壁や天井などを自由に歩き回るヤモリの足は、世界の接着関係の技術者が競って研究開発を進めてきた対象だ。物質・材料研究機構(NIMS)環境・エネルギー材料部門ハイブリッド材料ユニットインターコネクト・デザイングループリーダーの細田奈麻絵氏が調べたところでは、ヤモリの接着メカニズムの関連論文は05年から07年にかけて急増した。
基本原理が発見・解明されてから5~7年すると、それを工学的に応用する研究が大きく進む。これはヤモリに限らず、「ハスの葉の撥水(はっすい)効果」「モルフォ蝶の構造発色」といったテーマでも同様であるという。
しかも、生物の微細構造を応用する材料系の論文が多かった。材料は、液晶用光学フィルムで日東電工が世界1位のシェアを持つなど、日本企業が強い分野。さらに東北大学大学院環境科学研究科教授の石田秀輝氏らは、日本は生物模倣の研究では有利であると見ている。自然は人間がコントロールすべきという西洋的な発想よりも、人間は自然の一部であるとする東洋的な自然観の方が、生物模倣技術との親和性が高いと考えているからだ。
日本企業ではシャープが、08年から生物の形状を部分的にまねて効率や性能を高めた製品、例えば「猫の舌にヒントを得たサイクロン掃除機」「海を渡る蝶にヒントを得た扇風機」などで生物模倣技術の活用を加速させている。積水化学工業も木陰を模した屋外施設用日よけ材「エアリーシェード」を発売している。
海外でも、生物模倣技術への関心は高まりつつある。中でもドイツは研究者も多く、11年にはドイツ政府の後押しで生物模倣技術の国際見本市が開かれたほどだ。生物模倣技術の概念や定義を明確化しようと、国際標準化に向けた活動を主導している。米国でも10年にサンディエゴ動物園からの委託で生物模倣技術の将来の経済効果についてレポートが報告され、25年に年間3000億米ドルの国内総生産、160万人の雇用創出があると予測されている。
20世紀中に物理や化学の基礎研究において大きな発見が一段落し、現在は基礎理論による大きなブレークスルーは得られにくくなっているといわれる。その状況の中で、生物模倣は原理面で製品のイノベーションを推進する有力な手段になっている。
(関連記事を日経ものづくり5月号に掲載)
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バイオミメティクス、前野洋平、ヤモリテープ、日東電工、ナノテクノロジー、積水化学工業
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