河北春秋
  • 記事を印刷

 田中美知太郎さんという有名な哲学者がいた。京都大で長く教壇に立った人で、ソクラテスの研究が専門。その人の言葉に「平和憲法だけで平和が保障されるなら、ついでに台風の襲来も、憲法で禁止していればよかったかもしれない」

 ▼戦後ずっと、曲がりなりにも日本が平和でいられたのは、憲法9条のおかげばかりではない。日米安保条約があり、各国との外交交渉があり、自衛隊の存在があってのことだろう。平和を維持するには多面的努力がいる▼他国民を拉致して恥じない国があり、他国の領土に船や戦闘機で近づいて挑発する国がある。強面(こわもて)の指導者をいただく国もある。平和の理想に程遠い世界の現実の中で、今後も長く、わが国が平和を守るためにはどうすればいいのか

 ▼きのう、憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認する閣議決定を政府が行った。集団的自衛権といっても「よく分からない」と答える国民も依然として多く、国民的な関心もまだまだ十分には高まっていない中での閣議決定と言える▼<名目はともあれ参戦出兵と後の歴史に記されぬべし>。島津忠夫さんという歌人の短歌にある。もろ刃の剣の集団的自衛権だ。この危険な剣を抜かずにすむ、今より困難な努力をする覚悟が政府にあっての決定だったか。


2014年07月02日水曜日

Ads by Google

先頭に戻る