政治・行政

集団的自衛権を考える(17) 公明、正念場続く「平和の党」

 集団的自衛権をめぐる与党協議が大詰めを迎えるなか、公明党が足元から揺れている。憲法解釈変更による行使容認の閣議決定を急ぐ安倍晋三首相側からの圧力に、地方議員からは「拙速な議論には応じないで」との声が相次ぐ。支援者から寄せられる「不安」を受け、政権のブレーキ役としての期待も高まる「平和の党」。国会閉幕後も引き続き自民党との協議に向き合う執行部は、党内の意見集約にはまだ時間を要するとの観測で、正念場は続きそうだ。

■地方の声「慎重に」

 「拙速に答えを出す問題ではない。国民的な議論を踏まえた審議をしてほしい。今の段階ではそれがなされていない。賛成、反対はともかく、もう少し丁寧にしてほしい」

 20日に開かれた本会議で「立憲主義に反する集団的自衛権の行使容認について慎重審議を求める意見書」を全会一致で可決した藤沢市議会。公明党の松下賢一郎市議は重い口を開き、国民を巻き込んだ議論とするため、公聴会やタウンミーティングを開く必要性にも言及した。

 横須賀市議会の岩沢章夫市議も、解釈変更には慎重な議論を重ねるべきとの姿勢を強調する。「議論の経過が国民に見えるようにし、理解を得ることが前提だ」。鈴木道子葉山町議は「平和の党なのだから、戦争や武器など、極力避けて通りたいが、近隣の状況を見ると日本の安全は喫緊の課題。与党協議が良い方向にまとまるようにと思う」と言葉を選んだ。

 1999年の自民党との連立政権参加後、組織内に反対論を抱えながらも、テロ対策特別措置法やイラク復興支援特措法制定に協力してきた公明党。今回の与党協議の行方に気をもむ地方議員には、支援者への説明に懸念を示すケースが少なくない。

 支持母体である創価学会の関東地方の幹部は「ただ引きずられて閣議決定を容認するなら、もう与党にいる意味はない。連立を離脱し主張を貫くべきだ」と訴える。「押し切られるようなことになると、もう自民党との選挙協力は成り立たない、というのが現場の気持ちだ」とも打ち明けた。

 党県本部幹事長の渡辺均県議は「集団的自衛権の行使容認には党の支持者に不安があり、地域で活動している地方議員には最近は特にそうした声が寄せられる機会が多い」と説明する。

 地域の声は「与党協議で制度的な歯止めを担保するような役目を果たすことへの期待」と受け止める一方で、「党内の議論が深まっていない」とも。国民的議論を深め慎重に考えることの必要性を強調し、7月上旬に開かれる全国代表者会議での党内議論を注視する考えを示した。

 20日午後、公明党が国会内で開いた合同会議。「集団安全保障の議論があるようだが、憲法9条のもとで認められる自衛措置の議論とは土俵が違う」、「9条が原則。例外措置には厳格な表現が必要ではないか」。出席議員からは、同日午前の与党協議の議論に慎重な声が相次いだ。

 上田勇外交安全保障調査会長(衆院6区)は会議後、「(閣議決定の)概要のたたき台も、この時点で初めて目にした議員が多い。こうした意見を踏まえて与党協議に対応していく」。

 党は来週にも、あらためて党内議論の場を設ける予定だが、安倍政権への懸念が主流を占める状況は変わりそうもない。執行部は「(週明けの)意見集約にはなかなかいかないのではないか」(北側一雄副代表)との見通しを示している。

 ことし11月、公明党は結党50年を迎える。「平和の党を最もアピールしなければならないとき」(党関係者)に突き付けられた局面への打開策を模索している。

■野党ふがいなく存在感-政治評論家・浅川博忠さん

 集団的自衛権を使えるようにするための閣議決定をめぐり、長引く自公の与党協議。政治評論家の浅川博忠さん(71)の目にはしかし、「アリバイづくり」に映る。

 自民から提案があった集団安全保障での武力行使には反発の声を上げる公明だが、「『閣議決定を遅らせ、内容も修正させたので、存在感は示せた』と満足し、いずれ決着する」とみる。

 公明が修正を求めているのは、閣議決定原案でも示された自衛権発動のための「新3要件」の文言。自衛権の発動要件を「他国への武力攻撃が発生し、国民の権利が根底から覆されるおそれがある場合」としているが、「『他国』では幅が広いので『米国など』に変え、『おそれ』も同じ理由で変更させる」。求めているのは、あくまで骨格が変わらない範囲での修正にすぎないが、「自分たちの主張を取り入れさせたというアリバイになる」と話す。

 ここにきて「平和の党」として自民のブレーキ役に注目が集まるが、もう一つ掲げてきた旗印が「弱者の味方」。浅川さんは「集団的自衛権で妥協したという『貸し』をつくり、消費税が10%になる際の軽減税率導入で譲歩を得るという狙いもあるのでは」との見立ても示す。

 それも連立から離脱すれば、実現は難しくなる。「与党のうまみを知り、影響力を維持したい公明も、選挙協力がほしい自民も、連立を維持することで、はなから一致している」

 軟着陸で落ち着きそうな与党協議だが、さまざまな主張をしてきたことに満足感を持っている公明の議員も実際にいる、と浅川さんは言う。

 「これだけ反対し、修正を求めてきた。平和の党としての姿勢をアピールし、支持者にアリバイをつくった、ということになるのだろう。それも野党がふがいないからだ。野党支持者からも、むしろ善戦したというプラスの評価があると踏んでいるのではないか」

【神奈川新聞】