最初に来ていた女・前編
ハンスが守る街がちっぽけな村に見えるほどの大きな町に、一つの城がそびえたっていた。
石を積み重ねられて造られたそれは、そのものが砦のようである。
実際、この場所がまだ敵国との国境であった時には、国境警備の最前線であり、主戦場にもなったこともある場所だ。
その敵国を滅ぼし、領地を手に入れてから栄えたこの街は、第二の都と呼ばれるほどの発展を遂げていた。
件の砦の様な城は、その街の中央に位置している。
今現在は砦として機能はしておらず、このあたり一帯を領地に持つ貴族の居城として、政の中心になっていた。
城の主は、コルディボア・シュバイケル・ロックハンマー侯爵である。
侯爵は公爵に続き、この国では二番目の爵位であった。
上から順に、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、騎士爵となっている。
このうち騎士爵は名誉爵位であり、領地を持つことはない。
戦場などで著しく活躍したものに贈られる称号であり、ハンスが持つ騎士の称号の事である。
これは世襲する事が出来ず、一代限りのものでもあった。
また、この国では騎士爵は称号としての一面も持っており、男爵や子爵でありながら、同時に騎士爵を授かることもあった。
これは位の高い貴族でありながら戦場でも武功を立てた、文字通りの貴族にのみ送られる称号とされている。
ちなみにハンスの場合は、実家は公爵家であるものの、当人は五男坊であるため継ぐ権利は一切ない。
そのため頂いている爵位は騎士爵だけであり、給料もそれのみであったりする。
本来ならここに兵隊としての給料や公務員としての給料が入るのだが、飛ばされているハンスにはそれらは支給されていなかった。
騎士爵の給料はだいたい一般職の役人と同じぐらいであり、それほど多いとは言えない。
食費や武器の整備費などは持ち出しなので、貰っている給料だけでやりくりしようとするとかっつかつどころか、毎月赤字になるありさまである。
それでもハンスが何とかやっているのは、王都時代に稼いだ貯蓄のおかげであったりする。
駐在所の維持費として国から支払われている金額もごくわずかであり、ミツバや自衛隊たちの食費に消えている。
備品や武器防具の整備費などは捻出できず、ハンスが貯蓄を切り崩しているといえば、そのすさまじさが実感していただけるだろうか。
兎も角。
ロックハンマー家の持つ領地は、その爵位に恥じることのない広さであった。
全国土のうち、実に四分の一を占めている。
もっともその多くは辺境領域であり、税収自体はその領地に見合うものではない。
そもそも領地内で人が住んでいる土地が少ないというのも、原因の一つだろう。
しかし、彼の影響力は国内でも一二を争うものであった。
広大な領地を守るために、ロックハンマー家にはそれに相応しいだけの兵力があるためだ。
領地中に散らばって入るものの、その兵力は国軍の五分の一を占めていた。
これは国王が持つ兵力と、ほぼ同じである。
戦争が行われていない現在ではそれほどでもないのだが、戦時中はスエラー公爵家を凌ぐ発言力を有していた。
名実ともに、この国で一二を争う大貴族である。
実はハンスの暮らしている街は、このロックハンマー侯爵の領地であったりする。
つまり、ロックハンマー侯爵は現在、ハンスの上司にあたるのだ。
出身家の格ではハンスのほうが上なのだが、前記した通り彼は家督を継ぐ権利を持たない五男坊である。
ロックハンマー侯爵はハンスにとっては、雲の上の存在なのだ。
そんなロックハンマー侯爵を指すあだ名の一つに、「ハゲイノブタ」というのがあった。
外見を見たまんま口に出してみた、秀逸なあだ名である。
ロックハンマー侯爵は、頭をスキンヘッドにしていた。
髪の毛が一本も生えていないつるっつるっぷりである。
そして、体格がやたら大きかった。
身長は実に2m以上。
体重は常人の三人分ぐらいといえば、その巨漢っぷりがお分かり頂けるだろうか。
騎乗するものもまた、特別であった。
普通の馬ではすぐにつぶれてしまうため、中型の魔獣に乗っている。
その独特の風貌と騎乗魔獣から、「まるでオーガかオークの兵士だ」と陰口をたたかれていた。
もちろん、面と向かってそんなことを言う勇気のあるものは居ないわけだが。
そのロックハンマー侯爵の城に、一人の騎士が訪れていた。
意志の強そうな眼をした、女性である。
磁器のような白い肌に、癖のある燃えるように紅い髪が実に映えていた。
名をレイン・ボルト。
ハンスと同じく、騎士爵を持つ女性騎士である。
しばらく別室で待たされていた彼女が案内されたのは、一際豪奢な内装の部屋であった。
ロックハンマー侯爵の執務室である。
広い室内には、様々な調度品が並んでいた。
一目見て高価な品であるとわかるそれらは、一切の嫌味もなくそこにあるのが当然といった風情で配置されている。
内装を担当している人間が、よほど優秀なのだろう。
部屋の中に漂う空気すら、違って感じる。
王都での生活が長いレインではあったが、ここまで素晴らしい部屋にはほとんどお目にかかったことなかった。
ほかにあるとすれば、それこそ王城位であろうか。
「お待たせして申し訳ない。食事の最中だったものでね」
そういってレインを出迎えたのは、城の主ロックハンマー侯爵である。
圧倒的な巨体を包むのは、上等な布をふんだんに使った服であった。
動きやすくまとめられたその服装は、国軍の略式礼服である。
武門で名高いロックハンマー侯爵がそのような服装を好むのは、有名な話であった。
四十代半ばと、この世界で言えば初老に差し掛かった年齢ではあるものの、その背筋はピンと伸びている。
そのためもあってから、レインからは完全に見上げる形となっていた。
縦にも横にも大きなその体は、まさにオークかオーガに対峙したかのような威圧感がある。
「いえ。お食事時にお邪魔した私が不作法でした。ずっと剣をふるうだけの生活をしてきましたもので、礼儀作法を弁えておりませんものですから」
「礼儀作法など、騎士であるあなた方には不要のものでしょう。民や国のために命を懸けて剣を振るうことにこそ、あなた方騎士の尊さはあるのです」
「御言葉、痛み入ります」
「そうそう、椅子も勧めず申し訳ない。さあ、お掛けなさい」
促されるまま、レインは来客用らしいソファーに腰を掛ける。
革張りであるらしいそれは、やはり上等のものであるらしい。
手触りも沈みこむようなすわり心地も、実にすばらしかった。
この一脚のソファーだけで、自分の給料の何年分なのだろう。
思わずそんなどうでもいいことが頭をよぎるほど、すわり心地のいいソファーであった。
「騎士レイン。君はハンス君の指揮していた、騎士団にいたのだったね」
「はい。団長……ハンス様の銅走蛇騎士団です」
「よい騎士団だった。所属していく騎士も腕のいいものばかりだったね。何より、ハンス君の手腕が素晴らしかった。彼の魔術師殺しの二つ名は、私の耳にもよく入ったよ」
