。

  

最新作はOcelot名義で6月27日にリリースされたアルバム『MainC』。こちらはボーカロイド×ダブステップな作品。格好いい。

 

 

ManiC

ManiC

  • Ocelot
  • Electronic
  • ¥900

 

 ■ギター、ピアノ、演奏してみた

 

 

「演奏してみた」カテゴリの1位は以下。ギター完コピ。これはバカテクだ。

 

「「野々村議員-政務費不正疑惑-泣き乱しながら潔白主張」を弾いてみたょ」 

投稿者はRio.Tさん(@RioT_Clover)。普段は「演奏してみた」カテゴリに投稿しているミュージシャン。動画はGLAYのHISASHIさん、T.M.Revolutionの西川貴教さんも絶賛してました。

 

 

そしてピアノによる「弾いてみた」がこちら。動画の説明文にある通り上記のRio.Tさんにインスパイアされて投稿してみたとのこと。いやー、絶対音感の持ち主ってすごい。

 

「野々村議員-泣き乱しながら潔白主張をピアノで弾いてみたらアンビエント」

 

譜面も公開されてました。

 

投稿者は「とどろき」こと伊賀拓郎さん(@igatakurou)。都内ライブハウスを中心としたピアニスト、シンセシストとしての演奏活動、作曲、アレンジ、スタジオレコーディング等幅広く活躍中。

ファイナルファンタジーシリーズのサウンドトラックに参加したり、最近では高嶋ちさ子のアルバム『ロマンティック・メロディーズ ~マイ・ベスト・クラシックス』収録曲のバックでピアノを弾いたり、アレンジを手掛けているという。こちらも「プロの犯行」でした。

  

ロマンティック・メロディーズ ~マイ・ベスト・クラシックス

ロマンティック・メロディーズ ~マイ・ベスト・クラシックス

 

 

■「祭り」の構造とクリエイティビティ

 

一つのネタが投下されると沢山のクリエイターがこぞってそれを「祭り」にする構造は、かつてあったムネオハウスと酷似している。でも、あの頃とは隔世の感があるのは、こうやって、ちょっと調べたら一人一人の音楽活動がすぐにわかること。そして、やってる人たちはみんな「遊び」と「仕事」の境界線が曖昧になってる、ってこと。

あの頃は2ちゃんねるのテクノ板だった。投稿した人は基本的には匿名の存在だった。でも、今はこんな風にしてプロとアマチュアの垣根なく、YouTubeやニコニコ動画からツイッターをたどって、誰がやってるのがちゃんと明らかになる時代だ。

  

 

拙著『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』で書いたことにも通じるけれど、初音ミクの発売直後の「祭り」だって、基本的な構造は同じだと思うのだよね。一つの大きな「ネタ」が投下されて、みんながこぞってそれをオモチャにして遊ぶうちに、クリエイティビティっていうのは発揮される。「創造性」ってのは、個人の内面から自発的に沸き上がってきたりするようなものだけでなく、「遊び場」の熱気から生まれるようなものでもあると思うのです。

しかも、ニコ動やYouTubeは投稿の再生数が伸びればクリエイターにとっての収入になるプラットフォームでもあるわけで。

もちろん、解決されてない問題もある。たとえば著作権侵害について。

「まず、野々村議員のニュース動画を使って投稿する場合、著作権法の問題があります。著作権者の許諾なしにネットに投稿すると、著作権のひとつである『公衆送信権』を侵害することになります。

さらに、野々村議員の『号泣』と組み合わせる素材として、テレビドラマや映画を使って投稿するのであれば、こちらも同様に『公衆送信権』の侵害になります」

 

半沢直樹と「号泣議員」が共演・・・続々と誕生する「MAD動画」に問題はないの?|弁護士ドットコムトピックス

http://www.bengo4.com/topics/1742/

 

そもそもこの問題ばかりクローズアップされるのがバランスを欠いているという指摘もある。小田嶋隆さんの言うことも「確かにそうだよなあ」と思う。

大いに笑い転げておいて言うのも気がひけるのだが、21世紀にはいってからこっち、われわれは、この種の「ネタ動画」に振り回され過ぎているようにも思える。

 「ネタ動画」は全てを越える:日経ビジネスオンライン

http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20140703/268055/

 

 

他に大事な政治的問題があるだろうとか、集団的自衛権の問題はどうなのかとか、いろいろ笑ってられない昨今ではありますけどね。そして、もちろん、そもそも「笑う」こと、「嗤う」こと、ネタにされることによって本人が受けるだろうストレスも大きいとは思う。

 

でも、僕としては日本という国においてこんなにも「才能の無駄遣い」がされているという、そこはなんとも素晴らしいなあと思うわけです。