下は米国債とFX、それぞれの最近のボラティリティを示したグラフです。

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ボラティリティとは変動、つまりブレの大きさを指します。青が米国債のボラティリティです。橙色がFXのボラティリティです。

このグラフが、今の相場をすべて物語っていると言っても過言ではありません。

それは何か? 

つまりボラティリティが極めて低いということです。

低ボラは、どんな影響をもたらすのでしょうか? それはひとことでいえば、トレーディングで儲けにくいということです。

事実、米国の投資銀行のFICC、つまり債券、為替、コモディティ取引部門は、どこも儲かっていません。

いまゴールドマンサックスのような投資銀行の債券部ですら儲かっていないのに、我々がこの相場で利益を出してゆくのは、結構、骨が折れます。

なぜボラが低くなったのか? その一因は中央銀行の金利政策にあります。御覧のように世界の中央銀行はどこも超低金利政策をずっと続けています。

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これはマーケットにじゃぶじゃぶの流動性を供給することで、資産価格の変動にクッションを与え、リスクテーキングを助長するという意図からなされている面があります。その意味では低ボラは、各国中央銀行が望んだとおりの展開なのです。


超低金利に加えて、各国中銀は量的緩和政策を行っています。

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新発債のかなりの部分を中央銀行自らが買うわけですから、債券価格が安定するのは、ある意味、当たり前というわけです。


ただボラが低いということとは、だからイコール、リスクが無いということと同義ではありません。実際、中央銀行のバランスシートはどんどん肥大化しているわけです。市場参加者の多くは、それは政府がやっていることだから、ぜんぜん問題ないと言っています。

でもFOMC議事録などを読むと、どうやって肥大化したバランスシートを縮小してゆくかに関しては、FRB自身も出たとこ勝負でわからないことが多いと考えていることが読み取れます。


FRBが次にしなければいけないのは、在庫になった債券をどう処分し、さらにフェデラルファンド・レートをどう引き上げてゆくかを考えることです。

通常、FRBは夏に向こう半年から1年程度の金利政策のロードマップを示します。その舞台がジャクソンホールのシンポジウムです。

去年はバーナンキ前議長が退くことがもう分かっていたので、ジャクソンホールに彼は出席しませんでした。しかし今年はイエレン議長はちゃんと出ます。

だから8月を前にその話題がだんだん増えると思います。

市場参加者は、あまりインフレを懸念していません。その理由は先ごろ発表された2014年第1四半期のGDPが-2.9%と悪かったからです。

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GDPがこのくらい落ち込むと過去の実績では米国がリセッション、つまり景気後退局面に入ることが多かったです。

しかし今回はそれは無いと思います。

なぜならこの数字はさまざまな特殊要因が重なった結果だからです。

医療制度改革法案、いわゆるオバマケアが導入され、医療支出が-1.9%になりました。緊急失業給付が1月で終了しました。住宅ローンに関する規制が強化されました。

それらの一時的要因に加えて豪雪で企業の在庫戦略が大きく狂いました。それがGDPが-2.9%になった理由です。

ただ他の経済指標には、米国経済がそんなに落ち込んでいるという兆候は出ていません。実際、先日発表された雇用統計も、むしろ米国の景気がこのところ底堅いので、新しい雇用が着実に生み出されていることを物語るものでした。

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イエレン議長は、去年の春から夏にかけてバーナンキ前議長が苦労して策定したロードマップに従い、敷かれたレールの上を愚直に走っているだけです。

でも債券買い入れプログラム縮小(=いわゆるテーパー)は今年いっぱいで終了し、来年には、ある時点から利上げをしなければいけません。

その新しいロードマップを策定する作業は、今からジャクソンホールまでの間に行われるのです。