財政規律について、ドイツを称賛・日本を批判する内容ですが、その原因が考察されていない内容の乏しい記事です・
- ドイツにできて日本はできない財政再建 (BLOGOS)
何が日独の財政状況の違いをもたらしたのかを考察すると、外交問題にも通じる日本の病根が見えてきます。
日独の財政状況の違いをもたらしたのは経常収支です。【「預金封鎖」の記事と経常収支赤字化の懸念】でも言及しましたが、日本の経常収支には「15兆円(GDP比3%)の天井」が存在しました。1980年代から1990年代後半まで、日本の経済力と対日貿易赤字の拡大を警戒したアメリカ政府は、日本に経常収支黒字の抑制*1を要求し、日本もこれに従ったためです。そのための方策が、
でした。日本経済の弱体化の遠因です。
一方ドイツは、旧東独の再建が一段落し、ユーロの流通が開始された2002年頃から、経常収支が急拡大に転じました。通貨統合以前は、周辺国に対するドイツの相対的生産性上昇はマルク高で相殺されていましたが、通貨統合後はドイツの輸出競争力上昇に直結したことが根底にあります。黒字は「3%の天井」の比ではない7%前後をキープしており、1990年代の旧東独再建のための巨額の財政支出(→経常収支赤字)を取り返しています。
強すぎるドイツの輸出競争力に対して周辺国からは批判や苦情が出ていますが、ドイツ人は「ドイツに責任は無い」「ドイツの黒字は相手国にプラスの面もある」と、批判をはねのけています。
- Surplus Debate: Berlin's Export Whining Shows Double Standard (SPIEGEL ONLINE)
- Economic Doghouse: Complaints about German Exports Unfounded (SPIEGEL ONLINE)
アメリカの圧力に従っただけでなく、「円安はアジアに迷惑」など日本人以外には理解不能な理由で一方的譲歩(円安の自主規制)を続けた日本とは対照的です。*3
「経常収支のガラスの天井」が財政悪化を招いていたことは、天井が突き破られると明確になります。2003~04年の35兆円円売り介入による円安で、経常収支黒字がGDP比4%を超えると、財政は急改善して国債残高の増加は止まりました。
【スミザーズによるアベノミクスの根本的誤りの指摘】などで紹介しているスミザーズは、1990年代から
- 日本経済の貯蓄超過は人口動態からくる構造的なもの
- 貯蓄超過は大幅な経常収支黒字となるのが自然
- 割高な円相場が経常収支黒字を「自然な水準」より減らしている
- 日本経済には「円安→経常収支黒字拡大」が必要
と主張していましたが、日本政府は円高是正・経常収支黒字拡大が対外摩擦につながることを恐れて、「円の過大評価放置・維持&財政赤字」の道を選びました。その結果が、現在の輸出競争力低下と財政悪化です。
日本人にもドイツ人並みの精神力があれば、このような馬鹿げた事態は避けられていたでしょう。今更言っても仕方がないことですが。