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2014.07.02

ハッピーエンド・バッドエンド……単に「現実だったら両方有り得る」という話をエンターテインメントとして描きたいと思ったのが最初だった。――「selector infected WIXOSS」佐藤卓哉監督インタビュー

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ニュータイプ7月号(6月10日発売)掲載時のインタビューにて、実はこんなインタビューが開催されていた!? 最終話が放送されてからじゃないと明かせない1万字インタビュー、WebNewtypeにて掲載!




方向性が一致した、作品

――トレーディングカードゲームを題材としながらも、ストーリーは完全オリジナルという本作ですが、なぜこんなにも見ていてつらいお話になったのでしょうか?

佐藤卓哉監督(以下、佐藤) もともと僕が最初に企画をうかがったときから「ハイターゲットである」ということは決まっていたんですね。カードゲームをベースにしたオリジナル話、しかもハイターゲットで子供向けじゃないものって何があるんだろう?と、最初のスタッフ顔合わせの前にそれぞれ考えてきたわけですよ。僕は僕で考えて、川瀬(浩平=プロデューサー)さんなり、岡田(麿里=シリーズ構成・脚本)さんなりがそれぞれ考えて、「せーの!」で出したものが「シビアな一対一の対決ものをやろう」ということで一致していた。どちらかが勝つということは、必ずどちらか負けるということだし、何かを賭けて戦うには常に代償がつきまとう。確かにちょっとつらいんだけど「現実ってそういう一面があるよね」とみんなが他人事じゃなく思えるような話をやろうよと。そこに川瀬さんのもうひとつの意向として、優しい話じゃなくて、ジェットコースター的な展開にしたいというのもあって、たまたまタイミングがよかったのか悪かったのか、僕もそういう気分だった(笑)。ドラマ性が強くて、次回がどうなるかわからない緊迫感のある作品をやりたいと思っていたときに、タイミングよくこの話が来ちゃったわけですよね。

同席していた川瀬プロデューサー(以下、川瀬) 「恐怖新聞」みたいなものですよ。

佐藤 そうかもしれない、今となっては(笑)。じゃあ、せっかくだから中途半端なものにはしないように、「本当に子供向けじゃなくていいんですね?」とタカラトミーの担当の山口さんへの確認を繰り返しながら、キャラクターデザインの雰囲気も含めて、全体の方向性として「キッズものに見えないように」というところから始めていきました。ストーリーがどうとか、主人公がどういう子でというのが固まる前に、そこは軸としてみんなが共有できたと思います。飛んだり跳ねたりするようなアクションものではなくて、心理的にグイグイ迫ってくるような怖さを出すものにしたいなと。それがスタートといえばスタートですね。最初に顔合わせしたときから、意外にみんなそう思っていたというところで。


――軸になる部分は最初からまったくブレていないということですか?

佐藤 川瀬さんが何かのインタビューで「『カイジ』をやりたかった」と言っていたけど、最初の打ち合わせでも「『カイジ』なんですよ、これ」と言っていたので。

川瀬 そこから変遷があるんですよ。出来上った1話を見たときには「あれ、『アカギ』つくっちゃったか」と思い、その後、5話でひっとえー(一衣)の状況を見たら「『闇金ウシジマくん』つくっちゃったか?」と。

佐藤 どういうブレ方なんだ!?(笑)。とはいえ、「じゃあ『カイジ』の女の子版をやりましょう」と思ったわけでもなくて。

川瀬 あくまで「的なもの」ですから。「カイジ」を作るわけではない。ヒリヒリする心理戦とか、「カイジ」のそういう部分を抜き出してやってみたらおもしろいんじゃないんですかね、と。というか、むしろ「やりたいんですけど」と言いまして。


――ストーリーやキャラクターの細かい設定などは、その方針に従って決まった?

佐藤 基本そうですね。見終わった後に、少なくとも安心感を与えるものではなくて、ザワザワとした感じが残るものにしたいというのは、はじめからブレていないと思います。


「ハッピーエンド」で終わらない

――その「ザワザワとした感じ」は、最終回まで見た後でも残るのでしょうか?

