政治・行政

【社説】河野談話検証 性暴力の事実変わらぬ

 従軍慰安婦問題で日本軍の関与を認めた河野洋平官房長官談話の検証結果をめぐり、保守系のメディアや論客が破棄を含めた談話の見直しを求める従来の主張を強めている。

 軍による強制連行を裏付ける証拠がないのに、韓国政府の書き換え要求を受け入れ、結果、根拠のない談話によって日本の名誉が不当におとしめられている-。

 代表的な論調はそうしたものだ。

 何度強調してもよいが、従軍慰安婦問題の本質は強制性があったか否かにはない。日本軍の戦地、施設で慰安所が設けられ、女性たちが日本軍人の性欲処理のために利用された。その一点に尽きる。

 従って、不当な非難との主張は前提となる認識から誤っている。非難の的は女性が受けた性暴力の非人道性にある。強制性をめぐる日韓両政府のやりとりに焦点を当てること自体、ためにする議論ともいえる。

 談話の核心は政府としておわびと反省を示した点にある。

 女性たちは慰安所で性暴力を受け、人としての尊厳を踏みにじられた。たとえ本人の意思であろうと、業者が設けた施設であろうと、金が支払われていようと、その事実は変わらない。

 そして、行為に及んだのは私たちの父であり、祖父であったという史実もまた、談話の信頼性の有無にかかわらず、揺るがない。

 子や孫の世代までそろってざんげすべきだと言いたいのではない。人は見たいと望む歴史しか見ようとしない。正視に耐えなければ、書き換えてさえしてみせる。過ちの歴史はだから繰り返され、そして、偽りの談話を押しつけられたという憤慨、加害と被害が逆転しているこの倒錯こそが、繰り返しの始まりを告げている。

 菅義偉官房長官は談話を見直さない考えを表明した。ならば、その精神をいま一度確かめるべきだ。

 談話はこう結ぶ。

 〈われわれは歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという決意を改めて表明する〉

 談話以降も研究者の手で慰安婦に関する公文書の発見は続く。軍のより深い関与を示すもので、強制連行の実態も国内の各裁判で認定されている。今、未来に向かってなすべきことを談話は指し示してもいる。

【神奈川新聞】