終活は今(1)簡素でも「お別れ」しっかり
安置施設利用、葬儀考える時間確保
人生の最期の迎え方をあらかじめ思い描き、準備する「終活」が盛んだ。葬儀や墓をどうするか? 死後の整理を誰に頼むか? 準備ができないまま亡くなった人やその遺族などの周辺事情も含め、最近の動向を追う。
5月中旬の深夜、東京在住の50代の男性会社員は焦っていた。80代の父をみとった大阪市内の病院から、その遺体の搬出を促されていたのだ。
父が独りで住んでいた市内の団地は片づいておらず、とても遺体を運び込めない。近隣の葬祭業者に関する知識もなく、どうすべきかを考える時間が欲しかった。インターネットで検索して見つけたのが、遺体を安置し、遺族も宿泊できる施設「ホテル リレーション」だった。
同市中心部にある6階建ての施設は、ビジネスホテルのような外観。内部も落ち着いた内装で、遺体を置く約14畳の部屋の両側に4畳半ほどの遺族用の寝室が2室配置され、トイレや風呂もあった。
この施設は2012年3月に開設。病院などで身内を亡くした遺族が葬儀の段取りを決めるまで、一時的に遺体を預かる。月約30件の利用があるという。
病院で亡くなった遺体は、葬祭業者が搬出し、そのまま葬儀まで行うのが一般的。だが、この施設の運営会社、リレーション(大阪市)の西山孝さんは「葬儀社主導で話が進むため、後で利用者は内容や料金面の不満を抱きやすい」と指摘する。
同社のサービスは、遺体を搬送して施設に安置し、遺族の要望に応じて葬儀社を紹介するのが基本だ。安置室の利用料は24時間で3万2400円(税込み)から。葬儀のことをじっくり考える時間が作れるので、「葬儀の中身についての納得感が高い」と西山さん。施設内でも葬儀をあげることはできるが、利用者の4割は、葬儀社を選び、別の場所で葬儀を行うという。
先の男性は、父を搬出した日の午後、施設内で身内だけの葬儀を済ませ、近くの斎場で火葬した。「久しぶりに父と同じ部屋で眠り、最後の家族旅行を楽しんだ気分になれた」と穏やかに話した。
遺体安置施設は近年、都市部を中心に次々誕生。運営業者は葬祭業や
自分自身の葬儀の形態について、通夜や告別式を行わずに火葬する「直葬」を希望する人も増えている。こうした動きも、遺体安置施設の需要を後押しする。
年間約800件の葬儀施行数のうち約4割で直葬を手がける、神奈川こすもす(川崎市)は、横浜市など3か所で、遺体安置施設「フューネラルアパートメント」を運営する。施設では遺体と24時間面会が可能で、ゆっくりとお別れができる。遺体の安置は24時間で5000円(税抜き)、面会室利用は90分1万5000円(同)から。
社長の清水宏明さんは「『安価に、簡素に』という考えで直葬を選びながらも、別れの時間はしっかり確保したいとの声に応えた」と話す。
第一生命経済研究所(東京)主任研究員の小谷みどりさんは「近所付き合いの希薄化やマンションなど居住環境の問題から、遺体を家に連れ帰りたがらない人は多く、遺体安置施設のニーズは高い」と話す。
ただ、施設の設置を巡り、住民とトラブルになるケースも散見される。「地域の理解が必要」として、条例や指導要綱で住民への説明や事前の届け出などを求める自治体も出てきた。
新しいサービスとして登場した遺体安置施設。広がりを見せる一方で、課題もまた浮かび上がっている。
料金など相談増
国民生活センターによると、葬儀サービスに関する2013年度の相談は全国で716件。03年度の210件以降、ほぼ一貫して増加傾向だ。
「200万円の葬儀一式プランを依頼したが、葬儀の後に400万円を請求された」「無断でサービスを追加され、見積もり以上の額を請求された」など、料金や業者の説明不足に関するものが目立つ。
同センターは「葬儀はめったにない経験の上、限られた時間で判断しなければいけない特殊な契約。サービスが多様化していることもあり、トラブルになりやすい」という。
(2014年7月2日 読売新聞)
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