懐かしむようなロックハンマー侯爵の言葉に、レインはわずかに表情を曇らせる。
ハンス・スエラーに贈られた「魔術師殺し」の二つ名は、銅走蛇騎士団に所属するものにとって誇りであった。
当然、レインにとってもハンスは、特別な存在である。
今、現在でも。
「だがね、騎士レイン。今のハンス君は、騎士としても、貴族としても正しくはない。悪い状態だ。貴族としての義務を果たしていない。そう思わないかね?」
ロックハンマー侯爵の言葉に、レインはわずかに唇を噛みしめた。
確かに、ロックハンマー侯爵が言っていることは正しい。
それは、レインも分かっている。
だが、誰かにハンスを悪く言われることは、レインには耐えられないことであったのだ。
レインには、前世の記憶があった。
日本という国で暮らしていた記憶である。
確かに死んだはずの自分が再び生を受け、赤ん坊に生まれ変わったと気が付いた時の衝撃は、今でも忘れられないものであった。
赤ん坊のうちは、聞きなれない言葉に大いに戸惑った。
動けるようになってからは、家畜達の姿に度肝を抜かれた。
何せこの世界の家畜ときたら、四本足の鶏や、六本足の豚など、地球では祖手も考えられない形状をしているのだ。
一歳を過ぎたころには、レインはすっかりここが地球ではないと確信していた。
死んで、今まで生きてきたのとは違う世界に来たのだと。
日本での暮らしには、未練はなかった。
長い人生とは言えなかったが、自分なりに生きてきたつもりだったからだ。
この生も懸命に生き抜こう。
つかまり立ちの練習をしながら、レインはそう心に決めたのであった。
レインが生まれたのは、どこにでもある開拓村である。
辺境と呼ばれる土地が多いこの世界では、畑を広げることが急務なのだ。
森を切り開き、土地を慣らし、畑へと変えていく。
地球のように、農耕機械があるわけではない。
使える労力は、人間の手や家畜などだけであった。
農民であったレインの家は、決して裕福ではない。
明日食べるものにも困る、というほどではないにしても、生活に余裕はなかった。
それでも、レインは幸せだった。
父や母、兄や姉たちはとても優しく、愛情をたっぷりと注がれて育てられたからだ。
仕事の手伝いが出来ないほどに幼いころは、村の子供たちと遊んですごした。
家の近くや、畑の近く。
森の中へ、冒険へ行ったりもした。
内緒の、子供だけの冒険である。
あとで必ずばれて、こっびどく叱られるのだが。
体が大きくなり仕事が手伝えるようになると、毎日が忙しくなった。
食事の支度、家畜の世話、繕い物や農作業。
みんな大変だったが、どれもこれも楽しくて仕方がなかった。
日本にいた時は感じたことのなかった、生きているという実感に満ちていた。
レインが大きくなるにつれて、村の生活は少しずつ安定していった。
開墾が進み、畑が大きくなって行ったからだ。
さまざまな作物が実り、家畜達も増え、食べる事が出来る食料も増えていった。
綿を取り、布を作ることもできるようになると、新しい服を作る余裕もできた。
母や姉たちが作ってくれた新しい服に、飛び上がって喜んだ。
自分も作り方を覚えようと、母に教わったりもした。
いつか弟が大きくなったとき、服を作ってやるためである。
前世で一人っ子だったレインにとっては、弟ははじめての年下の家族で会った。
かわいくてかわいくて、かわいくて仕方がなかった。
だから、朝早くから弟を背負って仕事をするのも、まったく苦にならなかった。
この子は顔立ちがいいから、きっと将来は男前になるだろう。
そうしたら、少しは見栄えのする服を着せてやらないと。
そのためには、今から頑張ってたくわえを増やさなくてはいけない。
毎日そんなことを考えるのが、とても幸せだった。
そんな、ある年の秋の事である。
突然、村が襲われたのだ。
武器を持った男たちがなだれ込み、次々に抵抗するものを殺していった。
農具を持って戦おうとしたレインの父親も、あっけなく殺されてしまった。
仇を取ろうとする兄も、見せしめのように殴り殺された。
収穫したばかりの作物が奪われ、少しずつためていたお金も、すべてが奪われてしまった。
倒れた父と兄に取りすがって泣きわめいていたレインだったが、不幸はそれだけでは終わらない。
村を襲った男たちの目的は、食糧でも、わずかな金でもなかったからだ。
彼らが狙っていたのは、人間であった。
そう。
彼らは奴隷商人だったのだ。
女はどこにでも売れるからと、母や姉、レイン自身もつかまってしまった。
子供も使い道があるらしく、弟もつかまってしまった。
家を破壊し、食べ物や金目のものを奪い終えると、奴隷商人達はレイン達を荷馬車に詰め込んだ。
これからどこかに連れて行かれて、売られるのだろう。
誰かが呟いたそんな言葉に、レインは頭を殴りつけられたような衝撃を受けた。
泣きじゃくる弟を、必死に抱きしめているときだ。
男たちは持っていた松明で、村の家々に火を放ったのである。
木の板と柱だけで作られた、粗末な家だ。
レインがこの世界に生まれ、ずっと過ごしてきた家だ。
父や兄を目の前に殺されたときは、恐怖しかなかった。
だが、家を燃やされ、そこに兄や父の遺体を投げ込まれるのを見た時とき。
別の感情がレインの心に湧き上がった。
怒りだ。
未だかつて感じたことのない、強烈な怒りがレインの心に沸き起こったのである。
気が付いた時には、レインは弟を母に押し付け走り出していた。
近くに落ちていた棒切れを手に、奴隷商人に殴りかかったのだ。
子供の、それも女の子がただのを棒切れを振り回し、荒事に慣れた相手にかなうはずがない。
殴られ、蹴られて、地面に叩きつけられる。
それでも、レインは奴隷商人たちに襲い掛かっていく。
引っ掻き、噛みつき、文字通り必死に奴隷商人達に攻撃をし続けた。
商品という事で最初は手加減をしていた奴隷商人達だったが、あきらめないレインにしびれを切らせる。
剣の柄で頭を強打し、斬りつけたのだ。
一度死んだ経験のあるレインだからこそわかる危険な痛みが、全身を貫く。
どうやら奴隷商人達は、レインを殺して見せしめにすることにしたようであった。
乱暴に髪の毛を掴みあげ、その首筋に刃を当てる。
放っておいても、出血で死ぬことになるだろう怪我を負っているのだ。
抵抗できるはずがない。
それでも、レインの心には怒りが燃え上がっていた。
せめて、今自分を殺そうとしている男に一矢を報いたい。
そう思うのだが、身体には力が入らない。
恐怖と、怒りと、こらえきれない悔しさがレインの心の中にうごめいていた。
奴隷商人の持つ剣が首筋に強く押し付けられる。
ああ、殺されるのか。
そう思った、瞬間だった。
レインの髪の毛を掴んでいた奴隷商人の腕から、急に力が抜けたのだ。
地面に投げ出されたレインは、しかしすぐにそれが正しくない認識だったことを知った。
腕の力が抜けたのではない。
奴隷商人の腕は、斬り飛ばされていたのだ。
あっけにとられた表情をしている奴隷商人は、悲鳴も上げる暇もなく喉笛を切り裂かれ絶命する。