佐藤 そもそもの出発点として、シビアな対決を描くシリーズなので、判りやすいハッピーエンドになるとは限らないですよね。
ストーリーとしてひと段落つけて、キャラクターそれぞれにひとまず決着がつくところまでは描きたいんですけど、「みんなよかったね」とひと言で言い切れない、苦みが残るシリーズかも知れません。「最後に誰かが死ぬ」という作品でもないと思いますが。


――「誰かが死ぬ=バッドエンド」「誰も死なない=ハッピーエンド」という単純な分け方に当てはまるような作品ではない?

佐藤 別に辛いだけの話をやりたいわけでもなく、夢物語をやりたいわけでもなく、単に「現実だったら両方有り得る」という話をエンターテインメントとして描きたいと思ったのが最初だったので、そのようなラストをめざして今(※インタビューは5月中旬収録)頑張っています。


――「続きが気になる作品」というのは常に心がけていたことでもありますか?

佐藤 1話の終わり方も、まだ事件が本格的に始まる前なので、一見ちょっといい話に見えなくもないんですよ。るう子に新しい友達ができて、「タマっていうの」というところで終わるというのが「いい話に見られたくないな」と思ったので、ダビングの段階で「もっとノイズ足してください」とかいうこともやっていました。これはほのぼの系だねとか、これは誰か途中で死ぬ作品だよねとか、そういうふうに途中ですぐに分類されて、見る/見ないを決めてほしくないので、続けて見たくなる作品にしなくてはいけないなと。


――余談かもしれませんが、1話を見た段階では「るう子のおばあちゃんがWIXOSSのものすごい使い手で、ひょっとしたらラスボスなのでは?」という印象がありました。

佐藤 その可能性はいまだに残っているんですよ。2期のラストが決まってないですから。1話はシナリオの初稿を読んだときに「ばあちゃん、これからどうなるの?」という話も出たりしましたね。



「あきらっきー☆」は岡田麿里発案!?

――無邪気でかわいいけれども好戦的な面も時おり見えるタマがどのように育っていくのかも、序盤の展開を見ていて気になるところでした。

佐藤 最初は赤ちゃんなんですよね。ほかのルリグとは違って、まったく何もわからない赤ん坊のような状態で出てきて、それがことばを覚え始めて、だんだん感情が芽生えてきて、るう子との間に友情のようなものを感じるようになったり、後ろめたさのようなものを感じるようになったりという。タマをひと言でいえば、そういうキャラクターですかね。要するに普通の子供として生まれてきて、人生をすごい速さで体験しているような。悪気はないんだけど、無意識のうちに、誰かに誤解を与えて傷つけてしまったとか、それで自分も傷つくとか、悩むとか、そういう現実でもありそうなことを、タマはある一面で象徴していると思うんですけど。


――現実でもありそうなことをキャラクターが感じているから、見ていて気になるし、怖さのようなものを感じるということでしょうか?

佐藤 そうであってほしいですね。「現実につながっている感じが怖い」と言われるのが、自分としては一番シックリ来るんです。現場でも「これからどうなっていくの?」と心配しているスタッフがいるんですけど、たとえば晶の傷から血が飛び散るとか、そんなことは絶対ありえないということをさんざん言ってあります。現実に起こりうる怖いことを描こうとしている作品なのに、それをやった時点でスプラッターホラーになっちゃうじゃんと。タマもそうですし、るう子だとか晶だとか……晶は僕が語ってはいけないキャラですけど、あとは一衣にしても、キャラが感じている不安だとか喜びだとか、喜んだと思ったら「やっぱり違うのかな?」という揺れだとか、それはみんなが普通に感じていることだと思うので、そこをデフォルメして押し出していくというのが「selector ~」の基本的なスタンスだと思っています。


――「晶は僕が語ってはいけない」というのは?

