担当編集者は知っている。


『ジッポウ4』
価格:998円(税込)
発行:ダイヤモンド社
ISBN-13: 978-4478003442
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「ほぼ日」で連載され大きな反響をよんだ対談
「親鸞 ーShinranー吉本隆明、糸井重里」
この対談は、季刊『ジッポウ』で実現しました。
今回ご紹介する最新の季刊『ジッポウ4』は、
親鸞特集の第2回目となります。
内田樹さんと釈徹宗さんの対談、
鶴見俊輔さんのロングインタビューなど、
読みどころ満載です。
この季刊『ジッポウ』の編集総指揮をされている
仏教総合研究所の松本圭介さんに
お話をうかがいました。
(「ほぼ日」渡辺)

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担当編集者/
  仏教総合研究所 松本圭介



2007年春に創刊された
季刊誌『ジッポウ』シリーズは、
こちら「ほぼ日」でも連載された
吉本隆明さんと糸井重里さんの対談を
巻頭に戴いた2007年秋号から
「21世紀のブディスト・マガジン」として
リニューアルしました。

『ジッポウ』は「ZIPPO」ではなく「十方」です。
十方とは、東西南北に四隅と上下を加えた
全方位をあらわす仏教の言葉。
生きとし生けるものをあまねく照らす
仏の智慧と慈悲のように‥‥。
ついつい説教じみた調子で
コンセプトを語りたがる担当編集者の私は、
編集者というよりむしろ、浄土真宗の坊主です。

単なる坊主がなぜ書籍の編集に関係するのか、
詳しくは鎌倉時代に遡ってしまいますので割愛しますが、
親鸞さんにはじまった浄土真宗は、
第八代蓮如さんによるいわゆる「御文」と呼ばれる
本願寺門主直筆のお手紙メディア戦略によって、
一気に全国へと広まりました。

時は下って平成の世、
本願寺も、いつまでもお手紙作戦ではいられません。
さまざまなメディアが氾濫するこの時代に、
いかにしてより多くの方々に仏教の魅力を伝えるか。
「いや、むしろこういう乾いた時代だからこそ、
 手書きの手紙の温もりこそが人の心に響くもの。
 すべての出版物は印刷に頼らずに
 昔ながらの手書きで発行しよう!」というのも
ひとつの気骨ある選択ではありますが、
そこは元来革新的気風を持つ本願寺。
「広く一般の人々に仏教を伝える」ために出版社と
協力して一般書店に流通する本を出そうと考えました。
その思いを引き受けた仏教総合研究所が、
このたびダイヤモンド社と協力して
季刊本を出すこととなったわけです。

しかし、ひとことで「仏教を伝えたい」といっても
いったい仏教の何を伝えればいいのか。

寺院や仏像に関するビジュアル誌は
すでに各社からいろんな本が出版されています。
でも、寺院や仏像の紹介も大事だけれど、
それは仏教の文化的・歴史的側面であって、
仏の教えそのものではないのではなかろうか。

かといって、
仏教学の入門書を作ればいいのかといえば
それこそお経の言葉になぞらえるなら
「ガンジス河の砂の数ほど」
たくさんの種類が出ています。

では、「ダイヤモンド社×仏教総合研究所」
でなければ、実現できないテーマはなんだろう。
ダイヤモンド社側の担当編集者である並木浩一氏と、
双方の得意分野から出て来る必然的帰結を探りました。

ダイヤモンド社といえばビジネス系の実用書に強い
出版社として知られています。
一方の仏教総合研究所は、
仏教を文化的・歴史的・学問的に研究するというよりは、
いかにして現代人のための生きた宗教として
仏教を表現していくかということを主眼としています。

よし、それならば一緒に
「実用×宗教」の仏教本を作ろうではないですか!
そうして「21世紀のブディストマガジン」という
コンセプトが固まりました。

仏教マガジンではなく、仏教徒のためのマガジン。
現代社会を生き抜くための実践的な道として
仏道を歩む人のための、ライフマガジンです。

といってもあまり身構えることなく、
ふつうに日々を過ごすふつうの人たちに、
「あ、こんなスタンスっていいかも」と
仏教のエッセンスをちょっとだけ
暮らしに取り入れてもらえたらいいなと。

