ワールドプレミアが開かれた英国現地レポートトレックから超軽量ロードバイク「エモンダ」登場 最軽量のSLR10は完成車で4.65kg
TREK(トレック)から、これまでの常識を超える超軽量ロードバイク「Émonda」(エモンダ)が登場した。まもなくツール・ド・フランス2014が開催されるイギリス・ハロゲートで7月1日、世界中からサイクル・ジャーナリストを集めてワールドプレミアが開かれ、完成車重量わずか4.65kgの真新しい車体が披露された。(英ハロゲート 柄沢亜希)
軽量化のためカーボン繊維の1本1本を適正配置
エモンダはフランス語の動詞で「削ぎ落とす」という意味のémonderから名付けられた。3年の歳月を費やした開発プロジェクトは、まずフレーム形状を最適化することからスタート。その際、他に類をみないほど厳格な基準が設けられた。カーボンフレームは、ともすれば性能よりも見栄えが優先される場合があるが、エモンダのカーボン繊維は一本一本が「史上最軽量のロードラインナップを作る」ために、適正に配置されているという。
発表会でのプレゼンテーションでは、開発責任者のロードバイク部門プロダクトマネージャー、ベン・コーツ氏が狙いを説明。「(製品開発の)ゴールは軽量であること」という説明とともに、「4.65kg」という驚異的な重量がアナウンスされると、会場からどよめきが起こった。
その後、ジャーナリストたちは写真を撮るため思い思いにエモンダに張り付いた。中でも、はかりに吊るされたエモンダの最軽量モデル・SLR10は注目の的に。4.65kgを指す目盛りを撮影したり、実際にその重さを確認すべく下ろしてみたりと、ひっきりなしに試されていた。
まるで羽根! いや、空気という言葉さえ浮かぶ軽さ
ただ、トレック ファクトリーレーシング参戦するUCI(国際自転車競技連合)公認レースは、車両の最低重量が6.8kgと規定されており、エモンダSLR10はそのままでは出場することができない。なぜ、その規定をはるかに下回るほどの軽量バイクを目指したのか? 開発責任者のコーツ氏に尋ねると、「まず初めに聞きたい。持った時にどうだった?」と、逆に記者が質問された。
プレゼンテーションの時点では4.65kgと聞いても、記者はその凄さにいまいちピンときていなかった。そこで、百聞は一見にしかずとばかりに、空いたエモンダSLRを持ってみると…まるで羽根! いや、空気という言葉さえ浮かんできた。各国のジャーナリストも、代わるがわるエモンダSLR10を持ち上げてみて、皆が口々に驚きの声を上げた。冗談ではなく、人差し指で軽々と持ち上げられる自転車が登場したわけだ。
さっそくその興奮を伝えると、コーツ氏は、軽さによって驚かせることが喜びであるかのように笑い、うなずきながら語った。
「どれだけのサイクリストがUCIレースに出るかってことだよ。軽くて悪い気はしないでしょ?」
その言葉は、“UCI規定”を超越すること、それ自体が目的であるかのようにも聞こえた。
わずか5gの特殊塗装も導入
ただ、エモンダSLRはすでに6月にフランスで開催されたUCIレース「クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ」からトレック ファクトリーレーシングによって実戦投入されている。6月29日の全日本選手権ロードレースでも、同チームの別府史之選手がエモンダを駆って戦った。
UCIの最低重量規定はどのようにクリアしたのだろうか? チームスタッフのアンドリュー・ロッシュさんは、こう明かしてくれた。
「性能に影響をおよぼさないボトルケージのうしろに、適切な重さに調整した“おもりバー”をセットしている。外からも見ることができるよ」
その上で、ロッシュさんは興味深い話を続けた。
「UCI規定よりも軽いバイクは、すでに6年前には存在していた。科学と技術が進歩したいま、UCI規定が再検討されることを願うよ!」
エモンダSLRはカスタムプログラム「プロジェクトワン」の対象になっているので、お気に入りのカラーをオーダーすることもできる。その際、軽さを生かすためには、「通常80~120gの塗装を5g以下になるように抑えたトレックの特殊塗装『ベイパーコート・スキン』が相性抜群」ということだ。
史上最軽量のロードラインナップ
ハイエンドモデル、エモンダ SLR 10は無駄を削ぎ落としたことで、4.65kgという重量を実現した。フレーム素材に最先端の性能を誇るトレックのOCLVカーボンを使用し、厳しい条件をクリアした軽量パーツだけを採用した結果だ。
エモンダの開発について、プロダクトマネージャーのベン・コーツ氏は次のように語った。
「トレックにはフレームだけでなく、パーツを含めた“完成車”を開発できる強みがあった。その強みを生かし、“ロードバイク”という乗り物を一から考察し、個々のパーツがその他の部分に与える影響を何度も見直し、最も軽量なバイクにふさわしいパーツを見つけていった」
条件に合うパーツが市場にない時は、開発チームが自ら軽量パーツを生み出した。ハンドルバーとステムを一体化した「XXX(トリプルエックス)インテグレーテッド バー/ステム」と、軽量で制動能力にも優れるブレーキキャリパー「スピード ストップ ブレーキ」はこうして生まれたものだ。
ハンドルバーとステムは一体化することで75gの軽量化。ブレーキはマウントにダイレクトに装着することで使用するボルトを2本におさえ、前後キャリパーで最大70gの軽量化を果たした。
エモンダはライディング性能でも今までのバイクを上回った。開発当初からテストライドとフィードバックを行ってきたボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、トレック ファクトリーレーシング)は次のようにコメントした。
「軽量で、高剛性で、今まで乗ったバイクのなかで最高のバイクだ。加速性能がとにかく素晴らしい」
◇ ◇
エモンダにはフレーム素材などグレードの異なるSLRシリーズ、SLシリーズ、Sシリーズがラインアップされている。フレームフィットは、レーシーなジオメトリーでSLRシリーズにしかないH1、通常のH2、女性向けのWSDの3パターン。
エモンダ SLRシリーズ
エモンダ SLR10
価格:1,590,000円
フレームフィット:H1
重量:4.9kg
メーンコンポーネント:スラム レッド 22
エモンダ SLR9
価格:1,287,000円
フレームフィット:H1、H2、WSD
重量:6.1kg(H1、2)、6.09kg(WSD)
メーンコンポーネント:シマノ デュラエース Di2
エモンダ SLR8
価格:918,000円
フレームフィット:H1、H2
重量:6.15kg
メーンコンポーネント:シマノ デュラエース
エモンダ SLR6
価格:721,000円
重量:6.6kg
メーンコンポーネント:シマノ アルテグラ
フレームフィット: H1、H2
エモンダ SLR フレームセット
価格:554,000円
重量:690g(フレーム)、280g(フロントフォーク)
フレームフィット:H1、H2
エモンダ SLシリーズ
エモンダ SL8
価格:550,000円
重量:7.06kg
メーンコンポーネント:シマノ デュラエース
エモンダ SL6
価格:369,00円
重量:7.39kg
メーンコンポーネント:シマノ アルテグラ
ほか4モデル
エモンダ Sシリーズ
エモンダ S6
価格:299,000円
重量:8.38kg
メーンコンポーネント:シマノ アルテグラ
エモンダ S5
価格:229,000円
重量:8.74kg
メーンコンポーネント:シマノ 105
ほか2モデル
<取材協力・トレックジャパン>