弦楽器の名手たちがロックに挑む7月3日 15時16分
ふだんはクラシック音楽を主に手がける一流の演奏家のグループが、バイオリンなどによる弦楽四重奏でロックを演奏、その意外な組み合わせが人気となり、このほど発表したカバーアルバムはクラシック部門のチャートで1位を獲得しました。
メンバーたちは「クラシックの演奏とは違うアドレナリンが出る」と、弦楽器だからこそできるロックを追い求めています。
プログレッシブ・ロックを弦楽器で
この弦楽四重奏のグループは、「モルゴーア・クァルテット」。
メンバーは、▽東京フィルハーモニー交響楽団のコンサートマスターを務める荒井英治さん(57)、▽東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団のコンサートマスターの戸澤哲夫さん(42)、▽NHK交響楽団のビオラ次席の小野富士さん(59)、そして▽NHK交響楽団のチェロ首席の藤森亮一さん(50)の4人です。
クラシックを最高の形で演奏しようと22年前に結成されましたが、荒井さんが「新たな挑戦としてプログレッシブ・ロックをやりたい」と提案しました。
「ロックというのは『不良』、クラシックというのは『情操教育で、よいもの』ということで、ロックは教育上よろしくないというのが当たり前の世界でしたが、僕はクラシックよりプログレッシブ・ロックで育ってきた人間ですから」と荒井さんは語ります。
ほかのメンバーにとっても、この野心的な試みは大きな刺激となっています。
「またちょっと違うアドレナリンの出方で、それが、クラシックをする人間には逆に、これやってやるぞという気持ちをさらに起こさせるような感じがします」(戸澤さん)。
「クラシックだったら『ボレロ』という曲のようにずっと同じリズムなんですが、ロックだと、もっと激しい状態で繰り返されます。そこで、だんだん興奮してきますよね」(小野さん)。
「曲の全編にわたって(指ではじく)ピッチカートなんかあると、本当にひどいときは、もう血まみれになって演奏しています」(藤森さん)。
弦楽器だからこそできるロックを
プログレッシブ・ロックは、テーマ性のある壮大な音楽を超絶な技巧で表現します。
1960年代から70年代、「キング・クリムゾン」や「ピンク・フロイド」といったバンドが大人気となりました。
4人はロックの中でも難しい彼らの楽曲を、エレキギターもドラムも使わず表現します。
プログレッシブ・ロックを演奏して10年余り、弦楽器だからこそできるロックを追い求めています。
「弦楽器というのは、いろんな音が出るんです。雑音も含んだかすれたような音や、きしんだような音など本当に打楽器のような音を出せるんです。それは、ロックが本来持っているスピリットにつながると思うんです。理想とか自由への希求とか精神の解放とか、そのための叫びが根底にあると思うんですね」(荒井さん)。
ことし5月に発表したアルバム「原子心母の危機」には、東日本大震災から3年余りがたった今の時代へのメッセージを込めていると言います。
「今は、人間が閉塞感の下で生きているような気がします。今回のアルバムは、(ピンクフロイドなどが流行した)1970年を取り巻くある時期(の曲)なんですけれども。あの時期というのは、まさにそういった時代を超える何かを変えようというエネルギーが、特に若者の中で多く渦巻いていた。そこから何かをつかんでいただければなと思うんです」(荒井さん)。
[関連ニュース] 自動検索 |
[関連リンク] |
|