生物や植物などの持つ構造や仕組み、形状などを工業製品に応用しようという生物模倣技術(バイオミメティクス)の研究や製品展開が急速に盛り上がっている。日東電工はヤモリの足の裏にヒントを得た接着テープ「ヤモリテープ」を開発した。ナノテクノロジーの進化で、生物が持つ微細構造を忠実にまねることができるようになったことが技術開発を後押ししており、利用範囲は一気に広がりそうだ。
日東電工が開発したヤモリテープは、直径数ナノ~数十ナノメートルのカーボン・ナノチューブを1平方センチメートル当たり100億本の密度でびっしり並べたもの。せん断方向の接着力に優れ、わずか1平方センチメートル程度の面積のテープで500グラムを保持できる。これはヤモリの接着力の8割強程度だが、実用的な接着テープとしては遜色ない。それでいて、めくれば簡単に剥離できる。従来の粘着テープのように粘着剤が残ることはなく、テープ自体も繰り返し利用できる。
ヤモリの接着の仕組みが解明されたのは、2000年ごろのことという。電子顕微鏡でヤモリの指先を観察したところ、足の裏に細かな毛が1平方メートル当たり10万~100万本の密度で密生しており、さらに先端が100~1000本程度に分岐した構造を持つことが分かった。先端の分岐した毛の密度は、同10億本以上。この細かな毛の1本1本が、対象物に極めて近い距離まで接近するため、原子や分子間に働くファンデルワールス力によって接着する。
「この構造が重要な要因だと分かった」(日東電工研究開発本部新機軸探索グループ主任研究員の前野洋平氏)。日東電工は、当時の研究の最先端を走っていた米カリフォルニア大学バークレー校に前野氏を派遣。同校で先端部の細い毛が密集した構造をポリイミド繊維で再現してみたところ、繊維同士がファンデルワールス力で凝集してしまい、接着機能が発現しなかったという。ヤモリの足先の毛が先端部だけが細かく分かれているのは、凝集を防ぐという意味があったのだ。
前野氏らは、先端だけを分岐させる代わりに、高剛性の材料を使うことで凝集を防げると考えた。大阪大学大学院工学研究科機械工学専攻教授の中山喜萬氏らと共同で、カーボン・ナノチューブを毛のように並べたテープを開発した。カーボン・ナノチューブは直径が極めて小さく、非常に細長くできて剛性は高い。微細加工を施した基板上で生成条件を制御すると、一方向にそろって成長する。これを溶融状態のポリプロピレン基板に埋め込むことでテープ状とした。こうして、これまでとは全く異なる接着機構のテープが生まれた。
カーボン・ナノチューブを使うことから、現時点では、高価で大量供給が難しいという難点もある。このため、利用分野は当面、分析試料固定用テープに限っている。今後、量産技術を向上させ、低コスト化を図って15年の一般販売を目指す。
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