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iPhoneは真のイノベーションと呼べるか? 本当の問題解決をもたらすための、最もシンプルな方法とは

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iPhoneは真のイノベーションと呼べるか? 本当の問題解決をもたらすための、最もシンプルな方法とは
失敗続きだった発展途上国への支援を成功に導いたのは、金でも技術でもなく、「視点を変える」それだけでした。アフリカ諸国で国際協力機関との農業ビジネスや、教育プロジェクト、その他様々な活動に携わっている牧浦土雅氏が、視点を変えるだけで得られるイノベーションの起こし方を語りました。( より)

【スピーカー】
e-Education Project ルワンダ代表 

【動画もぜひご覧ください!】
Simple innovation makes a big difference: Doga Makiura at TEDxYouth@Kyoto 2013

最新技術だけではない、もうひとつの”

牧浦土雅氏(以下、牧浦):イノベーション(革新・改革)とは、何でしょう。人それぞれによって、答えは異なるでしょう。ある人にとっては、一週間で10kg痩せることかもしれません。ある人にとってはこんなふうに、クリックひとつでスライドが表示されることかも。

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しかし一般的には、イノベーションとは、今まで誰も見たことのない何かを作り出すもの、そしてそれによって私たちの今までの生活が劇的に変化するもの、などと考えられていると思います。

会場の皆さんにもお聞きしたい。皆さんは、イノベーションとは、何だと思いますか?何か思いつくものを言ってみてください。

来場者:AKB48!

(会場笑)

牧浦:いいですね(笑)。知らない人もいるかもしれませんので説明しますが、「AKB48」は日本で有名なアイドルグループです。熱狂的なファンが多いのですよ。他に、何か思いついた人はいますか?

来場者:iPhone!

牧浦:iPhone、とてもいい例ですね。

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牧浦:僕もちょうど、スライドを用意していたのですよ。今発言してくださった彼は、まるで僕がこのスライドを使うのを知っていたようですね。

(会場笑)

彼は僕の友達で、サクラをやってくれているとかではないのですよ。もちろん、これから友達になるかもしれませんが。iPhoneは典型的なイノベーションの対象ですよね。しかし、僕のイノベーションの定義は、こうです。「新しいチャンスと、その価値を社会に提供すること」。

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失敗し続けてきた発展途上国への支援

さて、ではこの定義が何を意味しているのか、そして僕がなぜこれを信じているのかを説明しようと思います。

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世界では、まだ多くの人々が貧困に苦しんでおり、その数は12億人にも及ぶと言われています。こんなにも多くの人々が、一日約130円以下の生活を送っているのです。

このような人々にとっては、iPhoneやAKB48、もしくは、きゃりーぱみゅぱみゅとか、又はタブレットを持ってゲームをしたり、Instagramのアプリを使ったり……そういうことは、無意味ですよね。いうならば、貧困層の人々が、iPhoneやタブレットを使って何かチャンスを得たり、それに価値を見いだしたりすることは難しいでしょう。彼らにとって、iPhoneやタブレットはイノベーションではないのです。

僕は、これらの12億もの人々の生活が発展することこそが、イノベーションだと思います。新しいチャンスと、その価値を彼らの社会に提供するのです。12億というのは、世界の人口の25%を占めます。なので、これらの25%もの人々の生活が発展することによって、世界はより可能性を秘めたものになりますよね。

しかし、私たちがするべきことは、彼らを助けることではないのです。私たちは彼らと共に、平等な関係で、発展していくべきなのです。僕にはこれがとても魅力的なことに見えます。では、どうやって彼らの生活を発展させて、彼らの社会に新しいチャンスと、その価値を提供することができるのでしょうか。

名の知れた国際機関だとかが今まで行ってきた、小難しいプロセスが必要な支援だとかは、今まで散々発展途上国への活動をしてきたにも関わらず、あまり成功しているとはいえませんよね。それどころか貧困や格差はますますひどくなっています。それは、そのような団体のトップダウン的な構造や、彼らをあくまでも「助ける」という目線でしか活動を行ってこなかったことが原因になっている、と僕は思います。

この写真を見てください。

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これは井戸なのですが、どこかの国際機関が作ったものです。しかし、この井戸は今では使えない状態です。なぜかというと、井戸が壊れてしまって、現地の人は誰もどうやって直すかを知らないからです。これでは、支援が全くの失敗に終ってしまっていますよね。

ルワンダの農民が本当に必要としていたこと

では、僕の活動について説明しましょう。僕も最初は、ルワンダで、先に述べた国際機関のような失敗をしたことがあるのです。ルワンダは東アフリカにある小さな国です。1994年に起こった大量虐殺や、マウンテンゴリラなどで有名ですね。

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マウンテンゴリラについて話すわけではないのですが、僕は個人的にもマウンテンゴリラが大好きですし、みなさんにも写真を見せたくてスライドに載せてみたのです。

