習近平(シーチンピン)・中国国家主席がソウルを訪れ、朴槿恵(パククネ)・韓国大統領と会談した。朴大統領はすでに昨年、訪中している。隣国の首脳が頻繁に会って信頼関係を築いているのを見るにつけ、安倍首相が両国いずれの首脳とも会談することができない現実に、思いを致さざるを得ない。

 中韓には、核実験やミサイル発射を続ける北朝鮮に対処する共通の利害がある。共同声明は朝鮮半島の非核化に多くの行数を割いた。中国は「血で固めた関係」とまで言われた北朝鮮との関係よりも、今はまず韓国を優先した形だ。

 安全保障面に劣らず目立つのは、経済での中韓協力の進展だ。自由貿易協定(FTA)の年内妥結をめざすほか、両国通貨である元・ウォンの直接取引を開始し、金融分野の関係強化を進める。習主席には中国の企業家250人が同行した。

 これで中韓の貿易・投資関係はいっそう緊密化するだろう。首脳会談には、現場での協力を加速させる力がある。一方で、日中韓のFTA交渉は進まない。中韓が先行すれば、中国市場で日本企業が不利な立場に置かれるおそれを顧慮すべきだ。

 日中韓首脳会談が東南アジア諸国連合(ASEAN)の場を借りて初めて開かれたのは15年前。08年からは3カ国の独立した会談となって実績を積み重ねたが、12年5月の北京を最後に中断している。きっかけは尖閣諸島国有化であり、安倍首相の靖国神社参拝など歴史認識問題が事態を悪化させた。

 歴史問題では今回、習主席が会談で「抗日戦勝利と朝鮮半島解放70年」にあたる来年、記念行事を開催しようと朴大統領に呼びかけたという。これに対しては、菅官房長官が「この地域の平和と協力の構築に全く役に立たない」と反論した。

 会談翌日には、両首脳が日本の集団的自衛権行使容認や「歴史修正主義」に改めて懸念を表明している。

 ただ、共同声明と付属文書を見る限りでは、従軍慰安婦問題の研究協力を明記したものの、中韓発のこれまでの言動と比べると、やや抑制的であるとも言える。しかも付属文書には、日中韓3カ国の協力が北東アジアの平和と繁栄に重要だとする文言が盛り込まれている。

 日本として、いまの両国、とくに中国に注文をつけたいことは軍事分野を含め山ほどある。そのためにも、歴史認識を政治問題化させる不毛を断ち切り、3カ国による首脳会談の再開を目指すべく、一歩を踏み出す時が来ている。