政治・行政

集団的自衛権を考える(19)元自衛隊員に聞く きょう創設60年

 自衛隊がその役割を大きく変えようとしている。集団的自衛権の行使が認められれば、他国の戦争に加わる道が開ける。創設60年の節目を迎える1日、憲法解釈の変更による行使容認は閣議決定される。専守防衛から「普通の軍隊」へ-。歴史的転換点を見つめる元自衛隊員らに思いを聞いた。

◇本質元陸自レンジャー・井筒高雄さん 現場を知るからこそ

 集団的自衛権の行使容認を元陸上自衛隊レンジャー隊員、井筒高雄さん(44)=東京都新宿区=は「戦争ができる国になる。それに尽きる」と断じる。それ以前に「国内がテロの標的になり、海外で働く人やNGO(非政府組織)が狙われる可能性は高い」とも。報復は報復を呼び、不戦を誓ってきたこの国を避けようのない戦争行為へ引きずり込むとみる。

 1992年に国連平和維持活動(PKO)協力法が成立し、自衛隊の海外派遣が可能になった翌年、隊を辞した。「自国の防衛とは無関係の国へ銃器を担いで送り込まれる。銃弾が一発飛べば即戦争状態。当たれば死ぬ。そんな犬死にはやってられない」。抵抗感はいまも変わらない。

 苛烈なレンジャー訓練をくぐり抜け、将来を嘱望された。当時21歳。「小銃を胸の前に抱え、重装備を身につけ20キロを走り、毒ヘビを素手で殺し、生のまま食べる。三日三晩飲まず食わずで山野を駆ける」。訓練の最終段階、疑問がよぎった。潜伏訓練で山梨県内の湖畔の樹上、身じろぎもせず数時間を過ごしていた。

 「何でこんなことやってるんだろう」

 遠くに目をやれば、そこは観光地。無為感に襲われた。

 先輩レンジャーが訓練中に戦車にひかれ死に、違和感は確信へ。「新婚3カ月、奥さんのおなかには赤ちゃんがいた」。人を人とも思わぬ扱いの連続に、人を人と思っていては銃口など向けられないという戦争の本質を知った。

 「『派兵は政治が判断すべきこと』『9条があるから中国になめられる』と言う人がいるが、訓練であっても実弾が飛び交う下をはいつくばった経験がないから、そんなことが言える」。現場を知るからこそ力を込める。「銃を手にする自衛官はサラリーマン意識の隊員も少なくない。入隊時に誓約するのは、日本に対する直接および間接侵略に対して『身をもって責務の完遂に努める』だ。無関係の国へ派遣されるいわれはない」

 解釈改憲によって集団的自衛権の行使を容認しようとする手法にも憤りを感じる。「要は安倍首相の独り善がり。1億2千万の国民の命をそんな理屈で危険にさらすわけにはいかない」

◇元陸自通信補給処長・成松徳三さん 9条と現状との乖離

 防衛大学校(横須賀市)の4期生として自衛隊の草創期を支え、退官して20年がたった。元陸上自衛官の成松徳三さん(76)=大和市=は、集団的自衛権の行使容認を「やっとまともな話ができるようになる」と捉える。

 通信装備部門を担当し、通信補給処長まで上り詰めた。戦力不保持をうたう憲法9条と自衛隊の現状との乖離に「隊員同士で『憲法が残って国が滅ぶようなことがあっていいのか』と言い合っていた」と振り返る。

 現実は図上演習でさえ痛感させられた。「敵襲に対抗する。少し損害を加えるとあっという間に殲滅されてしまう。現状が極めて危うい防衛態勢だと、いやというほど確認している」

 自衛隊が戦争状態の国へ送られれば、後進の命は危険にさらされる。「いや、地球の裏側へ行く話になるのがおかしい。飛躍がある」とくぎを刺し、「仮にそうなったとしても、政治が決断すべきこと。不安に思うかどうかは隊員個人の問題であって、混同してはいけない」と強調する。

 「警察官や消防士も危険な現場には行きたくない。でも命を懸けてやり遂げる必要がある仕事はある。国家の安全保障の議論とは切り分けるべきだ」。ただし憲法解釈の変更だけでは、やはり派遣先で現実に直面するとも思う。「やっていいことより、いけないことを規定すべきだ。そうでないと、すべての責任が現場に押し付けられてしまう」と具体の法整備の行方を見守る。

◇元陸自第1施設群長・岡村功三さん「行使できれば抑止力に」

 陸上自衛隊第1施設群長時代、カンボジアでのPKOに部下を送り出した。1993年3月から約半年間派遣された第2次施設部隊約600人のうち、約100人を岡村功三さん(71)=横須賀市=が選抜した。

 憲法9条の制約から、武器使用は「要員の生命等の防護のために必要な最小限のもの」に限られた。それでも部下の9割以上が派遣を希望し、選抜された隊員たちは気概に満ちていたという。「道路や橋の補修などを行い、帰国した隊員たちは経験を誇りにしていた」

 賛否渦巻く中、自衛隊の海外派遣に道を開いたPKO協力法。その後、テロ対策特別措置法、イラク復興特別措置法などが成立し、自衛隊は海を渡り続ける。

 解釈改憲による集団的自衛権の行使容認については「王道は憲法の改正」としながら、東アジア情勢の変容や日米防衛協力指針(ガイドライン)の改定が迫る中、手順を踏んでいる時間はないと感じている。「行使容認は待ったなし。行使できるという選択肢を持つことが抑止力になる。現実を見ると正しい選択だ」

 「国際情勢の安定は日本一国だけで考えられるものではない。同盟国や密接な関係の国との連携を強化すべき」と持論を語る。一方で自衛隊の活動が際限なく拡大しないよう、「抑制的に限定的な行使をしていくべきだ」と慎重な姿勢も崩さない。「集団的自衛権を認める目的は小競り合いの発生を抑止するため。地球の裏側への派遣は原則、認めるべきではない」

【神奈川新聞】