2014年7月2日05時00分
安倍内閣は1日夕の臨時閣議で、他国への攻撃に自衛隊が反撃する集団的自衛権の行使を認めるために、憲法解釈を変える閣議決定をした。歴代内閣は長年、憲法9条の解釈で集団的自衛権の行使を禁じてきた。安倍晋三首相は、その積み重ねを崩し、憲法の柱である平和主義を根本から覆す解釈改憲を行った。1日は自衛隊発足から60年。第2次世界大戦での多くの犠牲と反省の上に立ち、平和国家の歩みを続け、「専守防衛」に徹してきた日本が、直接攻撃されていなくても他国の戦争に加わることができる国に大きく転換した日となった。
■首相「新3要件、歯止め」
首相は1日の記者会見で「現行の憲法解釈の基本的考え方は何ら変わることはない」と述べた。一方で、歴代内閣が集団的自衛権の行使を禁じる根拠とした憲法9条との整合性については詳しく語らなかった。
首相は当初、憲法改正手続きを定めた憲法96条を改正することで、憲法を変えるハードルを下げようとした。しかし、改正の機運は盛り上がらず、憲法解釈の見直しに方針転換した。
今回の閣議決定は、海外での武力行使を禁じた憲法9条の趣旨の根幹を読み替える解釈改憲だ。政府は1954年の自衛隊発足以来、自国を守る個別的自衛権の武力行使に限って認めてきた。しかし、閣議決定された政府見解では、日本が武力を使う条件となる「新3要件」を満たせば、個別的、集団的自衛権と集団安全保障の3種類の武力行使が憲法上可能とした。
首相は会見で「いままでの3要件とほとんど同じ。憲法の規範性をなんら変更するものではなく、新3要件は憲法上の明確な歯止めとなっている」と強調した。
しかし、これまでの政府の3要件には「我が国に対する急迫不正の侵害があること」という条件があり、日本は個別的自衛権しか認められないとされてきた。新3要件は「他国に対する武力攻撃」を含んでおり、集団的自衛権を明確に認めた点で全く異なる。さらに首相が「歯止め」と言う新3要件は抽象的な文言で、ときの政権がいかようにも判断できる余地を残している。(円満亮太)
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米国防総省は1日、「日本政府の集団的自衛権に関する新たな政策を歓迎する。この歴史的な取り組みは日米同盟における日本の役割を強化することになる」との談話を発表した。
■危うい「全て首相の意向」
「日本人の命を守るため、自衛隊が米国の船を守る」。1日に首相官邸で開かれた記者会見。そう語る安倍晋三首相は傍らに、自らの指示で作らせた母子らが乗った米艦のパネルを置いた。集団的自衛権の議論に入る直前の5月15日の記者会見と同じものだ。
自らの信じる結論に突き進む。「安倍さんを見ていると、正直、強引だなと思うことはある」。閣僚からもこんな感想が出るほど、今の首相は止められない。
昨年末の特定秘密保護法。なりふり構わぬ法案審議に批判が集まり、首相は「丁寧に説明すべきだった」と謝罪した。5月の会見でも「与党協議は期限ありきではない」と熟議を約束。そこから50日も経たないうちの閣議決定である。
「これは総理の悲願だから」。首相官邸の高官や自民党幹部から連日こんな言葉を聞く。集団的自衛権がなぜ必要か。なぜいまか。すべてが「首相の意向」で退けられ、疑問を差し挟む余地はない。一昨年の衆院選と昨年の参院選でねじれ国会を終わらせた首相の力は、政府・与党内で強い。
しかし、いずれの選挙でも、集団的自衛権は公約の中心にはなかった。参院選ではむしろ憲法改正を説き何より経済政策への支持で今日の政権安定を得た。
そうして獲得した権力をまるで白紙委任されたように使い妥協しない。歴代内閣が禁じたことを「できるようにした」のに「憲法解釈の基本は変えていない」と言う。その矛盾に、首相は向き合おうともしない。(冨名腰隆)
■閣議決定のポイント
◆密接な関係の他国に武力攻撃が発生し、日本の存立が脅かされ、国民の権利が根底から覆される明白な危険がある場合、集団的自衛権を含む「自衛のための措置」を可能に
◆自衛隊の国連平和維持活動(PKO)などで、自衛隊が武器を使える場面を拡大
◆自衛隊が他国軍に後方支援する場所を「非戦闘地域」に限る制約は撤廃
◆キーワード
<武力行使の新3要件> (1)我が国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合に、(2)これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がない時に、(3)必要最小限度の実力を行使すること――という内容。
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