レインを散々に痛めつけた男の命を一瞬で断ち切ったのは、幼さの残る少年であった。
おそらく、レインといくつも変わらないだろう。
少年は人一人を切り殺したというのに、表情一つ変えてはいなかった。
そこからは、あっという間だ。
仲間を殺された奴隷商人達は、手に持った武器を振り上げ少年に襲い掛かった。
だが、誰一人として少年の体を傷つけることすらできなかったのである。
それどころか、少年のあまりの素早い動きに翻弄され、姿を確認すらできずに首を跳ね飛ばされたらしいものまでいる始末だ。
瞬く間に奴隷商人達を斬り殺した少年は、ゆっくりとした足取りでレインのもとへと近づいてきた。
もう自分は死ぬものだと思っていたレインは、せめて少年にお礼を言おうと口を開く。
しかし、出てくるのはかすれた吐息ばかりだ。
どうやら、もう言葉を話す力も残っていないようだった。
少年はわずかに目を細めると、レインの横に膝をつく。
そして、その体を抱き起したのだ。
何をするのだろう。
そんなことを考えていたレインの口に、少年は懐から取り出した液体を流し込んだ。
血が詰まり、呑めないかと思われたその液体は、まるでレインの体に溶け込むように吸収されていく。
それと同時に、全身の痛みが引いていくのを感じた。
「何事ですかこれはっ!」
大人の声と、たくさんの馬の足音が響いた。
レインを抱き上げていた少年が、その声に反応して顔を上げる。
「知らん。盗賊だか奴隷商人だかだろう。お前たちは村人をといてやれ」
「はっ! しかし、いくら何でもおひとりで切り込むのは無茶ですぞ。ん? その薬は、生命の秘薬ではありませんか! それは公爵様が貴方様の身に万が一のことがあった場合に使うようにと!」
少年がレインに飲ませた薬は、どうやらとても高価なものであったらしい。
レインは驚いて、身を置きあがらせた。
そして、思わず声を上げる。
死ぬほどの怪我を負っていたはずなのに、身体が動くのだ。
レインは自分の体を視まわした。
自分の地や泥で汚れてはいるが、怪我はすべて治っている。
昔父から聞いた話を、レインは思い出していた。
とてもとても高い薬の中には、一瞬で瀕死の重傷をいやしてしまうものもあるのだという。
もっともそういった薬を使う事が出来るのは、ほんの一握りの貴族様だけなのだと。
少年はレインをゆっくりと地面に降ろすと、声をかけてきた騎上の人物に言葉を返す。
「俺がもっと早く来ていればもっと死なずに済んだんだ。子供一人助けるために薬一本使うのを渋ってどうする」
「ですが……! 第一、このようなことは危険です! 勝ったからよいようなものの、怪我をされたらその時こそ……」
「それで死ぬようなら、ハンス・スエラーはその程度の器量の男であったというだけの話だ。兄上達も納得なさるだろう」
少年はさも当然というような口ぶりでそう言うと、レインをゆっくりと地面へと降ろした。
それが、レインとハンスの出会いであった。
家を燃やされ、収穫を奪われた村は、結局廃村になってしまった。
仕方がないことだろう。
働き手である男たちも殺され、家も焼かれてしまったのだ。
途方に暮れる村人達に救いの手を差し伸べたのは、やはりハンスであった。
様々な場所でそれぞれの仕事を見つけて、村人達の暮らしがたつようにしてくれたのだ。
レインの母も姉も、それぞれに仕事を持つ事が出来た。
これで何とか食べていける。
食べていけるという事は、死なないで済む。
村人達は皆、涙を流して喜んだ。
当然、レインもである。
ただ残念なことに、村人達は皆バラバラな土地に移り住むことになってしまった。
もっとも、これは仕方がないことだろう。
数日間街で準備を整えた後、村人はそれぞれが新天地に向かって旅立つことになった。
レインの一家はそのまま街で働くことになっていたので、村人達の出立を見送った。
母や姉も仕事に慣れ、暮らしも落ち着いてきた、そんな時だった。
レインの前に再びハンスが現れたのである。
未だに日本人としての感覚が濃く、身分制度に慣れないレインだったが、相手がハンスとなれば話は別だ。
命の恩人であり、村の恩人であり、大貴族の子息である。
そんなハンスを前に、緊張をしないはずがない。
がちがちに固まるレインの気持ちを知ってか知らずが、ハンスはとんでもないことを言い出した。
レインに、自分の従者になれというのだ。
突然のことに混乱するレインを無視して、ハンスは言葉をつづけた。
村が襲われたあの時、レインの声が直接頭に響いたのだという。
恐怖、痛み、怒り、そして、助けを呼ぶ声。
地球であれば怪現象とされるそれらは、この世界では明確な技術として存在する。
そう。
魔法だ。
ハンスはその時の現象を、魔法であるの判断したのだ。
この世界において、魔法とは適性と知識を求められるものであった。
たとえ魔力が多かろうが、適性と知識がなければ魔法は使えない。
例えば破壊的な力を放出する魔法、例えば傷を癒す魔法。
そのどれもが、それに対する大きな理解と、高い適性を必要のするものなのだ。
数ある魔法の中には、ハンスとレインの間に起こった出来事を説明するものも存在した。
遠話と呼ばれるその魔法は、訓練次第では遠距離間での相互会話を可能にするという。
特殊能力ともいえるようなその魔法の有用性は、想像を絶するものがある。
もし戦争にそれを流用すれば、どうなるだろう。
レインは、決して頭の悪い子供ではなかった。
そんな能力が自分にあるのだとしたら、自分は道具として使われるかもしれない。
ハンスの話を聞いて、レインはそう考えた。
不安に表情をゆがめるレインに、ハンスは眉一つ動かさずに告げた。
自分の従者になれば、お前の考えているようにはならない。
公爵家の名と、自分の剣で守ってやれる。
この国の中で、公爵家とは王家に次ぐ高い位の家を指す。
王家に何かがあれば、公爵家から王が排出されるのだ。
そんな高い位の子息である少年が、文字通り命がけで自分を助けてくれた少年が、自分にこんなことを言ってくれる。
この時、この瞬間。
レインは自分の将来を、この後の一生を決めた。
どんなことでもいい。
ハンスの、ハンス・スエラーの役に立とう、と。
それから、レインは死に物狂いで魔法の訓練をした。
この世界の大半の人がそうであるように、レインには破壊力を放出する系統の魔法に対する適性はない。
しかし、身体の限界を超える強化魔法は使う事が出来た。
ハンスは五男坊であり、将来戦場に出ることが決まっていたから、都合がいい。
レインは自らも剣や槍、馬術を学び、ハンスの近くにいるためにと必死に訓練を続けた。
当然、ハンスに見いだされた遠話魔法も磨き上げている。
別々の場所にいる複数人の相手に、同時に遠話をすることもできるようになった。
他の術者は同時に一人、それも短時間しか会話が出来ないなかで、これは驚異的なことである。
武術を磨き、魔法を研磨し、いつしかレインは、騎士爵を与えられるほどの兵士へと成長していた。
