7月1日は、17年前に香港が英国から中国に返還された記念日だ。この休日を利用した恒例のデモは今年、例年以上の市民が通りを埋めた。香港大学の推計では15万~17万人。香港の自治を中国政府の圧力から守る意思の表れと受け止めたい。

 人々が危ぶんでいるのは、香港のトップである行政長官を選ぶ3年後の選挙のやり方だ。

 中国の特別行政区となった香港は「一国二制度」のもとで、資本主義経済制度とともに言論・結社の自由、司法の独立が保障されている。政治制度も徐々に民主化することが基本法に掲げられている。

 そこで、業界団体代表などの選挙委員1200人による行政長官の選出という現行制度を改め、18歳以上の市民による普通選挙を実施することが決まった。ところが中国政府の意向を受けた香港当局は、候補者を事前に指名する仕組みで民主派候補を排除することを検討し、市民の反発を招いている。

 そのうえ中国政府は先月10日に発表した白書で一国二制度について「香港の高度な自治は完全な自治ではなく、中央が与えた地方事務管理権だ」「香港の自治は愛国者を主体とする自治であるべきだ」と釘を刺した。これがデモ参加者を激増させた。

 このところ言論への圧力も目立つ。4月には民主派系出版社の経営者が広東省深で拘束され、密輸罪の名目で有罪判決が下された。背景は不明だが有力紙「明報」の編集長が更迭されたうえ、暴漢に切りつけられる事件もあった。自由だったはずの空気が重苦しくなっている。

 一国二制度は元来、台湾統一の方法として考案されたものだ。香港に対する中国政府の姿勢は、台湾の人々の心をますます中国から離れさせるだろう。

 デモを受けて米国務省報道官が「香港の民主政治を支持する」などとコメントしたのに対して、中国外務省は「いかなる外国の干渉も許さない」と反論した。

 だが、世界的な貿易・金融センターである香港に各国が関心を持つのは当然だ。中国政府もその機能を最大限活用しようとしてきたのではなかったか。

 そして香港の長期的繁栄は、市民の自由を基本に、行政を監督できる政治制度を発展させることを抜きには成り立たない。それこそが今回の市民デモの発したメッセージでもあろう。

 香港は、中国を民主化していくための先行実験の地である。それぐらいの見識と覚悟を習近平(シーチンピン)政権は持つべきだ。