たとえば美術館で出会う仏像、
ガイドを片手に目で見て鑑賞するだけでなく、
語りかけてくる心の声にも耳を傾けてみたくなるような。

ときどきは仏教の古典の言葉に触れて、
ふだんのモノの見方をほんの少しだけ変えてみたら、
カサカサしていた心が潤いを取り戻してくるような。

『ジッポウ』を読む人に
そんな感覚をもってもらえたら幸いです。

ところで、話が私事に逸れて恐縮ですが、
私は以前に著者として
『おぼうさん、はじめました。』という
本をダイヤモンド社から出版したことがありまして、
そのときに編集を担当していただいたのが
他ならぬ並木氏でした。
今回の仕事でお互いに思いがけず
再会することになったわけです。

並木氏は歴としたダイヤモンド社の編集者さんですが、
実は7年ほど前に思い立って
得度(お坊さんになる儀式)をされており、
サラリーマンでありながら僧籍をお持ちなのです。
私の本も、並木氏の推薦があって出版されたのでした。

したがって、この『ジッポウ』の編集は、
いわば僧侶の資格を持つ編集者と、
出版の経験のある僧侶とのコラボレーションによって
「実用×宗教」の微妙なバランスのうえに
成り立っていると言えます。
いずれにせよ
「2名の僧侶が編集している本」であることには
間違いありません!

さてさて、坊主の悪い癖で前置きが長くなりましたが、
今回の『ジッポウ4』で印象的なのは
やはり内田樹さんと釈徹宗さんの巻頭対談ですね。
神戸の中華料理屋さんで行われた収録は
大変に盛り上がりました。
本願寺出版社から刊行されている
インターネット持仏堂シリーズの番外編として、
書籍には収まりきらなかった様々な新テーマにも言及。
『ジッポウ3』に登場された吉本隆明さんについて
「あの人は知識人じゃないんですってば。
 戦後最もよく日本の思想界、
 論壇に大きな影響を与えた
 月島の船大工の息子というのが正しい自己規定」
と喝破される内田さんの舌鋒が、
紹興酒を前にますます鋭く冴え渡っておられます。


▲内田樹さん(左)と釈徹宗さん(右)

また、鶴見俊輔さんがインタビューで言われた
misplaced objectivity(客観性の誤用)
のお話は、大変身につまされるものでありました。
責任をとることの重さが
鶴見さんの言葉の重さとともに
心に響いて参ります。

そして第2特集の「海外仏教トレンド」のコーナー、
今回はニューヨークの仏教をとりあげています。
歴史が長過ぎることで生じてしまう
先入観や固定観念により、
日本ではかえって見えにくくなっている仏教の魅力を、
海外の視点を取り入れることで
逆輸入的に堀り起こそう
特にニューヨークは民族だけでなく
宗教のるつぼでもあり、
そこで展開される仏教の新しい動きは
とても興味深いです。

「マンハッタンで活躍する本願寺住職の托鉢」
「たった5ドルでニューヨークへ渡った禅僧」
「馬舎を改装して本堂に、ニューヨーク天台別院」


▲マンハッタンで活躍する本願寺住職の托鉢

以上、本の生まれた経緯、コンセプト、編集体制など
おそらく数ある仏教系書籍の中でも
少し変わったポジションにある『ジッポウ』ですが、
今後はさらに多くの方々との「仏縁」を
広めていけたら、とても嬉しいです。

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『ジッポウ4』
価格:998円(税込)
発行:ダイヤモンド社
ISBN-13: 978-4478003442
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担当編集者さんへの激励や感想などは、
メールの題名に本のタイトルを入れて、
postman@1101.comに送ってください。

2007-12-28-FRI

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