それは、それらはすべて、ハンス・スエラーの役に立つための、そばにいるためのものである。
ハンスはよく、レインの頑張りをほめてくれた。
そして、無理をするなと労ってくれた。
そんな言葉をかけられるたび、レインは天にも昇るような心地になった。
そのたびに、もっと頑張ろう、もっと役に立てるようになろうと決意を新たにするのである。
月日は流れ、ハンスもレインも、いつしか大人になっていた。
国家間での戦争が始まったのは、ちょうどその頃だ。
大量破壊を成す事が出来る放出系統の魔法こそ使えないものの、ハンスの自己強化魔法の制御技術は超一流といって差し支えないものになっていた。
それを使いこなすだけの技量と胆力、剣術の腕も、国内随一だ。
公爵家の人間として武功を立てる必要がある関係もあり、ハンスが騎士団長になることは、当然の流れであっただろう。
補佐として、ハンスはレインを名指しで指名した。
おそらくレインはその時の感動を、生まれ変わっても忘れることはないだろう。
出陣したハンス率いる銅走蛇騎士団の快進撃は、まさに破竹の勢いであった。
当然であるだろう。
国内で最高の騎士が指揮する騎士団である。
敵将の首をいくつもとり、本来敵わないはずである放出系統の魔法を使う「魔術師」すら殺すハンスの名は、敵味方に響き渡った。
多くの武功を上げたハンスは、ついに敵国の有力な将の首を打ち取る。
それがもとになり、国は勝利へと導かれることになったのだ。
レインはこれを機に、ハンスがもっと素晴らしい役職に就くだろうと思っていた。
ハンスの活躍を端的に言えば、まさに英雄だ。
そうなって当然の手柄を、ハンスは上げたのである。
公爵家の一員として、英雄として、ハンスは華々しく王都で祝福されるのだ。
そんなレインの期待は、完全に裏切られることとなった。
公爵家はハンスの活躍を、危険なものとしてとらえたのだ。
次期当主の立場をもぎ取る事が出来るほどの武功を、恐れたのである。
ハンスにその気があるなしにかかわらず、地位の高い人間の周りには人が集まる。
公爵家を継ぐべきはハンスではないかと囁く人間は、一人二人ではなかった。
このままでは、お家騒動になりかねない。
国の屋台骨である公爵家に何かがあれば、文字通り国が揺らぐことになってしまう。
結局、ハンスは自ら進んで地方騎士になる道を選ぶことになった。
国を勝利に導いた英雄が。
国の端の端の辺境で、一人だけの騎士として赴任することになったのである。
それを聞いた時のレインの怒りは、凄まじいものであった。
父や兄、村を失ったときと同じだけの激情だ。
しかし、
ハンスは文句ひとつ言わず、笑って辺境へと旅立っていったのだ。
静かに暮らす夢がかなったと、嬉しそうに王都を離れたのである。
そして、レインの元からも。
地方騎士になるに際して、ハンスには部下を持つことが禁じられたのである。
それならばと、レインは騎士をやめようとした。
ハンスの近くにいられないのであれば、騎士である意味などないのだ。
だが、それを反対したのは、ほかならぬハンスであった。
お前の力を、万民の役に立てろ。
そう、ハンスは言ったのだ。
ハンスの言葉に、否という事など、レインにとってはあり得ないことであった。
本音で言えば、どんなことをしてもついていきたかった。
たとえ泣いてすがってでも、引き止めたかった。
だが、そんなことは、誰あろうレイン自信が許せなかった。
ハンスはいつか王都に帰ってくる。
そう信じて、彼がいつ戻ってきてもいいように、準備を整えること。
それが、レインがレイン自身に課した、使命になっていた。
当然今も、いつハンスが帰ってきてもいいよう、準備は整っている。
足りないのは、最も肝心なただ一人だけ。
ハンス・スエラーだけなのだ。
ミツバやゴブリン、オーク達の手により自衛隊が作られてから、数か月がたった。
現在自衛隊が行っている主な任務は、刈り入れの手伝いや建物の修繕といった、力仕事であった。
ハンスが時々頼まれてやっていたものばかりなのだが、現在は人手が多くなりカバーできる範囲も段違いだ。
元々ゴブリン達は気性が穏やかで、働き者ばかりであったから、街や農村に受け入れられるのもあっという間であった。
今では街を歩けば声をかけられ、何かがあれば頼りにされる存在になっている。
そんな彼らではあったが、戦闘訓練のほうは全くと言っていいほどはかどっていなかった。
本来であれば設立理由的にそちらがメインになりそうなものなのだが、いかんせんこの街の周囲は異常なほど平和だったのだ。
危険な魔獣などはケンイチのオオカミ魔獣が食べてしまい、盗賊などはハンスにビビッて近寄ろうともしない。
防衛うんぬんよりも、刈り入れや建物の修繕のほうが、よほど差し迫った目の前の危機なのである。
それでも、ゴブリン達は日常訓練は欠かさずに行ってはいた。
自衛隊副隊長であるミツバを中心に、朝夕の訓練は毎日欠かされたことがない。
もっとも、訓練とはいってもミツバがおぼえていたラジオ体操とランニングと組手だけという、恐ろしいほど簡潔な内容だ。
元エリート騎士団団長であるハンスの目から見れば、遊んでいるのと変わらない内容である。
ハンスはもともと自衛隊の設立には反対の立場であったので、彼らの訓練には特に口出ししなかった。
戦力として自衛隊が確立してしまえば、実家がイチャモンをつけてくるかもしれないという懸念もある。
それに、自衛隊の面々は、元々様々な理由があり群れを離れたゴブリンやオーク達だ。
戦いの中で傷つき、そうなってしまったものも相当数いるのである。
わざわざそういった危険な場所に、再び戻す必要もないというのが、ハンスの考えだったのだ。
しかし、自衛隊の面々は熱心な訓練を毎日欠かさない。
そんな様子にハンスもようやく折れ、彼らに訓練を施すことになったのであった。
ハンスの指示で、自衛隊の面々は街のはずれにある空き広場に集まっていた。
けが人が出た場合の対処にと、端っこの方にはキョウジが待機している。
ちなみに、待機スタイルは体育座りだ。
整列する自衛隊の面々の前に立ち、ハンスは地面に突き刺さった丸太を叩いた。
これはハンスの指示で用意されたものであり、太さは夕に人間の胴体ほどもある。
「いいか、諸君。君たちゴブリン、オークには、厳密には剣術や槍術というものは存在しないというのは、よく知っている事だろう。私はまず諸君に、それを教えようと思う」
ハンスの言葉を聞き、ゴブリン達はどよめいた。
この世界のゴブリンとオークは、共に人間よりもはるかに身体能力の優れた種族である。
その腕力と体力だけでほとんどの敵を打倒す事が出来るため、武器はただ振り回すだけのものであることがほとんどだった。
それだけで、十二分な脅威になるのである。
人間の奴隷にされたものであれば、多少隊列の組み方を覚えさせられることはあった。
だが、剣術の様な技術を教えられることはない。
それらを習得したゴブリン達が、反乱を起こすことを恐れたためである。