佐藤 晶は川瀬プロデューサーの創造物だと僕は思っているので。

川瀬 いやいや、岡田麿里さんがえげつない肉付けをしたものを僕が盛りつけ、監督がきれいに、人にお見せできるような感じでまとめてくれました。僕と岡田さんだけだったら、もっとひどいキャラになっていたんじゃないかと(笑)。

佐藤 どこまで人間として突き放したキャラクターにするのかというところでは、岡田さんも最初はブレーキがかかっていたと思うんですよね。それを、さらにアクセル踏めという感じで川瀬さんが焚きつけて、7~8話辺りの展開ができていくわけです。思えば、自分の中で「なるほど、晶ってそうなんだ」と腑に落ちた時期があったんですけど、「『レイズナー』(『蒼き流星SPTレイズナー』)のゴステロなんだ」って(笑)。「俺は悪いことが大好きなんだよ!」っていうアイツだって気がついて、「なるほど!」って。

川瀬 アニメーションという表現で、わかりやすく悪党で、人間くさくて……となると、ゴステロが一番わかりやすいんじゃないですか?という話をしましたね。

佐藤 なんで腑に落ちたかというと、周りの人間を普通の人間として描く以上、それを振り回す、傍若無人なヤツがいたほうがいいんですよね。天災のような感じで「こいつには何も常識が通じない」というヤツがいてくれると、るう子や一衣……特にるう子かな? より強く揺さぶりがかけられるという意味で、ようやく納得できました。


――るう子たちと敵対するキャラクターとしての、晶と伊緒奈の対比はいかがですか?

佐藤 言っちゃえば、晶って小物なんですよね。容赦なく悪役になれるというのは小物ゆえというところもあるので、欲望にしても「自分のライバルを蹴落としたい」とか、ものすごくわかりやすい。るう子や伊緒奈はもうちょっと複雑な悩みを抱えていて、だから悪役にもなりきれないし、正義の味方にもなりきれないという。晶に関しては、普通の人間から逸脱しているから壊れやすいという面もありますよね。自分の思惑が外れたときにはすごく動揺したり、テンパっちゃったりするというのも、またわかりやすい。分析すると、その辺りもユーザーから意外に好かれちゃっている要因なのかな?

川瀬 そのまま描いてしまうとファンタジーになっちゃうのを、監督がうまく“人間”にしてくれたのが晶だと、僕は思います。だから人気が出るんだろうなって。やることなすことファンタジーなのを、演出の力でちゃんと人間として落とし込んでくれたので、不思議な魅力を持ったキャラクターとしてユーザーに響いたんだろうなとは思いますね。

佐藤 正直、晶は人気が出るにしても、もっと笑って見られるようなキャラクターとして扱われるのかもしれないなと思ったんですけど、わりと今そうじゃないんですよね。意外にあの傍若無人さを好きになってくれる人がいるので、「あれ? こんなはずでは……?」と思いながら(笑)。確かに、人間くさいといえば人間くさいので。そうなったのは赤﨑(千夏)さんの声とか芝居とかも大きいですね。

川瀬 ですね。キャラクターを膨らませてくれました。

佐藤 親しみを残したうえで、容赦なく心をえぐるように、ちゃんと芝居もこたえてくれるというのはありがたかったです。


――「あきらっきー」というフレーズは岡田さんのアイデアですか?

佐藤 あれは岡田さんしか出てこない。

川瀬 あの人の言葉のチョイスはいい意味でたまにおかしいけど(笑)。

佐藤 たまにというか……。

川瀬 せっかくフォローしたのに……(笑)。

佐藤 例えば、同じプロットで、同じストーリーで、別のライターさんが書いたら、あんなふうになりませんよ。なのになんであんなにパワフルなものになるんだといったら、ひとつにはことばのチョイスじゃないですか。

川瀬 ダイアローグのチョイスはすばらしいですね。

佐藤 「なんでこういう言い回しなのか?」というと、たぶん彼女の中でも理屈じゃないというか、理屈で説明出来ないものが思いきり出ているのが説得力につながっているんじゃないかな。「あきらっきー」ってフレーズも思いつきかも知れないけど、なぜか響いてしまうという。これは才能としか言いようがないですよね。そういういろんな化学反応が重なって出来上がったのが晶じゃないかと思います。


――晶の話で盛り上がったところで、伊緒奈についてもお話をお聞かせいただけますか?

