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「人形」だからこそ語れる、大虐殺の恐怖:映画『消えた画』のもつ説得力

想像を絶する暴力により、記憶が、可能性が、未来が破壊された場合、人はどうそれを取り戻すか。カンボジアの大虐殺を生き延びた映画監督リティ・パニュは、最新作『消えた画 クメール・ルージュの真実』で、動かない「土人形」に思いを託した。

 
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TEXT BY AKIKO ABE

旧ポル・ポト派のプロパガンダ映像と土人形によるアニメーションを交差させ、歴史の再現を試みる映画『消えた画 クメール・ルージュの真実』(2014年7月5日公開)。Image Courtesy of U-PICC

暗黒の歴史を土人形に「語らせた」

リティ・パニュが映画の道に入って25年になる。これまでフィクションやドキュメンタリーを問わず、自分が見てきた悲劇の記憶を作品に映し続けてきた。今回の『消えた画』で人々を最も驚かせたのは、素朴な土人形に「語らせた」こと──クレイ・アニメーションを用いたことだった。

カンボジア共産党、クメール・ルージュが現れる前、カンボジアの人々は穏やかな毎日を送っていた。映画では赤や黄、緑や青の色とりどりに塗られた人形たちが、庶民の暮らしを振り返る。田植えの季節になれば、家族や隣近所が総出で田んぼに出て汗を流した。祭になれば人々は鮮やかで美しい衣装を身にまとう。にぎやかな音楽が村中に流れ、女性たちは踊り、子どもたちの笑顔があふれた。隣近所が寄り添って暮らし、少年だったパニュも温かい家族といつも一緒だった。

しかし、クメール・ルージュの侵攻は、人々を恐怖の底に陥れる。父や母は突然連れて行かれ、拷問を受けたまま戻らなかった。灰色の服を着た人々が村人たちを押さえ込み、財産を取り上げ、歌や踊りを禁止した。土人形の色も灰色に変わっていく。クメール・ルージュは支配した人々の様子を宣伝映像に収めていた。画面の中の村人たちから笑顔は消えている。人形の様子と対比させることで、変化が手に取るように分かる。暴力と恐怖がすべてを壊し、人々の幸せを奪っていった。

「大虐殺で受けた痛みは死ぬまで残る。時間とともに鋭くなるかもしれない。わたしたちは痛みと共存するすべを学ぶ必要があった」とパニュ監督は語る。

クメール・ルージュの恐怖政治によって、カンボジアの市民200万人近くが虐殺された。Image Courtesy of U-PICC


 
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