ただただ腕力に頼るゴブリン達であれば、人間は勝つ事が出来るだろう。
しかし、そこに技術や戦術まで加われば手におえない。
彼らを奴隷にするものの多くは、そう考えているのである。
では、自衛隊の面々はどうだろう。
彼らは奴隷ではないし、ハンスもそう思ってはいない。
であれば、生存率を上げるための技術を与えるのは、ハンスの感覚で言えば至極当然のことなのだ。
それは、彼らを一つの人格として認めているという事も示していた。
そして、それを与えてもよい相手であるという、信頼も示しているのだ。
ゴブリン達は、感動にその身を震わせ、どよめいている。
ちなみに、ハンス自身はそんな御大層なことは考えていなかった。
ただ単に、訓練=剣術という自分の中の方程式に従っているだけなのだ。
そもそも、大貴族家出身であるハンスに、奴隷を訓練する知識など皆無なのである。
自分の部下であった騎士たちを訓練するのと同じ感覚で、彼らを鍛えるつもりであるのだ。
ハンスの原隊は騎士団であり、この国において騎士とは戦闘能力だけで爵位を得た者たちである。
そんな化け物連中と横並びにされるのは、ゴブリン達にとって幸せなのか不幸なのか、非常に微妙なところだろうが。
さて、ハンスの認識としては、ゴブリン達というのは非常に誇り高い戦士たちであった。
剣術や戦術などという小細工を使うのを良しとせず、己の体力と腕力のみを武器に魔獣を狩るのだ。
実際人間にかかわらないところで暮らす彼らは、武器こそ持ってはいるものの、ほとんどその身体能力のみで戦っているといいっていい。
実はこれは、ただ単にそういう文化を持っていないというだけの事ではあるのだが。
身体能力だけを頼りにしても戦いにある程度勝ててしまうので、それ以上工夫することがないのだ。
それが、彼らが人間に負けてしまい、奴隷にされてしまう理由でもあるのだが。
貴族のボンボンであるハンスは、そういった事情に信じられないほど疎かった。
ハンスの中では、ゴブリン達は「己の身体能力だけを武器に戦う、誇り高い戦士」である。
そんなゴブリン達がどよめいている理由を、ハンスは「自分たちに剣術をさせるなんてとんでもない」と考えているのだと判断していた。
ハンスはいい人ではあるが、変なところで勘の鈍い男なのである。
「諸君が動揺するのも分かる。だが、剣術というのは覚えておいて損の無いものだ。まずは一つ実感してもらおう。一人、この丸太を斬りつけてみてくれ」
ハンスに言われ、力自慢のオークが前へ出た。
オークは亜人種の中でも、特に腕力に優れる種族だ。
こういう事なら、お手の物である。
オークは受け取った剣を振り被ると、気合の声とともに横なぎに振りぬいた。
「ぶっひぃ!!」
渾身の力を込められた剣は、轟音を上げて丸太の中ほどまで食い込んだ。
大きな斧ならまだしも、剣でそこまでやってのけるのは驚異的といっていいだろう。
ミツバやゴブリン達から、どよめきが上がる。
丸太に食い込んだ剣を、オークは両手でつかみ引き抜く。
折れていないかなどを確かめると、ハンスへと返す。
剣を受け取ったハンスは満足そうにうなずくと、今度は自身が丸太の前へと立った。
何気ない動作で剣を振り上げると、丸太へ向かって振りぬく。
剣はまっすぐに丸太へと向かい、カツンという乾いた音を響かせる。
ハンスの剣は、そのまま丸太を通り過ぎ、反対側へと抜けてしまう。
中空には、切断された丸太の半分が跳ね上がった。
あまりの出来事に、自衛隊の面々はあんぐりと口をあけたまま固まる。
目の前で起こったことが、信じられなかったのだ。
力自慢のオークですら、半分食い込ませるのが精々だったのである。
それを、ハンスはほとんど力んだ様子もなく、軽々と切り裂いたのだ。
魔法などを使っている様子は、見られなかった。
もし使っていたとするならば、手足の発光など、何らかの予兆が見られるはずなのである。
だが、ハンスにはそれらは一切見られなかった。
つまり、自前の力だけで切って見せたという事になる。
ハンスは剣を鞘にしまいながら、自衛隊の面々へと向き直った。
「このように、剣術を収めさえすれば諸君らよりもはるかに力の劣る私でもこの程度の事は出来るようになる」
確かにハンスは、純粋な腕力や体力だけで言えばゴブリン達よりも大きく劣っている。
同じ武器を使っているし、魔法で身体強化などもしていない。
ハンスは自前の腕力と技術だけで、丸太を真っ二つにして見せたという事になる。
「それはつまり、私より身体能力の上回る諸君ならば、もっと強固なものも切り倒す事が出来るという事だ。たとえ相手が魔獣であったとしても、一刀のもと打倒する事が出来るだろう」
ハンスが、それこそ生まれたころから剣術に親しんでいることは、自衛隊の面々にもわかった。
だから、すぐにハンスほどの腕前になる事が出来ないことはわかる。
それでも、少しでもそれに近い技術を習得する事が出来たならば。
その効果は、絶大であるだろう。
ハンスが思っているほど大層なものではないが、ここに居並ぶゴブリン達は、皆戦士だ。
今よりも強くなれるかもしれないと聞かされて、表情に期待の色が浮かぶ。
これで強くなる事が出来れば、よりハンスの役に立てる。
そんな期待も、ゴブリン達の胸にはあったのだ。
「とりあえず、今日は訓練用の武器に慣れてもらおうと思う」
そういうと、ハンスは近くに置いてあったカゴを掴みあげた。
いくつかおいてあるそれには、木製らしき棒のようなものが入っている。
「これは木剣という。表面こそ木製だが、内部には鉄を仕込んだものであり、打撃武器としては威力も強度も十二分にあるものだ。王都では警備兵が身に着けていたりもする、正式な装備でもある。今回はこれを練習用、兼、実戦武器として全員に配ることにする」
自衛隊ではこれまで、武器は各自持ち出して賄われていた。
今回初めて支給されるという武器に、ゴブリン達は大きくどよめく。
さっそく、ゴブリン達はハンスの前に並び、武器を受け取っていった。
見た目こそ木製ではあるが、重さはかなりのものだ。
木自体も頑丈であり、多少の事では傷つきそうもない。
振ったり、眺めたりしながら木剣の具合を確認するゴブリン達。
その中の一人が、ふとあることに気が付いた。
「ハンス隊長! ここに書いてある、コウシロウ食堂・営業時間・朝昼夜というのはなんでしょうか!」
「それはスポンサーテロップだ。今回の武器は複数のスポンサーからの出資で購入されている。武器の費用を出してもらう代わりに、宣伝文句が刻まれた武器などを持ち歩くのだそうだ。自衛隊はあちこち歩き回るから、宣伝効果も高い、らしい。よくわからんが」
「なるほど。俺達、街の中や農村とかを歩き回りますもんね」
ハンスの説明を聞き、ゴブリン達は納得した様子で頷く。
表情を曇らせているのは、日本人であるミツバだけだ。
「なんか一気に生々しくなったっす! これまでのファンタジーな流れはどこに行ったんすか!」