川瀬 もちろん晶がこういうキャラだからこそ、伊緒奈がキャラとして立つんですよね。小物ではない、格上のキャラですよというのが、晶がいることによってちゃんとわかってもらえるし、そこで主人公との対立軸がどうなっていくんだろう?というのがストーリーテリングの楽しさだったりするので。

佐藤 伊緒奈ははじめから、るう子と対になるキャラクターとして描かれていて、それをベースにして芝居づけだったり、普段の立ち振る舞いだったりを決めているところはあります。何か言われるたびにすぐ揺れてしまうるう子と、どんなときでも冷静で感情を見せない伊緒奈を対比させて、実がこの2人の内面は限りなく近いというのを見せようと。晶のように、わかりやすくて人間的な願いをもてない、ちょっと達観した者同士というか、そういうところでつながっている。一見すると正反対に見えるんだけど、同一人物のような2人を対比させるような展開に11~12話はなってくるので、それをいかに際立たせるかということに集中しているところです。


各キャラクター、善悪の対比ではない


――単純に「るう子が善で伊緒奈が悪」という対立軸ではない?

佐藤 この作品では「白と黒の対比」というのが自分の中でテーマになりつつあって、「るう子が白だとしたら、イオナは黒にしよう」とか「タマの属性が白だったら、対するウリスは黒にしよう」とか、そういう黒と白の対決にラストはもっていきたかったんですけど、じゃあ「白がきれいで黒が汚いのか」というと、そうではなくて「黒があるから白がある」というようなことにしたくて、どちらがいいとか悪いとかいう話にはしたくなかったんですね。ラスボスとして伊緒奈が登場してきて、そいつを倒せばハッピーエンドという話にならないのも、そういう理由です。属性として正反対のものをもっているけど、白と黒ってカードの裏表みたいに共存しているものなんだよっていう。それ以外の、るう子と伊緒奈以外のキャラクターは白と黒の間の、グレーのグラデーションの中に存在するものであって、対極にある白と黒が対決するというのが11・12話の図式ですかね。結末的としてはるう子が勝つわけですけど、じゃあ本当に勝ったのかというと、そうとはいえないつくりになっているので、どちらが正しいという話にもなっていないと思います。最初に「キッズアニメにしない」という話をみんなが共有できた時点で、結末はそこしかないというのが見えていたというか。なので、伊緒奈も悪役ではないと僕は思っています。ちょっと人よりも才能があって、達観してしまって、自分の仲間を探していただけの人。むしろ人よりも感情的になれない、すぐ冷めてしまうというのが伊緒奈のマイナス面かもしれないし、完璧な人間ではないと思うんですよね。それがるう子と混ざり合ってどうなるか? ……という第2期を今つくっています(笑)。


――いったい、どんな話になるんですか?

佐藤 白と黒が1回混ざり合う。そこからどう展開して、どこに辿り着くのか。


――混ざった結果がグレーになるというものでもない?

佐藤 それではどっちつかずの人間になってしまう。「君は灰色の人間だね」と言われて喜ぶ人はいないわけで、落としどころとしてはちょっと違うものが必要だろうと。白と黒で今まではっきりと分かれていたはずの要素が混ざっちゃった後に、じゃあそれを自分の中でどう収めるの?というところですかね。「いい人だったのに悪いこともできるようになりました」というのは違うし、「悪い人がちょっと改心しました」というのも違う、どうすればカタルシスがあるんだろう?というのを探すのが2期のミッションじゃないかと思います。間違っても「白が勝ってよかったね」というものにしないように気をつけています。

