中国の習近平国家主席は来韓2日目となる4日、ソウル大学で講演を行った。中国の国家主席が韓国国内の大学で講演を行うのは今回が初めてだ。習主席が韓国語で「アンニョンハシムニカ」とあいさつすると、会場では大きな拍手が起こった。習主席は講演で、韓国の人気テレビドラマに言及し、映像資料や1万冊以上の書籍をソウル大学に寄贈することを表明。さらにソウル大学の学生100人を夏に中国で行われる語学研修などに招待すると述べた。これは相手国の国民に直接語り掛け、支持を得ようとする「チャームオフェンシブ」と呼ばれる外交手法で、今回は習主席自らこれを行ったわけだ。
講演で習主席は「韓国と中国の両国は歴史的に見て、危機の時には常に互いを支援し、共に克服してきた」「400年前の壬申倭乱(じんしんわらん、文禄・慶長の役)のときに、両国国民は共に(日本への)敵対心を持って肩を並べ、戦場に向かった」と述べた。さらに「20世紀前半には、日本の軍国主義による野蛮な侵奪、韓国と中国の領土の強奪など、両国は大きな苦難に直面した。(そのたびに)私たち(両国)人民は生死を共にし、互いを支援し合った」とも訴えた。しかし中国が韓国を侵略し、国土をじゅうりんして女性や子供を連れ去った歴史については一切言及しなかった。このように習主席が講演で、韓国と中国がかつて日本の侵略に共に抵抗した歴史のみを一方的に取り上げた理由ははっきりしている。日本で安倍政権が発足して以降、中国と日本の対立は一層深刻化しているが、その状況で中国は韓国を自分たちの側につかせ、共同で日本に対抗したいと考えているのだ。
習主席は前日に行われた朴槿恵(パク・クンヘ)大統領との首脳会談でも「来年は中国の抗日戦争勝利および韓半島(朝鮮半島)光復(日本による植民地支配からの解放)70周年だ」と指摘し、韓国と中国が共同で記念行事を執り行うことを提案したという。両首脳は今回、2日間にわたり日本による歴史歪曲(わいきょく)などに対して深く意見を交換したとも伝えられている。しかしこれらについては首脳会談直後に発表された共同声明の中に一言も言及されなかった。習主席による提案が明らかになったのは、中国国営メディアが報道したからだ。二国間の首脳会談で第三国の問題ついて意見を交換したとしても、その内容は公開しないのが外交慣例であり国際的な常識だ。もちろん中国が今回、この慣例を無視したとは断言できない。しかし中国は習主席の発言や国営メディアの報道を通じ、現在の「中国対米国・日本」という対立構図において、韓国を中国の側に引き付ける狙いがあることを表明する形となった。
また習主席は今回の来韓を通じ「中国が主導する新しいアジアの秩序」に韓国が参加し、重要な役割を果たすよう望んでいることも明らかにした。現在、中国の外交は米国による中国包囲網を打破することにある。習主席は今年5月、上海で開催されたアジア相互信頼醸成措置会議(CICA)で「アジアの安全はアジアの人たちが守らねばならない」と主張し、この地域の安全保障に中国が中心的な役割を果たそうとする考えを明確にしたが、これもやはり米国の中国包囲網に対抗するために他ならない。韓国はこの会議に出席したが、明確な立場は今なお表明できていない。