(会場笑)

ところで、アフリカの他の国でもそうであるように、ルワンダでも農業は国の重要な産業です。ルワンダでは人口の80%もの人々が農業に従事しています。しかし農家の人々は、自立出来る程の農作物を作ることができていませんでした。僕は最初、ルワンダ政府と共に農業の発展のための活動を行っていました。ルワンダ政府は 畑の耕し方や、肥料について等の農業のノウハウを持っていましたから、貧困層にその技術を提供したのです。

しかしながら、それは全く成功しなかった。それによって貧困が解決されたわけではないのです。それは、僕がトップダウン手法をとり、自己中心的で、自己の視点からのみなぜ農家の人々がうまく農業で生活を営むことができないかばかりに気をとられていたからです。それが間違いとも気がつかずに。

そこで、僕は気がついたのです。まず、彼ら農家の人々が直面している貧困とは何かを理解しないと、根本的な問題の解決はできないのです。

それから僕は、農家の人々と直接対話することを重視するようになりました。それにより初めて分かったことは、彼らは、本当は農作物の作り方が分からないのではなく、農作物の販売の仕方が分からなかった、ということなのです。僕は、市場に出されずに残ったたくさんの農作物を目の当たりにしました。これがその画像です。これらは、去年彼らが育てた、トウモロコシなのです。

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彼らと話すことによって、彼らが農作物の販売先を知らなかったということに初めて気がついた僕は、その解決方法を探りました。

そのころ僕は、国連の人と知り合いました。彼は、「ウガンダの隣にある国コンゴでは、内戦によって難民が多数にのぼっており、日々増加する難民に対して食料を供給することが必要である」と話してくれました。

その時僕は気がついたのです。ウガンダの農民は、農作物の買い手を探している。国連は、難民に供給する食料を探している。……わかりますね、とてもシンプルです。ここで市場における需要と供給がマッチしたのです。

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その後僕がしたことは、非常に単純です。ウガンダの農民たちと国連をつなぎ、市場を形成することです。その後、農民たちは国連へトウモロコシを供給し、国連は難民にそれを提供することができました。農民たちはそれによって収入を得ることができ、国連は足りなかった難民への食料を提供することが出来るようになった。

「固定概念にとらわれない」というイノベーション

この経験を通して僕が学んだことがあります。何か問題を解決するにあたっては、いままでの常識にとらわれずに、固定概念を取り払って、新しい観点から物事を見ることがとても大切だということです。ウガンダで僕がしたことは、単純に、農民、国連支援団体、難民、の三者間を受け持っただけです。

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しかしこの単純な仕事によって、僕はウガンダの農民の生活に、革新的な変化を与えられたと思います。この三者間のコネクションを作ることによって、彼らはこれからも自立して農業を営むことができるチャンスを掴むことができ、そしてそれによって形成された市場は、彼らにとって大変価値のあるものになるでしょう。

市場を形成した彼らは、これからより彼らの農業を発達させ、拡大させ、貧困を乗り越えていくことができると思います。そのような機会を彼らに提供することによって、世界はより活発な場所になることができるのです。僕は、これこそが本当のイノベーションだと思いました。新しいチャンスと、その価値を社会に提供し、大きな変化をもたらすこと、です。

もちろん、みなさんも疑っているかもしれないですが、実際はそんなにいつも単純に物事が解決するわけではないし、それにはたくさんの複雑な事情が絡み合って、うまくいかないこともあるでしょう。しかし、僕はそのような問題に直面した時、アルベルト・アインシュタインの言葉を思い出すのです。

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「世界の諸問題を解決するためには、以前その問題に対する解決法を考えた時と同じ考えをしていては、何も解決しない」

この言葉は、僕がみなさんに伝えたいことをよく表していると思います。

僕が今日、みなさんに伝えたいことは、こうです。ある問題に直面した時、それを革新的に解決するためのポイントは、まず「固定概念にとらわれない」です。僕が行っている世界の貧困をなくすための様々な活動も、従来通り、寄付金・チャリティ・援助活動……、これらのありきたりの事を行っているだけでは、何も物事を根本的に変えることができないのです。

問題に直面したら、まず、問題の核心は何か、解決する本当の目的は何か、どういう変化をもたらしたいのか、を考えます。そして、それらの解決のためには、実際にそのフィールドに足を踏み入れ、問題に直面している者と同じ視線で共に考え、アイデアを共有します。そうすることによって、多くの問題が解決していくと思うのです。

この解決方法は、とてもシンプルなものですよね。でも、このシンプルな方法に取り組むことによって、革新的な問題解決へと導かれ、大きな変化をもたらすことができるのです。そうしていくことで、僕たちはこの世界により良い変化をもたらすことができるのです。

そうです。僕らの社会に新しいチャンスとその価値を提供するイノベーションは、あなたが思っているよりももっとシンプルに実現できるのです。ご清聴ありがとうございました。 

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