川瀬 その辺りは「selector」というタイトル通りの展開ですよね。

佐藤 「selector」と最初につけたのは川瀬さんですけど、その前に「選び続けなければいけない」というテーマは決まっていて。必ず正解があるとは限らないんだけれども、それでも選ばないと先に進めないし、時間もいつまでも待ってくれないから、どちらかを選んで賭けなければいけないという連続の中で、女の子たちが選択していくという。それを毎回迫られる話にしていきたいなというのがスタート地点でもあったんですよね。そういう選択は現実でもみんなが繰り返していることだと思うので、どちらかが正解でしたとあっさり言える話にはしたくなかったですね、やっぱり。新宿を舞台にするというのもいつの間にか決まっていて、かなり初期の段階で川瀬さんや岡田さんらと写真を撮りに新宿の町をぶらぶら歩いたんですけど、西新宿辺りとかは古い町並みを手前に、向こうに副都心のビルが見えるというような対比がすごくあるんですよ。それをワンショットに収めるというのが絵としてやりたかったことなんですけど、それが「向こうの世界は金持ちで、手前が貧乏」とかいう勝者と敗者の対比みたいになってはいけなくて、価値としては同じだよというふうにしたかったんですね。まったく別の方向性を向いたものが同じフレームの中に2つ存在していて、それはどちらかに価値があるというものでもないという。「どちらかひとつを選択するが、どちらがいいとは必ずしも言いきれない」という自分の中に設定したテーマは、画面づくりのうえでも貫きたいなと思っています。

川瀬 絵的にも不思議じゃないですか。古い町並みの中にいきなりあんなビルのかたまりみたいなものが立つというのは。自分が極限に追い込まれた形で選択しなければいけないという世界観を表現するには、一般的な地方都市ではない、新宿みたいなビルに囲まれている街で、街自体の閉塞感をもって彼女たちがそこで人知れず戦う姿を描くのがいいんじゃないですかという話を僕からはさせていただきました。

佐藤 新宿を選んだというのはすごくシンボリックで、うまくハマったなと思うんですけど、なぜかというと地方都市とは違って選ぶことが極端にあるんですよね。最先端の暮らしもできるし、下町的な義理と人情の暮らしもしようと思えばできるし、両方の選択肢が極端にあるというのは、そのいびつさも含めて東京という都市がすごく合うなあと。舞台の設定自体で「どっちを選ぶ?」という問いかけになるような絵づくりができたらいいなとは思っていましたね。


――ここまでのお話の中で、メインのセレクターのうち遊月の名前だけが出てきていませんが……。

佐藤 あ……(笑)。


――遊月の「双子の弟に恋心を抱いている」という設定は、TVアニメとしてはかなり過激なところまで踏み込んだものではないかと。

佐藤 発案は岡田さんで、わーっとみんなが驚いたというのが始まりです。普通の女の子たちの願いや欲望を描くという作品で、いきなりこういう子が出るんだ!と。そういう意味では遊月が抱えている願いは異質なものに見えるのかもしれませんが、「とても人に言えないような願いをもっている」という点では、気持ちがわかるという人もいると思うんですよね。遊月は別に「特殊な願いをもった変な人」というわけではなくて、普通の人が「願ってはいけないこと」を願ったら、こんなふうに悩むだろうと、そういうキャラクターとして描きたかったんです。遊月はすごく人間的な、いいキャラクターだと思いますね。快活だし、るう子を引っぱるし、るう子を巻き込みたくないと言って自分から率先して危険に身を投じるとかいうことをする女の子なので、僕はすごく好きなんですけど。

川瀬 立ち位置的には主人公に対するバディポジションではあるんですけど、作品の本質の部分でもうひとつの役割をもっているという。

佐藤 セレクターというシステムで無茶な願いをかなえるというのを、いちばん体現しているのは遊月なんですよね。るう子に関してはそもそも願いがないし、それがキャラクター性であると。晶はさっき言ったように、ひたすら小物であって、それが魅力である。その中でいちばん人間くさいのは誰?と言ったら、遊月になってしまうという。もちろん一衣も悩んでいる子ではありますが、彼女の悩みは「selector ~」という作品じゃなくても描けるはず。遊月みたいな悩み方をするキャラクターというのは、これだけ特殊な設定じゃないとたぶん描けなかったと思いますね。こういう突拍子もない、セレクターという設定があって、だからこそ描けるリアルなキャラクター。それが遊月だと思います。


――人に言えない秘密をもったキャラクターだからこそ、いちばん人間味がある?

