毎度「すごいすごい」と言ってる気がするのですが、今回ご紹介する『ローンスローン』もすごいです。
「はいはい、またすごいんですねー」って思った読者の皆さん、この作品の何がすごいって、コマ割りとかフキダシとかオノマトペとかの表現が完全に異様なんです。19世紀~20世紀中頃までの視覚表現や美術が担っていた希望や可能性を、これでもかとフルカラーで叩き込んだ1作です。
作品のあらすじは、宇宙に放り出された主人公が、壮大な世界観の中で圧倒的な力と力のぶつかり合いのなかで伝説の存在になっていく、というものなんですが、そんなおはなしは、皆さん正直なところもう食傷気味ですよね。問題はその描き方だと思うんです。
解説で評論家の小野耕世氏も書いているとおり、スペースオペラにはスペースオペラというだけの壮大な「音響」がありえるはず。もちろん、空気のない宇宙には、音はありませんから、スペースオペラが響かせる音は想像の中にしかない。だからこそ、マンガの出番なのです。映像には映像の表現もありえると思うのですが、マンガにはマンガでしか描けない宇宙音楽みたいなものがある、と言えるでしょう。巨大な天体が天文学的なスケールで動くときに、普通の人間の耳にはけっして聞こえない、神々の音楽がありえる…そういう壮大な話です。体験してみたくはありませんか。
本作が発表されたのは1970年。サイケデリックの時代です。薬物を摂取することで、人間の意識が拡張されうる、それによって文化も文明もアップデートされうるだろう、という期待が強く流行した時代です。本作のとくに冒頭には、このような強烈な意識改革・意識変革による知覚の圧倒的な拡大とその可能性への希望が描き出されているといえるでしょう。
あー、知ってる知ってる、なんかグニョーン・ビヨーンってやつでしょ?って思うでしょう。僕もこう書かれたらそう思ってた筈です。たしかにグニョーン・ビヨーンってしてるんですが、如何せん世界観が死ぬほど壮大なので、いわゆるトリップ感では済まない、底なしに深いリアリティの歪みみたいなのを体験することになります。
言葉だけが先歩きしてしまって、もはやさっそく凡庸な表現に成り下がってしまっていますが、「目で見るドラッグ」あるいは「読むドラッグ」として本作はその名に恥じないエネルギーを内包していると思います。非合法な手段や法律の網の目をかいくぐってドラッグを仕入れてそれにアディクトするよりも、たった数千円で本書を手に入れて耽溺するほうが安上がりですよ。
とりあえず画像検索の結果を貼っておきますので、まずはそのエネルギーを画面で確認してみてください。では良い旅を。
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