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俺とお前と死体だけの世界 - 『チェインド』 - 1953ColdSummer

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俺とお前と死体だけの世界 - 『チェインド』


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ェインド
CHAINED
2014(2012)/カナダ 監督/ジェニファー・リンチ 出演/ヴィンセント・ドノフリオ/エイモン・ファーレン/エヴァン・バード/ジーナ・フィリップス/他 
9年後に知る
数奇な運命――



 デヴィッド・リンチさんところの孺子(こぞう)がまた新作を撮っておったので観た。
 とは言い条、前作『スピーシー・オブ・コブラ』(感想)からは4年、復帰作『サベイランス』(感想)からは6年経っており、『ボクシング・ヘレナ』からは11年。荒淫、じゃなかった、光陰矢のごとしである。

 ホラー映画を観に行った帰りに、タクシーを拾ったお母さんとお子さん。微笑ましい日常ですね。タクシードライバーがシリアルキラーだったという事以外は。
 ということで、お母さんをキュッとシメられてしまった少年ティムは、そのまま殺人鬼ボブに拉致監禁されてしまい、足をば鎖で繋がれ、連続殺人を繰り返すボブに奇妙な教育を施されながら成長していくのだけれども。

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 ところでこれを観ている最中は温泉卵に舌鼓を打つなどしていたのでまったく気付かなかったのであるが、本作にてシリアル・キラーを演じるはヴィンセント・ドノフリオ。はな「オーソン・ウェルズ」というよりも「微笑みデブ」のイメージを脳髄から丹田にまで直結させてしまっているわたくしめら阿呆な映画八九三に取って、これはちょっとしたご褒美めいたサプライズであり老獪さと顔の面白さを同時に滲ませたその後光に柏手を打ち合わせてしまったものです。監禁・飼育した少年に「女を知れ!」と迫るでぶ。「人体を勉強しろ!」と迫るでぶ。おっほ、今回ばかりはそんじょそこらの監禁映画じゃねえな、今回ばっかしはジェニファー・リンチ映画の殻を破ったな、と思っていた乃公、観了後、神妙な顔持ちになって。

 本作の「CHAINED」というタイトルには、物理的な封鎖よりも精神的な呪縛、凡そ親子間に生じる呪わしい血縁を被虐側から照射するニュアンスが込められている。最後の最後にあるどんでん返しや、しつこく挿入されるボブのトラウマのフラッシュバックにその拠を求めるのもやぶさかではないのだが、縛鎖から人殺しの業を背負ってしまった人間がその業を次世代に背負わせようとする、虐待を受けた人間が別の人間を加虐側に育てようとする、それが負の発露の虐待行為なのか、本人は良かれと思っている教育の代替行為なのか、「殺人鬼と監禁された子供」というこの擬似家族の紐帯に、新たな(そしてとても歪んでいる)絆がおぞましく築かれていく様子こそが「鎖」であり、寸断される物語の土台であったとも思うのだ。

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「私こそがガーリー・カルチャーよ」と言い張るソフィア・コッポラなんかと違って、ジェニファー・リンチは移り気が過ぎて常に自分自身を模索するたぐいの映画作家であろう事は私自身もその気があるので何となく察することが出来るし、青空の下にぽつんと設置されたオブジェ、本作『チェインド』で言うと殺人鬼の隠れ家兼監禁場所のような視覚的なものにしか名詞的な作家性をなかなか認められないところに、良く言えば手数の多さ、悪く言えば器用貧乏な等身大の人間を感じる。そのオブジェですら父親の本歌取りではないかという指摘には耳を塞ぐとして、彼女の挑戦はこれからもレンタルが開始されたら円盤を借りるなどして応援していきたい所存である。

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 閑話休題。
 女を攫ってきては犯して殺し、言うことに背けば殴りつけ、学習も娯楽も自分の許可したもの以外は認めないというボブの言い分に、ティム少年のこころはどんどんうつろになっていく。ラビットと名付けられまさに家畜同然に扱われていた少年であるのだが、これがボブなりの「育て方」であったと真相が明かされた時点で気付きを得、そのシニックに倦んだり唸ったり私はあなた方ではないので倦んだのか唸ったのかはよく知らんが、とにかくジェニファー・リンチが父子関係の皮肉の中指を突き付けたのだという事は理解出来るようになっている。
 父・デヴィッドとの関係にこじらせたものがあったのかな? というのは下衆の勘繰りに過ぎないが、理屈立てて普遍的な愛情とされるものに唾を吐きかけたのは父親の抽象的な悪夢との差異化を図ったのかそれとも自分なりの解釈で阿ってみたのかは藪の中である。『サベイランス』もそんな感じでしたね。が故に大きな物語に抵抗があるのか、彼女は常に小さな物語に活路を見出そうとしている。「俺とお前と死体だけの世界だ」とは本作のボブの台詞だが、これは映画の理想的なかたちを示唆していると同時に視野狭窄の危険性をも含んだメッセージである。まっことスリリングな監督である、と、次回作を待ちわびながら。


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