佐藤 秘密って本当に大事だと思うんですよ。何か自分だけの秘密をもつというのが、子供が大人になる第一の課題というか、最初のハードルであり、逆に秘密がもてなかったら大人になれないんじゃないかと。何でも人に言えるキャラクターというのは、むしろいびつだと僕は思います。「これだけは言えない」という秘密があるほうが人間くさいし、それが優しさとか人を思いやるということにつながるんじゃないかなって。そういう秘密をもつことは全然悪いことではないと思いますね。


〝選択〟することで〝侵食〟されていく


――ここまでリアルな現実を突きつけるような作品だと、目をそらしつつも見てしまうという視聴者もいるのではないかと……。

川瀬 カードがしゃべるというところだけがファンタジー。それ以外は人間の考え方、動き含めてそれなりにリアルな所を追及してます。

佐藤 カードバトルはバトルのフィールドで、それ以外の日常パートは思いきり現実をやろうというふうに住み分けができたのも大きいですね。

川瀬 怖いもの見たさだとか、人の不幸は蜜の味じゃないですけど、観る側に選択させている作品でもあるかな、と。これが現実だって認めたくないけど観ちゃうのは、この作品の毒に侵されている(=infected)証拠なのではないでしょうか。リスクを抱えながらも自分の願いをかけて戦うというのは、状況としては怖いかもしれないけど、かっこよさも感じるわけですよ。そのカタルシスと人間ドラマの怖さとで、大人的には「俺もカードゲームをやってみたい」と思って、なりきりアイテムとしてのカードを手に取ってくれるんじゃないかと。言うなれば仮面ライダーのベルトみたいなものですよね。


――カードバトルのかっこよさを体験してみたいと思いつつ、「3回負けたらどうなってしまうんだろう?」という怖さも感じつつ。

佐藤 加隈(亜衣=るう子役)さんはもう5回負けているそうです(笑)。

川瀬 それこそ友達同士で「おまえ、3回負けたらメシおごれよ」という、大人のやり方でセレクターごっこをすることもできますよね。

佐藤 だからカードが発売されて、大ヒットしていますという話を聞いたときに本当にうれしかったですね。販促のことは敢えて気にしないつもりだったのに、実際こんなにうれしいんだって、自分自身ビックリするぐらい嬉しかった。


――アニメの内容についてタカラトミーから「待った」がかかるようなことは?

川瀬 なかったです!(笑) 

佐藤 カードゲームの醍醐味って勝った/負けたよりも、やっている間の読み合いみたいなものなのかなって。バトルを始める前に、相手にどう「戦う」と言わせるかみたいなところから、もう始まっているというか。


――心理戦のような駆け引きがアニメで描かれているから、それに影響されて実際にカードをやってみたくなるという感じでしょうか?

佐藤 そうだとしたら、ものすごくうれしいですね。

川瀬 WIXOSSの購買層には、現役TCGゲーマーじゃない人が3~4割くらいいる。その人たちはみんなアニメを見てやりたくなったそうです。

佐藤 その人たちの世界をこのアニメが広げたのかと思うと、それはうれしいですよね。もちろんカードの完成度が高かったというのもあるとして、それにしても当の山口さんがびっくりするくらいの売れ行きを示しているというのは、アニメに対しての何かしらの反応があったからなんだろうなあと。そういうことだったらいいなと思います(笑)。





「selector infected WIXOSS」
●「selector infected WIXOSS BOX1」Blu-ray&DVD8月27日(水)発売
●「selector spread WIXOSS」今秋放送開始予定


公式サイト
http://selector-wixoss.com/

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取材・文/仲上佳克