集団的自衛権:NGOの安全脅かす「平和国家の信用失墜」

毎日新聞 2014年07月03日 01時21分(最終更新 07月03日 01時23分)

 集団的自衛権の行使を容認する閣議決定が、海外で活動する非政府組織(NGO)に波紋を広げている。スーダンで住民の生活を支援している「日本国際ボランティアセンター」スーダン現地代表の今井高樹(たかき)さん(51)が毎日新聞の取材に応じ、自衛隊が海外で武力行使することへの懸念を訴えた。「平和国家という日本への印象を覆すことは、私たちの安全を脅かすことにもつながりかねない」という。【一條優太】

 今井さんは2007年から3年間、スーダン南部自治領(現在の南スーダン)で難民の支援活動をした。10年にはスーダンに移り、現在は首都ハルツームを拠点に活動する。

 スーダン南部の都市・カドグリで活動していた11年6月、今井さんの現地事務所が武装グループに襲撃された。今井さんは無事だったが、備品の発電機などが奪われた。前日から周辺の市街地で政府軍と反政府軍の衝突があり、銃声や砲撃音が響いていた。武装グループは軍服姿だったが、正規軍か、他の勢力かも判然としなかった。

 今井さんは、いったん市外に避難することを望んだ。救援に駆けつけたのは郊外に駐屯する国連平和維持軍ではなく、白い四輪駆動車に乗った非武装の救援隊だった。この車で今井さんは、紛争の現場から脱出した。「軍の車でなかったからこそ、無事に通過することができた」と今井さんは考えている。

 安倍内閣による閣議決定には、海外でNGOが襲撃された場合、国連平和維持活動(PKO)中の自衛隊が救援に駆けつけ、武器使用ができる「駆けつけ警護」を制度化する方針も盛り込まれた。今井さんはこれを、「現実味が薄い」と指摘する。「だれが敵かを見極めるのも困難なのが紛争地域の実態。しかも、PKO拠点の近くで活動するNGOばかりではない。駆けつけ警護という考え方は、リアリティーを欠いている」

 むしろ日本は「武力を使わない国」の強みを生かすべきだと言う。「日本には、平和国家として蓄積された信用がある。それが海外でのNGOの活動の支えだ」。自衛隊がいずれかの勢力に加担すると、現地の人々の反感や敵意を生み、それが危険につながるおそれがある。「外交で紛争を仲介し、教育や医療などの支援を地道に続けることが、海外の日本人を守る最も効果的な手段だ」と今井さんは確信している。

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