「俺に言われても知らんぞ。ちなみにこれを提案してくれたのはキョウジだ。うちの駐在所はいつもカツカツだからな。とても助かった」
「また生々しくなったじゃないっすか! なんなんすか一体! 異世界にスポンサーの概念持ち込んだ俺SUGELEEE!! とかいうつもりなんすか! キョウジさんのハゲっ!」
「ハゲてないよ?!」
突然矛先を向けられ、キョウジは体育座りのまま頭を手で押さえて叫んだ。
どうやら一応確認したらしい。
実際、いかつい自衛隊の面々が腰に下げている武器に「自衛隊御用達 武器屋マンガンの店」「新鮮な野菜をいつでも豊富に大特価 モディーブ青果店」などと書いてある様は、なかなかシュールではある。
まして自衛隊の面々はゴブリンやオークだ。
知らない人が見たら、疑問と混乱で硬直すること請け合いである。
「まあ、いいっす。ここはキョウジさんの異世界でNAISEIで俺TULEEE願望に付き合うことにするっす。さあ、自分にもその伝説のかっこいい木と鉄が合わさって最強に見える木剣をくださいっす!」
「お前の分はない」
元気よく両手を突き出したミツバだったが、帰ってきたのはそっけない返事だけであった。
あまりの衝撃に、ミツバは数歩後ずさる。
「なんでっすかっ! いじめかっこ悪いっす!」
「キョウジの提案でな。岩を殴り砕き、斬りかかられれば斧や剣がひしゃげ、鉄のインゴットを素手で引きちぎる奴に武器はいらんだろう、とな。私もむしろ邪魔になるだけだと思う」
「なに余計なこといってんすかぁー!!」
実際、「超身体能力」という能力を持つミツバの素手は、鋼の剣の数倍危険であった。
破壊力、強度共に剣より勝るのだから、剣を持つ意味などないのだ。
というか持たせたら持たせたですぐに壊すであろうから、費用ももったいない。
あきらめの付かないミツバは、おもむろに地面に寝転がると、じたばたと両手両足を振り回した。
地面がえぐれ土煙が上がる、恐ろしくたちの悪い駄々っ子攻撃だ。
「やーだやだやだやだー! 自分も木剣ほしーっすー! 自分だってやっぱり木剣持ってないとダメかとか、持ってる人憧れちゃうなーとか言われたいっすー!」
「安心しろ。お前の体のほうが鉄の剣や槍よりもよほど強い。ドラゴンが木製のナイフやフォークを持たないのと同じだ」
無茶苦茶なことを言っているようだが、実際ミツバの体はその位頑丈である。
鍛冶屋の溶鉱炉に手を突っ込み、手にからみついた溶けた鉄を見て「鉄製グローブっす!」とか言いながら爆笑するぐらい頑丈なのだ。
流石のハンスも、そんなやつに武器を持たせるつもりは微塵もないのである。
「では、さっそくはじめよう。剣を振る基本は、やはり素振りだ。振り方ひとつ違うだけで、剣の威力は全く変わってくる。まずは剣の握り方だ。どんなふうに握っても同じと思うかもしれないが、これを変えるだけで格段に振りやすくなる。まず親指と人差し指で……」
「なに無視してるんすかっ! ここは同情して剣を持たせてくれる場面っすよ!」
「いや、別に同情はせんが」
「なんでっすかー! ずるいっす! 妬ましいっす! 自分だってハンス隊長の部下じゃないっすか! 差別よくないっす! 育児放棄っす! ドメスティックバイオレンスっす!」
「どちらかというとお前の行動のほうがバイオレンスだと思うんだが。どうやったら駄々をこねる動作で地面に穴が開くんだ」
「そんなことどうでもいいっす! 大体なんで素振りはじめようとしてるんすか! 自分はっ! 自分はどうするんすか! 武器をよこすっす!」
「お前には武器はやらん。後で俺が体を使った戦い方を教えてやるから、待っていろ」
「いやっすー! みんなと同じがいいっすー!」
直々に戦い方を教えるというのもかなり贅沢な気がしないでもないが、今のミツバには関係ないらしい。
喚き散らしながら、地面でじたばたと暴れ続けている。
ハンスはしばらくその様子を眺めていたのだが、やがてため息を一つ吐き出した。
くるりと自衛隊の面目のほうに向きなおると、手にしていた剣を掲げ、握り方の説明を再開する。
「このように持つと、振るときに普段より楽になることがわかるだろう。さらに、腕の動きに差をつけることで切っ先が素早く動くようになる。速さは威力につながることは、言うまでもないだろう」
「無視してんじゃねぇーっすよー!! 剣! 剣をよーきゅーするっすー!」
握り方の説明を続けるハンスに、ミツバはついに実力行使に出た。
体をひねり飛び起きると、そのままハンスの腰にしがみついたのだ。
腕をハンスの腰に回しがっちりと掴み、下半身は力を抜いてだらりと地面に投げ出す。
日本人ならばデパートなどで一度は見たことがあるだろう、子供の典型的駄々コネスタイルの一つである。
ハンスはミツバの予想外の行動に凍りついた。
自衛隊の面々も同様である。
全員の視線が、ゆっくりとある一か所に集まった。
そこにいるのは、端っこで体育座りをしているキョウジだ。
キョウジはおもむろに手を伸ばすと、それを首と一緒に左右に振った。
ほっとけ。
言葉には出さないが、そういう合図である。
「では、まず俺が剣を振って見せる。よく見て、動きを覚えてくれ」
「無視すんなっすー!!」
どれだけ騒ごうがわめこうが、ハンスと自衛隊の面々はミツバをほっておくことに決めていた。
その鋼の精神力の前では、叫び声など無意味なのだ。
ハンスは剣を握ると、一際ゆっくりとした動作で素振りを開始した。
緩慢にも見える動きだが、そこからはすごみすら感じ取る事が出来る。
何度も何度も繰り返されてきた、無駄のない動きであるからだろう。
ゴブリン達もその動きを覚えようと、真剣な表情で見つめている。
腰にぶら下がっているミツバはガン無視だ。
こうして、自衛隊結成以来初の、本格的な訓練が開始されたのであった。
悩んだ挙句、レインは馬を使わず、自分の足でハンスが守護する街へと向かった。
途中険しいところがあり、馬ではどうしてもゆっくりと走らせざるを得なくなってしまう。
だが、魔法を使い強化した自身の脚でなら、一切速度を緩めることなく進む事が出来るからだ。
レインは一切休むことなく、ひたすらに走った。
二日目の昼に差し掛かったころ、ようやく最初の通過点が見えてくる。
街の周りにある、農村の一つだ。
もうすぐつく。
そう思うと、レインは身体に活力が漲ってくるような気がした。
疲れていた脚が軽くなり、流れていく景色も早くなっていくようだ。
実際、本当に速度は上がっていた。
ハンスのもとへ近づいたという思いが、強化魔法の度合いを強くしたのである。
レインの体、特に脚は、赤い陽炎のように光を立ち上らせていた。
強化魔法に伴う、発光現象だ。
たまたま畑に出ていた農家のターロウさんは、その様子を後にこう語った。
「びっくりしたよ! 向うの山に光る点があるな、と思ったら、それがすごい勢いでこっちに向かって飛んできたんだ!」
いささか未確認飛行物体の目撃情報染みていた。
とにかく、レインはその位の速度で街へ向かって走ったのである。
目指すのは、ハンスが詰めているはずの駐在所だ。
