福島県内で“黒いピラミッド”と呼ばれるものがある。
除染作業で出た放射性廃棄物を詰めた黒い袋(フレコンバッグ)の総数は約14万個。そのフレコンバッグがあちこちで3段、4段と積み重ねられ、まるでピラミッドのように見えることから、住民たちがそう名づけたのだ。
その黒いピラミッドが今、危機を迎えている。福島で活動する環境NPO法人の職員が言う。
「フレコンバッグの耐用期間は3年から5年。福島第一原発事故からすでに3年3ヵ月が過ぎ、一部のフレコンバッグが破損し、汚染された土や草木などがむき出しになっているのです」
確かに、記者も同じようなケースを目撃している。今年3月、福島県田村市で除染の取材をしたときのこと。一部のフレコンバッグには縦に亀裂が走り、その裂け目から汚染土がこぼれ出ていた。
「水を含んだ汚泥や植物なども一緒に詰められているので、腐敗ガスが発生してパンパンに膨れ上がっていたり、草木から芽が出て袋を突き破るというケースもある。耐用期間が切れて劣化が進めば、さらに破れやすくなります」(環境NPO法人の職員)
フレコンバッグの大きさは1m四方で、重さは1~1.5tにもなる。NPO法人・原子力資料情報室の上澤千尋氏もこう危惧する。
「保管時だけではありません。将来、中間貯蔵施設に搬入しようとクレーンでつり上げた際、自重でフレコンバッグが破損することも考えられる。原子炉から生じる廃棄物を搬出するには、まず200リットルのドラム缶内に密封し、それをさらにひと回り大きな金属コンテナに入れて運び出すなどの細かなルールが法律で義務づけられています。フレコンバッグを搬出する際のルールも定めるべきなのです」
だが、国の反応は鈍い。フレコンバッグ破損にどう対処するのか、明確な対応策は示されないままだ。除染を実施しているある自治体の担当者がこう証言する。
「フレコンバッグが破損すれば、内容物を新しいフレコンバッグに移し替えなくてはいけないでしょうね。ただ、環境省からはそうした場合の具体的な指示は来ていません。新しいフレコンバッグを買うための予算措置もありません」