市販薬OD見聞録

しばしば世間を賑わすドラッグの話題。最近は脱法ハーブのトピックがホットなようだ。違法なドラッグや、法の網目をすり抜けるドラッグが取りざたされる中、実は平然と市販されている薬品も濫用されていたりする。以下は、しばしば濫用される市販薬について、聞いた話をそれらしく書き換えた、ただそれだけの話である。面白半分で読み流すのが正しい用法だ。無論、濫用を推奨するものではない。

エスエスブロン錠(ブロン:シリーズ)/製品情報【エスエス製薬】


市販薬OD定番中の定番。ラリ中でなくとも、ドラッグストアでバイトした経験があればおそらく皆知っているであろう、超有名ドコロである。

過去、まだそんな世界に足の先さえ踏み入れたことのなかった俺は、ドラッグストアでアルバイトをしていた。ひと月ほどの間バイトを続けていると、どうやらこのブロンという咳止め薬を毎日のように買っていく人が居ることに気がついた。ちょうどその頃、店長や先輩から、彼らについての話を聞いた。ドラッグストア界隈では彼らの事を「ブロン中」と通称するようだ。そのまんま、ブロン中毒の略称である。どうやら、薬事法なんかでブロンの販売には規制があり、一回もしくは一日の販売個数が制限されていた。しかし彼らは度々買いに来るので、店長も諦めてしまっているようだった。世の中には仕方ないことがあるのだ。

ドラッグストアでのアルバイトを辞めた後になって、中島らもを読んでいると、作中に咳止め薬をODする描写があった。合法・非合法に関わらず酒に薬に溺れまくっていた中島らもである。当然のように、ブロンにも手を出していたらしい。そこで興味を持って、少しブロンについて調べてみた。

さて、ブロンに含まれる主要成分は以下のとおりである。

含有量は無水カフェインが最も多いが、はっきり言ってこれは余分である。少なくとも正しくない用法においては余分だ。こいつのお陰でやたらと尿意を催すし、眠れなくなってしまう。その次に多いメチルエフェドリンと、更にその次に多いジヒドロコデインが、正しくない用法における主要成分となる。

ちなみに、実は有名な大正製薬の総合感冒薬であるパブロンにも、「ジヒドロコデインリン酸塩」と「dl-メチルエフェドリン塩酸塩」が配合されている。貧乏なジャンキーは安価であるがゆえにパブロンをODするようだが、余分な成分が多く臓器に負担をかけるので、そもそも推奨されない薬の使い方をしているジャンキーでさえ、パブロンのODは推奨していないようだ。

メチルエフェドリンが及ぼす効果は、2chの専スレなんかでは通称「(`・ω・´)シャキーン」である。要するに頭がシャッキリする。無気力の深淵からふわりと飛び立つ感覚がある。曰く、鬱にも効くようだけども、当然の如く治療ではなくただの対処である。治りはしない。

ジヒドロコデインは「(*´∀`*)マターリ」である。頭も身体も脱力する。先にエフェドリンのシャキーンが来て、その後でコデインのマターリが来る。詳しいことは知らないが、コデインは別の名をメチルモルヒネと呼ぶ。正確にはジヒドロコデインコデインは異なるのだけど、体内での代謝を幾度か経てモルヒネになる。言うまでもなくモルヒネは麻酔なので脱力することになる。正しくない用法に置いてグレープフルーツジュースとの飲み合わせが推奨されることがある。これは、コデインが肝臓で代謝される際に触媒となるシトクロムP450 3A4の摂取が目的である。オカルトではなく薬理に基づく理由があるのだけど、ラリ中は頭が悪いことが多いのでオカルトだと思っている場合も多く見られる。

不思議の国のアリス症候群」を知っているだろうか。視覚された外界の大きさや色を歪に感じてしまう症状の事をさす。実際よりも大きく、あるいは小さく感じたり、相対的に自身を小さく、または大きく感じたりする。視覚だけでなく、触覚や身体イメージ、時間についても歪が生じる症例があるらしい。エフェドリンの効果か、コデインの効果かわからないが、ブロンをODしているとこれに似た感覚がある。ラストノートに生じるものなのでおそらくはコデインの効果だろう。自身の体験に顕著だったのは、身体イメージの歪である。形容が難しいが、実際の身体がマッチ棒のようにか細く感じられ、そのまわりに拡張された身体感覚が纏われているようなイメージだろうか。しばらく横なって脱力しているとこれが起こる。ちょうど、右側の画像、ガンツに出てきたこの装備を纏っているかのような感覚である。

エフェドリンの効果を厭うジャンキーは、エフェドリンが含まれない構成の下記商品を重用するようだ。
エスエスブロン「カリュー」(ブロン:シリーズ)/製品情報【エスエス製薬】