その頃。
本来ハンスがいるはずの駐在所には、コウシロウ老人、改めコウシロウと、ケンイチがたむろしていた。
ケンイチが店に肉や乳、チーズなどを納品した後、ここでお茶をすするのは二人の日課になっているのだ。
「そういえば、炭焼き小屋どうなったんすか?」
「うまくいっていますよ。やっぱり炭は便利ですからねぇ。早く使えるようにしたいところですよねぇ」
「炭で焼くと肉旨いっすからねぇー。あれ、熱効率もいいんでしたっけ?」
「ええ。かまども、日本式のものを作ったのが普及してきましたし。火の回りはずいぶん楽になる予定ですよ」
「たのしみっすねぇー」
「そうですねぇ。ん?」
突然、コウシロウが眼を鋭く細めた。
何かの気配を感じ取ったのか、軽く腰を上げ、腰の後ろに手を回す。
だが、すぐに腰を下ろした。
コウシロウの能力は千里眼だ。
たとえどんな相手だろうが、その場所に居るとわかれば見る事が出来る。
色々と制約があることはあるのだが、こと知覚に関してこれほど凶悪な能力もないだろう。
「どうしたんすか?」
「いえ、走っている人がいたもので」
「知らないやつっすか」
表情を変え立ち上がるケンイチに、コウシロウは笑顔を見せ、手を振るう。
特に気にすることはないというような意味あいだ。
「いえ。心配する相手ではないようです。ハンスさんと同じような格好の女性ですよ」
「同じような? 兵隊っすか?」
ケンイチは立ち上がり、駐在所の扉を開けて顔を出した。
きょろきょろと見渡すと、少し離れたところに奇妙なものを見つける。
光の点だ。
「ああん?」
表情を歪めるケンイチだったが、すぐにその正体を掴む事が出来た。
脚を赤色に発光させた女性が、途轍もない勢いで走ってきているのだ。
「な、なんだぁ?!」
思わずドン引きするケンイチだが、接近してくる女性は一切速度を緩めず走りこんでくる。
ある程度まで近づくと、まるで足で地面を削るようにして減速。
土煙を上げながら、ケンイチのギリギリ手前で停止た。
あまりの光景に、ケンイチはのけぞりながら思わず「ミツバみてぇなことしやがんなぁ、コイツ!」と呟いた。
どうやらミツバは毎日こんなことをしているらしい。
ケンイチは数歩後ずさり、まじまじと女性を眺めた。
緩い癖の付いた紅い髪は、まるで燃え上がるっているように見える。
肌は、それとは対照的に透けるように白い。
目つきはきつくはあるが、かなりの美女であるといっていいだろう。
日本人であるケンイチの持った感想は「なんかタカラヅカっぽい」であった。
まあ、男役とかそっち系の美人という事である。
その美人はすっくりと立ち上がると、キッと睨むように詰め所の中に目を向けた。
そして、すぐさまケンイチに顔を向けなおす。
「ここに、ハンス・スエラー様がいらっしゃったはずだが」
「へ? ハンスさん? なら、街のはずれの広場にいるはずだぜぇ?」
「その方向を教えていただけるか」
「あーっと、この道真っ直ぐ」
「かたじけない」
そういうと、女性はすぐさま踵を返し、来た時と同じような勢いで走り去ってしまった。
まるで嵐のような登場と退場に、ケンイチは面食らっている。
「なんだありゃ。脚光ってたのは、確か魔法だったよなぁ?」
「あっはっはっは。せっかちな娘さんだねぇ。あんなに慌ててハンスさんに会いに行くなんて。ハンスさんも意外と隅に置けないねぇ」
コウシロウも詰め所から顔を出すと、女性の背中を見送りながら声を出して笑った。
口には出さないものの、見た目は若くなっても言動は年相応だなぁー、と、思うケンイチだった。
ケンイチが遭遇したのは、当然というかなんというか、レインであった。
指された方向に向かって、レインは大急ぎで脚を進める。
かなり地面とかがえぐれているが、気にしている場合ではない。
何せ、もうすぐハンスに会えるのだから。
レインにとって、ハンスはヒーローだ。
命の恩人であり、恩師であり、あこがれの男性だった。
ハンスに言われたから残ったものの、本当だったらこの土地にいっしょに来るはずだったのだ。
こんな辺境に飛ばされても、ハンスは腐っている様子は一切なかった。
それどころか、夢がかなったと笑っていたのだ。
そんなハンスとであれば、レインはどこまででもいっしょに行けると思っていた。
いや、むしろハンスさえいれば後はどうでもよかったのだ。
ハンスが満足してくれる環境を作るためなら、王国を丸ごと敵に回す覚悟がレインにはある。
だが、ほかならぬハンスがそれを望まない。
一言かけてくれれば、すぐにでも自分はハンスのもとに駆けつけるのにと、レインは思っていた。
ハンスはお前は王国に必要だと言ってくれたが、本当は一緒について来いと言ってほしかった。
そうすれば、地獄の底にだってついていくつもりであったのに。
今だって、すぐにこの土地に移り住む覚悟があるのだ。
そうすれば、毎日ハンスの身の回りの世話が出来るし、同じ騎士団にいた時のように役に立つ事が出来るだろう。
朝起こしに行っておはようといわれたり、朝食の支度をして褒められたり出来るのだ。
寝起きのハンスの表情を思い出しゆるむ顔を、レインは両手でひっぱたいて引き締めた。
久しぶりにハンス団長に会うというのに、だらしなくゆるんだ顔など見せるわけにはいかないのだ。
レインの目が、たくさんの人影をとらえた。
その前にいるのは、間違いなくハンスその人だ。
レインは地面をける脚に、さらに力を込めた。
視界に入っているのは、もはやハンスだけだ。
ハンスが王都を出て、二年以上たつだろうか。
その間、レインはほとんどハンスにあっていなかった。
一度だけ無理やりもぎ取った休暇を使い来たことはあるが、それもはるか一年以上前の話である。
今のレインの状態を言葉で表すとすると、「ハンス欠乏症」といったところだろうか。
血中のハンス分が著しく欠如し、生死をさまようような状態である。
普段はオリジナルのの「ハンス君人形(髪の毛入り)」でぎりぎり耐えてきたのだが、本物が手の届く距離にいる今となってはもはや我慢の限界だ。
いっそこのままあのたくましい胸に飛び込んで、胸いっぱいにハンス様の匂いを。
と、考えそうになったところで、レインは自分の顔をばしばしと叩いた。
いくら我慢の限界とはいえ、やっていいことと悪いことがあるのだ。
兎も角、レインは必死に足を動かし、ハンスの近くまでやってきた。
距離を確認してから、軽く跳躍。
両足をそろえて、地面を削るように制動をかける。
狙いたがわず、レインの体はハンスと少し距離を置いた位置に止まった。
レインはそのまま片膝をつくと、ハンスのほうへと顔を向ける。
心臓が走ってきたのとは別の意味でバクバクと素早く、力強く脈打っているのがわかった。
だが、表情には一切出ないように細心の注意を払う。
ハンスに見苦しい表情は見せられない。
乙女心は複雑なのだ。
久しぶりに目の前に現れた元部下の姿に、ハンスはわずかに眉をひそめた。
土煙を上げて走ってきたのは、忘れるはずもない、レイン・ボルトだ。
