たとえ検察に送らない事件であっても、無関係の事件を容疑者に押しつければ、冤罪(えんざい)に当たる。許されるはずがない。

 窃盗事件の検挙件数を不正に操作したとして、滋賀県警大津北署と三重県警松阪署の署員だった3人が書類送検された。

 いきさつはこうだ。

 大津北署が昨秋、松阪市で起きた2件の窃盗事件で容疑者の男を逮捕した。しかし、いずれも松阪署が別の容疑者の余罪として誤って検挙していた。

 そこで松阪署はまったく関係のない別の未解決事件の情報を提供し、大津北署がそれを男の余罪として不正に警察庁のデータベースに入力した。

 いずれの事件も、捜査の効率化のため警察庁が89年に制度化した「不送致余罪」とされた。容疑者の余罪が多いとき、送検はしないが、統計上の検挙件数には数える仕組みだ。刑法犯の検挙総数の12%にのぼり、窃盗犯に限れば17%にも及ぶ。

 警察庁は「犯罪の処理状況を把握するためのもので、被疑者の権利に影響しない」という。だが、それは正しく運用されてのことだ。今回の問題を単なる統計処理の不手際に矮小(わいしょう)化してはならない。

 無関係の事件を押しつけられた者が、民事訴訟で損害賠償を求められる可能性もある。真犯人を特定する機会が失われれば、被害者への裏切りだ。犯罪統計の信頼も落ちる。

 そもそも何より重大なのは、警察組織そのものに対する市民の強い不信を招くことだ。

 不送致余罪の処理は、被害届と被疑者の供述調書、捜査報告書などをそろえ、署長の決裁を経て行う。送検した事件と違い、警察内部だけで完結する。

 だが、今回は署長決裁もないままだった。「データをいじってでも実績を上げたい」「ミスを隠したい」。そんな身勝手な考えがあったのではないか。

 不送致余罪をめぐっては、2年前にも新潟県警の警部が検挙件数を水増しして書類送検された。署長の決裁なしには入力をできなくするなどの改善は最低限必要だが、それ以上に重要なのは、組織のあり方自体を見つめ直すことではないか。

 発覚すれば問題になると誰でも分かる。それでも不正が絶えないのはなぜか。ミスを素直に報告するより、隠蔽(いんぺい)してでも責任逃れをしたい。そんな行動に向かわせる風土や体質が組織にないか。警察官の心理にも分け入った分析と対策が必要だ。

 市民の信頼あっての警察だ。組織の基本的な倫理向上に不断の努力を注いでもらいたい。