週刊金曜日2014年6月13日号掲載『大日本帝国を擁護する動きに反発を強める日系米国人』
7/3/2014 - 11:47 pm |大日本帝国を擁護する動きに 反発を強める日系米国人
「日系人たちが『慰安婦』碑撤去に立ち上がった」
「『慰安婦』碑のせいで日系人たちがいじめにあっている」――
現地の日系米国人に取材した著者が、拡散するニュースの
真偽を問い、報道の背後にあるものを明らかにする。
小山エミ
わたしは4月中旬にグレンデールの従軍「慰安婦」碑を訪れ、また地元ロサンゼルスの日系人団体の人たちの話を聞いた。なかでも、市民権と名誉回復を求める日系人の会(NCRR)及び日系米国人市民連合(JACL)サンフェルナンドバレー支部(グレンデールはサンフェルナンドバレー地域に含まれる)は、グレンデール市で開かれた公聴会において「慰安婦」碑の設置を積極的に支持する証言をしており、「慰安婦」碑の撤去を求める在米日本人たちと混同されることに困惑していた。
混同される在米日本人と日系人
「慰安婦」碑の撤去を求める裁判の原告にハーバード大学助教授、南カリフォルニア大学教授等を歴任した目良浩一氏とともに、戦後まもなく渡米したグレンデール市在住の90歳の女性の名前が挙げられている。だが、「慰安婦」碑反対の運動を行っている人たちの大半は在米日本人および日本で成人してからバブル期以降に渡米したいわゆる「新一世」であり、米国生まれの日系人ではない。目良氏が主催する日本再生研究会および裁判闘争を行っている「歴史の真実を求める世界連合会」のどちらも、ホームページは日本語のみで運営されていることからも、それは明らかだ。うがった見方をすれば、米国世論を説得し裁判で勝利して「慰安婦」碑を撤去させることは二の次で、むしろ敗訴したほうが日本政府に対して河野談話の見直しを求める口実になるから都合が良いと考えているのではないかとすら思える。しかし、報道においては在米日本人と日系人の区別がつけられていないことが多く、日系人が「慰安婦」碑に反対している、という誤報が日本と米国双方のメディアでよく見られた。
NCRRのキャシー・マサオカ共同代表は、2013年7月に行われた「慰安婦」碑の除幕式にも招かれ、スピーチをした。NCRRは第二次世界大戦中の日系人収容政策に関して米国政府からの謝罪を補償を求めるために1980年に設立された団体で、その要求が1988年に実現してからも、米国や日本における民族的マイノリティの権利と人権侵害是正を推進する活動をしている。除幕式のスピーチで、マサオカ氏は米国政府による公式な謝罪と個人への補償が日系人にとってどれだけ大きな意味を持ったか語り、日本政府がより明快な謝罪と元「慰安婦」個人への補償を行うよう求めた。
また、JACLのメンバーでもある別の日系人の女性は、両親が戦時中収容所に送られていたのだが80年代になって日系人収容問題とそれへの補償がメディアで取り上げられるようになるまで、両親から収容所生活について何の話も聞かされなかった、と話してくれた。「もし『慰安婦』が大規模な性奴隷的制度だったのであれば、90年代になってとつぜん国際的問題として持ち上がったのは不自然ではないか」という保守系日本人の意見を聞いて、収容所に送られた経験ですら何十年も恥の意識にとらわれて沈黙させられていたのだから、「慰安婦」として働かされた人たちがなおさら深い沈黙を強いられていたのは不自然ではない、と彼女は感じていた。
そもそも米国において日米開戦と共に日系人収容政策が取られた背景には、日系人は当時の大日本帝国及び日本軍の手先であり、米国籍であっても信用に足らない、という人種的偏見があった。戦後そうした偏見にはなんの根拠もなかったことが明らかになったが、それから何十年もたったいまも、米国への忠誠心を疑われることが日系人にとっては歴史的トラウマとなっている。あとからやってきた保守系日本人たちが、そうした事情を理解せずに、「日系人」代表のようなふりをして大日本帝国を擁護する運動をはじめたことに、日系人たちがことさら反発するのは当然だった。
グレンデール市の「慰安婦」碑裁判を報じる日本の保守系メディアは、「慰安婦」碑が設立されて依頼グレンデール市において日系人の子どもに対するいじめや日系人に対する攻撃が頻発していることをよく紹介している(たとえば『週刊SPA!』2014年5月13・20日号「慰安婦像設置 米・グレンデールで起きている壮絶な“日本人イジメ”」)。しかし現地の日系人たちはみな口をそろえてそうした話は聞いたことがない、と答えた。グレンデール市警察およびグレンデール市教育委員会に問い合せても、そのような相談は一件も受けていないと返答があった。さらに、「慰安婦」碑訴訟の訴状にすら、日系人の子どもに対するいじめについては一切記載されていない。もちろん、通報や相談がないからといっていじめが一件も起きていない証明にはならないが、少なくとも広範に起きていることではないだろう。
「慰安婦」碑設置に賛成の立場を取ったNCRRとJACLサンフェルナンドバレー支部には、米良氏を通して日本の国会議員から面会の要求があった。参加した議員は日本維新の会所属の杉田水脈・西田護・中丸啓の各衆議院議員。しかし、「日系人の意見を聞きたい、理解したい」と言われて面会に応じた日系人団体の代表者たちに対し議員たちは、「慰安婦」たちは自発的な売春婦だった、などと説得しようとするばかり。
この面会について、杉田議員はのちのインタビュー記事で日系人の人たちを「日本にいる左翼と同じような方々」と予備、「訳の分からない反論をした挙句(中略)結局物別れに終わってしまいました」と説明している。
日系人の歴史的トラウマを刺激
米良氏や日本の保守系メディアや政治家は、「慰安婦」碑を撤去するために日本政府が何の行動も起こしていない、と批判しているが、実際にはロサンゼルス日本総領事館を中心として裏では動いている。たとえばJACLのサンフェルナンドバレー支部が「慰安婦」碑支持を打ち出した直後に、日本総領事がJACLの全国本部と面会し、JACL本部が歴史問題に口を出さないように釘を刺している。JACLは13年から日本財団など日本政府と繋がりの深い団体の財政的支援のもとに日系米国人の若者を日本に短期滞在させるプログラムに参加しており、日本政府の意向を無視できない立場に置かれているからだ。
しかし、日本国内で通用しているような「慰安婦」否定論が米国において受け入れられる可能性はまったくない。ビジネス誌『フォーブス』のブログに4月13日付け記事で目良氏らの代理依頼を引き受けたメイヤー・ブラウン法律事務所を痛烈に批判したと思ったら、2週間後にはその法律事務所が代理人を辞任、そして5月に入るとロサンゼルスの日系弁護士会と韓国朝鮮系弁護士会が米良氏を非難する共同声明を出した。グレンデール市は、スラップ(恫喝的訴訟)を制限するカリフォルニア州法に基づいて、訴えを即座に退けるよう裁判所に求めている。
何世代も米国に住み続けている日系人のほとんどは、日本語をまったく読み書きできないために、かれらについて日本語で書かれた嘘に気付けない。それをいいことに、日本の保守派や保守系在米日本人たちは誤報を拡散し、かえって日系人たちの歴史的トラウマを刺激している。こうした動きに対抗するためにも、これまで以上に「慰安婦」問題の解決を求める日本の人々と海外の日系人たちの連携を強める必要があるだろう。
(週刊金曜日2014年6月13日号掲載)
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