ハンスが子供のころにその才能を見出し、自ら鍛え上げた女性騎士である。
どんなことがあっても取り乱さない、冷静沈着な頼りになる存在であると、ハンスは判断していた。
人を見る目があるのかないのか、非常に微妙な線である。
「お久しぶりです、ハンス団長」
「久しぶりだな、レイン。元気そうで何よりだ」
そういうと、ハンスはニコリとほほ笑んだ。
久しぶりにあった元部下の元気な様子に、安心したからである。
そのほほ笑みを真正面から見てしまったために、レインの頭の中にはお花畑とかが乱れ飛んでいたが、表情には一切出ていない。
子供のころから鍛え上げたポーカーフェイスはいまだ健在なのだ。
「お前がこれだけ急ぐという事は、よほどのことがあるのだろう。何事だ?」
「はっ。詳しいことについては、別の場所にて」
つまり、ここでは話せないような内容であるという事だ。
その言葉に、ハンスは表情を険しくする。
「そうか。わかった」
「はっ。それと、先にお伝えすべきことが」
「どうした?」
「この街に、コルディボア・シュバイケル・ロックハンマー侯爵様がお出でになります。今回私はその先触れとして一足先に参じた次第です」
「ロックハンマー侯爵が?」
侯爵の名前が出たことで、ハンスの表情が一気に険しくなった。
普段から刻まれている眉間のしわが、ぐっと深くなる。
「そうか……何はともあれご苦労だった。ここではなんだ。コウシロウの店にでも行くとしよう」
「はっ! ……ぁ?」
気合を込めて返事をしたレインだったが、突然出てきた和風な名前に、びくりと体が反応した。
生まれ変わってから一度も聞いたことのない響きの言葉に、眠っていたはずの日本人の感覚がざわめいたのだ。
そんなレインの事を知ってか知らずか、ハンスはずっと素振りを続けていたゴブリン達のほうへと向き直り、声をかけた。
「自衛隊の諸君! ひとまず休憩だ! 各自休憩してくれ!」
「「「さーいえっさー!」」」
ハンスの言葉に元気よく返事をすると、ゴブリン達は近くにある井戸のほうへと歩いていく。
2~3人キョウジのほうへ向かっていったのは、おそらく怪我でもしたのであろう。
ハンスがなぜゴブリン達に指示をしているかもレインの中では大きな謎だったが、それよりも彼女を混乱させるものがあった。
掛け声である。
サーイエッサーなどという言葉は、この世界には存在しないはずなのだ。
だいたい自衛隊とはなんだ。
この世界には、「国内の警備だけしているから軍隊じゃありません」などとうたう武装自衛集団は存在しないはずなのだ。
居るとしたらそれは、戦国時代に行ってしまったあの映画よろしく、何かしらの原因で次元の狭間とかに迷い込んでしまっている場合だけのはずなのである。
「なにかっこよく会話してるんすか! そんなことよりも剣っすよ! 木剣! 自分にも木剣をよーきゅーするっすー!」
「お前はまだいっているのか……」
腰にへばりついたまま文句を言いうミツバに、ハンスはあきれた調子で言う。
誰も触れなかったが、ミツバはあれからずーっとハンスにしがみついていたのだ。
ハンスの顔しか見てなかったレインであったが、流石に言葉を察したことでミツバの存在に気が付いたらしい。
腰に手を回してへばりついているミツバに、一瞬嫉妬とも怒りとも取れるような表情を向ける。
もちろん、次の瞬間にはキリリとした顔に戻っているのだが。
「ハンス隊長。この娘は一体……」
「ああ。気にするな。にほんじんという奇妙な人種の娘だ」
「にほんじん?」
「まあ、知らないのも無理はないだろう。俺もここ数か月で初めて知ったからな」
こわばったレインの顔を見て、ハンスはそれが未知のものに対する動揺だと判断していた。
実際は恐ろしく懐かしい、生まれる以前の記憶を激しく刺激されたことでの動揺なのだが。
「木剣! 木剣っすよ木剣! もうこの際木刀だっていいっす! 木剣がなければ木刀を寄越せばいいじゃないっすかー!」
「マリー・アントワネットか……!」
その瞬間を、レインは後々まで後悔することになる。
久しぶりすぎる、二度と聞かないと思っていた単語の連発に、鋼鉄の強度を誇っていた意思が瓦解したのだ。
いつもだったら決してしないような鋭い突っ込みが、口を突いて出てしまったのである。
混乱しているときは、普段自分がしないようなことをしてしまうものだ。
レインはこの時、それを激しく痛感した。
「誰が微妙にうまいこと言えって言ったんすか! そんなことよりも木剣っすよ! って、あれ、おねーさんなんでアントワネットなんて知ってるんすか?」
「へ?! いや、べつに私は何も……!」
「なんだ、まりーあんとわねっとというのは」
「地球の歴史上に人物っす! 飢えてる国民にパンがなければお菓子を食べればいいじゃないってクソ外道なこと言った人っす!」
「なるほど。木剣がなければ木刀、か。近いことではあるが……面白そうな言葉だな。あとでキョウジに詳しく聞いてみるか」
顎に手を当てて呟くハンスだったが、すぐにおかしな点に気が付き首をかしげた。
レインはそんなハンスを見て、だらだらと汗を流している。
レインはハンスに、自分が転生者であることを伝えていなかった。
というか、この世界に生れ落ちてからそのことを一度も口にしていなかった。
秘密にしていた、といっていいだろう。
生まれ変わる前は科学文明の進んだ世界にいました、などというのは、はっきり言って戯言だ。
そんなことをヘタに言えば、白い目で見られるだけだろう。
もっともハンスにだけは、そのことをいつか話そうとは思っていたのだ。
たとえば、そう。
結婚前夜とか。
と、そこまで考えて、レインは気が付かれないように自分のモモを抓り上げた。
今はそんなことを考えている場合ではないのだ。
「ん? いや、レイン。なぜにほんの歴史上の人物をお前が知っているんだ?」
「日本じゃなくて、世界史っす! あれじゃないっすか? おねーさんが転生者だったりするんじゃないっすかね!」
「転生者? 生まれ変わりというやつか?」
「そうっす! まあ、そんなことあるわけないっすけどね! あっはっはっはっは!」
「お前たちも似たような立場だけどな」
ほぼズバリ出生の秘密を言い当てられ、レインは思考停止状態に陥っていた。
いったい何が起きているのか訳が分からない。
まさにそんな状態である。
「あの、ハンス様。事情がよく、呑みこめないのですが」
わずかに指先が震えているだけで、ほぼ表情を変えずにそう言い切るレイン。
もはや無意識のレベルにまで達しているポーカーフェイスは、芸術といっても差し支えないだろう。
「ああ。後で詳しく話す。まったく。ただでさえ面倒事が多いというのに」
ハンスはそうつぶやくと、ぐりぐりと眉間を押さえつけた。
もちろん。
この時ハンスは、これが自分に降りかかる災難の開始の合図であるとは、予想すらしていなかったのである。

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