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キャッチ!インサイト 「強まる中韓関係」2014年07月04日 (金)
出石 直 解説委員
けさは緊密さを増す中国と韓国の関係についてお伝えします。
中国の習近平国家主席がソウルを訪れ、パク・クネ大統領と会談しました。今回が5回目となる両首脳の会談。中国と韓国の関係強化は東アジア情勢にどのような影響を与えるのでしょうか。
出石 直(いでいし・ただし)解説委員とともにお伝えします。
「強まる中韓関係」
Q1、きのうの首脳会談、どんな点に注目しましたか?
A1、キーワードは「パートナー」という言葉だと思います。
首脳会談の後に記者会見や共同声明でもこの言葉が何度も使われました。習近平国家主席は
「アジアの平和を守るパートナー」という言い方もしています。中国と韓国が主導して地域の平和を守っていくのだという強い意志が、この「パートナー」という言葉に込められているように思います。
見方を変えれば、日本やアメリカに対するけん制とも受け取れます。
Q2、中国と韓国の関係は、このところ非常に強くなっているように思うのですが、中国、韓国の思惑はどこにあるのでしょうか?
A2、中国と韓国は、朝鮮戦争で戦った敵同士です。両国が国交を正常化してからまだ22年しか経っていません。
急接近の理由、韓国が中国を重視しているのは、2つの大きな理由があります。
ひとつは「経済」、もうひとつは「安全保障」、とりわけ北朝鮮との関係です。
まず経済ですが、こちらのグラフをご覧下さい。韓国の貿易相手国の推移です。
かつてはアメリカと日本が最大の貿易相手でした。しかし中国の経済成長に伴って中国との貿易額がどんどん増え、2004年以降は中国が韓国にとっての最大の貿易相手国になります。
今では、中国との貿易額は、アメリカ、日本との貿易額を足した額よりも多くなっているのです。
貿易全体に占める割合を見てみますと、アメリカ、日本のシェアは下がり、中国が占める割合が急増しています。最近では20%、輸出だけをみると25%を占めるまでになっています。韓国は貿易立国ですから、韓国の経済は中国との貿易で支えられていると言っても過言ではありません。
Q3、中国を重視せざるを得ないということですね。
A3、もうひとつは安全保障、とりわけ北朝鮮との関係です。
前のイ・ミョンバク政権は、アメリカとの関係を重視するあまり、中国とはしっくり行っていませんでした。哨戒艦の沈没事件やヨンピョン島への砲撃でも中国からの支持を得ることができず、中国はむしろ北朝鮮を擁護する側でした。
「北朝鮮を動かすためには中国の力が欠かせない」。パク・クネ大統領は就任直後から中国との関係を重視するようになりました。中国もまた、いっこうに核やミサイル開発をやめようとしない北朝鮮に業を煮やして、北朝鮮に厳しく当たるようになってきました。
きのうの首脳会談でも北朝鮮の核開発に「強く反対する」と、これまでにない強い表現で、反対の立場を明確に打ち出しました。
経済面での深い結び付き、そして韓国にとってもっとも頭の痛い北朝鮮への対応、これらを考えれば、中国との関係を強化するのは当然だ、というのがパク・クネ政権の基本的なスタンスです。
Q4、一方の中国はどうなのでしょうか?
A4、中国はもっと大きな構想の中に中韓関係を位置付けているように思います。
中国の海洋進出をめぐって日本やアメリカ、それにベトナムやフィリピンなども中国を強く非難していますが、こうしたいわば“中国封じ込め“に対抗するために、中国は新しい安全保障の枠組みを提唱しています。ことし5月に上海で行われた国際会議で、習近平国家主席は、「アジアの安全はアジアの人々の手で守る」と演説しました。つまりアメリカを中心とした安全保障ではなく、中国主導の新しい安保体制を作るという壮大な構想です。
この上海での会議には、ロシアのプーチン大統領、イランのロウハ二大統領ら13か国の首脳が顔を揃えました。
今、アジアは、中国、ロシアを中心とした国々=大陸国家のグループと、中国の海洋進出に懸念を示す日本、アメリカ、フィリピン、ベトナム、オーストラリア、インドといった国々=海洋国家のグループの大きな2つのグループに分けられています。
中国は、韓国を自分達のグループに取り込もうとしています。
韓国との結びつきを強めることで、日米韓という日米同盟、日韓同盟を基軸とした関係にくさびを打ち込み、アメリカや日本をけん制する、同時に北朝鮮と対峙する韓国と連携して北朝鮮をけん制する、という思惑があるのだと思います。
Q5、日本との関係で言いますと、このところ中国と韓国が一緒になって日本批判を繰り返しているという印象を受けるのですが。
A5、共同声明でも日本を糾弾する厳しい文言が盛り込まれるのではないかと心配する声もありましたが、一言も言及はありませんでした。日本やアメリカとの関係を配慮したのかも知れません。
ただ慰安婦問題については、両国で共同研究を進めていくことで合意しています。日本と北朝鮮の政府間協議についても、日本が拉致問題を優先するあまり、前のめりに譲歩を重ねてしまうのではないかと警戒心を抱いているようです。
Q6、中国と韓国は「パートナー」になるということでしたが、先ほどの2つのグループ分けで言えば、韓国は中国の側のグループに入ろうとしているということなのでしょうか。
A6、そうは簡単に決めつけられません。韓国はアメリカの同盟国、韓国には在韓米軍が駐留し北の守りに当たっています。韓国も、アメリカとの関係を犠牲にしてまでも中国の側につこうとは思っていないと思います。韓国の専門家と話していても、「安全保障はアメリカ、経済は中国」と言う人もいれば、「北朝鮮への対応を考えれば、中国との連携、協力は欠かせない」と、安全保障面での中国の重要性を強調する人もいます。中国経済にばかり頼っていては危険だという指摘もありますし、日本についても、経済的な結びつきの深さやアメリカとの関係を考えれば、今のままでは良くないという声も聞かれます。
アジアをめぐっては、各国の様々な思惑が交錯しています。
今回の習近平国家主席の韓国訪問は、東アジア、あるいはアジア全体の国際関係を展望していくうえで、非常に重要なイベントだったように思います。