日本政府が06年から北朝鮮に科してきた独自制裁の一部を、解除する。北朝鮮が日本人拉致問題の特別調査委員会をきょう立ち上げることになり、その姿勢を評価してのことだ。

 互いの不信感から長年解決できないでいる懸案について対話を重ねて解決に導く。そんな外交の基本は、相手が北朝鮮であろうと変わることはない。

 北朝鮮の出方を確認した上で慎重にカードを切るという「行動対行動」の原則の厳守が、いっそう求められる。

 北京であった局長級協議で北朝鮮は、調査委の委員長には、国防委員会と国家安全保衛部の二つの機関の幹部を兼ねる人物をすえると伝えてきた。

 北朝鮮において国防委は朝鮮労働党、朝鮮人民軍と並ぶ、国家の最高指導機関であり、そのトップは金正恩(キムジョンウン)氏だ。

 ただ、いくら強い権限のある調査委であろうと発足するだけでは意味がない。正恩氏に権力が集中する北朝鮮に対し、日本側がもっとも留意しなければならないのは、相手がいかに誠実に調査し、結果を出すかを見極めることである。

 過去の日朝協議で、北朝鮮は「拉致を実行した特殊機関の抵抗」などを理由に、肝心な場面で消極的な姿勢をみせてきた。だが今回の調査委について、北朝鮮は「すべての機関を調査できる」特別権限が与えられると説明している。もう言い逃れは許されない。

 日本が解除するのは、人の往来規制などの三つの措置だ。いずれも北朝鮮経済に大きなプラスになるというよりは、象徴的な意味合いが大きい。北朝鮮が日本に抱く不信感も強いものがあり、信頼を積み重ねるためにも何らかの緩和措置は避けられまい。

 一方、日朝と同時に安倍政権は、韓国との関係改善にも努めなければならない。

 日本は北朝鮮の核・ミサイル問題で米国や韓国と歩調を合わせてきた。米韓、とりわけ韓国からは南北対話が停滞するなか、日米韓の足並みが乱れることへの強い警戒感が出ている。

 02年9月に小泉首相が初訪朝した際は、当時の金大中(キムデジュン)・韓国大統領が繰り返し、小泉首相に日朝首脳会談を勧めていた。

 歴史認識をめぐる日韓の対立は解消する兆しすらみえない。このまま関係が上向かず、日朝対話だけが進めば、韓国の疑心暗鬼を招きかねない。

 北朝鮮の核・ミサイル開発は日本にも切実な問題だ。拉致問題と同時に、今後の協議で取り上げ続けなければならない。