無水カフェインは余分と書いたが、何かに集中したいときには、実は無水カフェインも悪いものではない。眠気が遠ざかるから、普段は眠くなってしまうような作業にでも時間を気にせず集中し続けられる。コデインが効き始めると身体を動かす作業は困難だが、活字を読んだりであれば大いに効果を発揮する。ただぼんやりしながら音楽を聴くのも、普段とはまた違った味わいがあって良いものである。

ドラッグにはアッパー系とダウナー系があるが、誰だったかがこんな意味のことを言っていた。

ジャンキーは最終的にダウナーに行き着く

これは多分正しいのではないかと思う。

ウィリアム・バロウズは言った。

麻薬は生き方なのだ

おそらく、この言葉の解釈は、ジャンキーかそうでないかで分かれる。普通に生きていれば、「生きる」という言葉の意味は一辺倒で月並な想像の範疇に収まる。ジャンキーの考える「生」はまた違う。死は生に含まれている。生きていないというのはその反対で、死が生を含んでいる状態だ。要するに割合の問題である。生の中で極限まで死を膨らませるような生き方は成立し得る。

そういう意味で、ダウナー系のドラッグというのは、死体のように生きることを可能にさせるのだ。食欲、性欲、睡眠欲を捨て、健全さのための代謝を捨て、混濁した自我は澱と上澄みに選り分けられる。

Wikipediaイデアの項目にこんな記述がある。

philosophia(=愛知)とは「死の練習」なのであり、真の philosopher(愛知者)は、できるかぎりその魂を身体から分離開放し、魂が純粋に魂自体においてあるように努力する者だとした

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%87%E3%82%A2

これは、プラトンの哲学及び哲学者についての記述である。世の中には、殊に過去まで遡れば、これを強引な結びつけだと一笑に付すことが出来ない者は決して少なくない。おそらくは有史以前から、そうした目的から薬物が用いられることはあっただろう。歴史に残っている範疇でも、そういう事例は多く見られる。

しかしまあ、所詮はジャンキーである。自身が侮られる覚悟の上で、このくだらない頽廃に身を委ねる人間を大いに侮れば良いだろう。

ウット


実際のところ、市販薬で好んでODされるものは多くない。名前が挙がるものはほとんど限られているから、知っていると全部有名ドコロに思えてしまう。ブロンよりはいくらかマイナーかも知れない。

この鎮静剤の主な成分は以下のとおりである。

「ブロモバレリル尿素」は、多分一般的には「ブロムワレリル尿素」として知られている。薬オタクでなくとも、例えば文学オタクであれば、芥川や太宰が繰り返し濫用していたことで知っているのではないだろうか。菊池寛が芥川から貰った薬をよく考えずに服用して昏倒したことがあったが、その時の薬も、もしかするとこれだったのかも知れない。当時はカルモチンという名前で市販されていたようである。

「塩酸ジフェンヒドラミン」は、市販の睡眠導入剤ドリエル」の主要成分である。

この薬は鎮静剤なので、とにかく眠気が凄まじい。普通の量を服用しただけでも、人によっては落ちるように眠ってしまうだろう。1シート(12タブレット)も服用すれば間違いなく眠る。アルコールと一緒に服むと相乗効果が得られる。医者が聞いたら青筋を浮かべて怒り狂いそうな話であるが、そもそもODの時点でアカン。

あまりに眠気が凄まじいので大抵は眠りこけてしまうが、無理矢理に起きていると、呂律が回らなくなったりするようだ。いわゆるラリ系に属するのだろうか。詳しいことはよく知らない。なにしろ、起きていても記憶を無くす、いわゆる健忘の症状が出る。朝起きると物の配置が変わっていたりして驚いたものである。

レスタミンUコーワ錠|興和-kowa-


本来であれば、この薬は抗アレルギー剤だ。

下記が主要成分。

上に挙げた伊丹製薬の「ウット」と同様に、この薬にも「ジフェンヒドラミン塩酸塩」が含まれている。売る人か買う人でなければ知らないと思うが、エスエス製薬の「ドリエル」は馬鹿みたいに価格が高い。それで、同じ成分がドリエルよりも安く手に入るということで、この薬に目をつけたラリ中がいたわけだ。

しかし、この薬は最悪だ。人によっては良く効くのだろうか。おそらくそんなことはないのだろうが、とにかく不快感が強い。病気で体調を悪くしているのと変わらないし、大して眠気が来るわけでもない。体調不良を好む変人でなければ、この薬をODするのはやめておいた方が良いだろう。

その他

もはや薬品ですらないが、こんなものが「効く」という話も世に流れていたりする。実際、効くことは効く。悪い方に効くのは言うまでもない。そうでなければ規制されているのが世の道理である。カンナビノイドへの執拗な法規制を見れば、そのことは明らかだろう。自生しているものに対してでさえそうなのだから、輸入品など当然規制の対象である。規制されていないということは、ろくな効き方はしないということだ。故に誰も常用はしないということである。やめておいたほうが良い。