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集団的自衛権きょう閣議決定/民権無視の横紙破り/編集局長・鈴木 素雄

 思い立って先週末、東京・五日市町(現あきる野市)を訪ねてきた。元仙台藩士、千葉卓三郎が1881(明治14)年、憲法私案「五日市憲法」を起草した場所。草案が発見された土蔵はつづら折りの山道の先、咲き誇るアジサイに囲まれるようにしてあった。
 案内してくれた「五日市憲法草案を東京・日本の宝に!」会員の鈴木富雄さん(74)が言う。「1年間で約540人が草案を学びに見えています。憲法に対する関心が高まっているんですね」。千葉の遺徳に学び、地域から護憲の声を上げようということなのだろう。会の略称は堂々の「五憲の会」である。
 千葉は宮城県志波姫町(現栗原市)出身。医学やキリスト教などを学んだ後、小学校の教師として五日市町に赴任した。草案は204条中、36条にわたって国民の権利を明記。現憲法の人権規定に通じる先駆性を、多くの研究者が高く評価している。
 草案をめぐっては、皇后さまが昨年10月20日の誕生日に寄せて、宮内記者会の質問に文書で回答されている。「19世紀末の日本で、市井の人々の間に既に育っていた民権意識を記録するものとして、世界でも珍しい文化遺産ではないかと思っています」

 安倍晋三首相がきょう、憲法解釈を変えて集団的自衛権を使えるようにする閣議決定に踏み切る。一定のたがをはめてはいるが、政権の都合次第で発動は限りなくフリーハンドに近づく。これまでの安全保障政策の大転換である。
 首相に読んでもらいたい千葉起草の条文がある。「第5章 国憲ノ改正」。憲法を改正する時は特別会議を召集すること、両議院の3分の2の議決を要すること…。要は「きちんと手続きを踏みなさい」と書いてある。国の最高法規だからこそ、権力者による恣意(しい)的な改正を禁じているのだ。
 首相はかつて改憲のハードルを下げることを意図し、憲法96条を改正しようとして世論の反発を招いた。筆者はこれを「野球で貧打に悩むチームが『三振』を『四振』に変えろ、と言うに等しい」と本紙で批判した。

 今回はルールこそ変えないが、ストライクをボールと判定する仕儀だ。首相は解釈という「主観」を潜り込ませることによって、選手兼審判の座を射止めようとしているように見える。千葉が想定だにしていなかった禁じ手というほかない。
 「あきる野9条の会」事務局長の前田真敬さん(70)は「安倍さんは憲法解釈をめぐり『最高責任者は私だ』と言った。権力者に勝手なことをさせないという立憲主義の理念が揺らいでいる」と危機感を口にする。
 千葉は憲法草案起草に先立ち「五日市学芸講談会」を開催、地元の素封家や青年らと激論を交わした。草莽(そうもう)の臣たちが理想憲法に込めようとした自由民権の気風から、安倍首相はいま最も遠い位置にある。


2014年07月01日火曜日

関連ページ: 宮城 政治・行政

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